上間常正 @モード

民族衣装で暮らす部族が示す、私たちが生き残るためのヒント

  • 文 上間常正
  • 記事提供:
  • 2017年5月26日
  • 写真:「BEFORE THEY PASS AWAY」表紙(マサイ、タンザニア) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

    「BEFORE THEY PASS AWAY」表紙(マサイ、タンザニア) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

  • 写真:カザフ(モンゴル) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

    カザフ(モンゴル) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

  • 写真:ラダック(インド) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

    ラダック(インド) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

  • 写真:マサイ(タンザニア) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

    マサイ(タンザニア) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

  • 写真:カロ(エチオピア) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

    カロ(エチオピア) Photo (C) Jimmy Nelson Pictures BV, www.jimmynelson.com, www.facebook.com/jimmy.nelson.official

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 同じ自然環境のもとでずっと長く着続けられてきた服は、どれもかぎりなく美しい。人は何万年もの長い歴史の中では、ほんのちょっと前までみんなそんな服を着ていたのだ。昨年末に日本版が出版された写真集「BEFORE THEY PASS AWAY 彼らがいなくなる前に」(ジミー・ネルソン著、パイ インターナショナル社)は、そのことを一つの確かな証拠として今の私たちに気づかせてくれる。

写真特集はこちら

 この写真集は英国人の写真家ジミー・ネルソンが、1997年から30カ月かけて世界各地の辺鄙(へんぴ)な20地域に暮らす31部族の居住地を訪ね、その自然と昔のままの暮らしぶりを撮影した記録だ。気温がマイナス50度以下にもなる広大な氷原の片隅、風が吹き荒れる山岳地の一角、熱帯の森の霧にかすむアマゾンの奥地、熱に干されたサバンナ……。その多くは達するだけで危険と困難に満ちた冒険ともいえる旅だったろう。だが、そこで暮らす人々の写真から、彼らがとても純粋で誇り高く、そしてある種のやすらぎに満ちているのが伝わってくる。

 最初に登場するモンゴルのチュルク系の少数民族「カザフ」の人たち。寒い山岳の中で家畜の遊牧やタカ狩りで生きている。厚い毛皮の服をまとい、豪華な刺繡(ししゅう)を施した祭りの晴れ着に、女性は色鮮やかなスカーフ、男性はキツネ皮の帽子をかぶる。2弦のリュートとひざの上で奏でる弓のような楽器の音楽が得意で、自分たちの氏族を誇りにしている。誰もが少なくとも7代前からの祖先の名を覚えているという。

 またシベリアの「チュクチ」は、他のシベリアの氏族とは違ってロシア軍に一度も負けたことがないとのこと。ソ連の統治下でも一斉投獄や伝統文化破壊の攻撃にも耐えた。狩猟やトナカイの飼育は男たちが担い、女性は裁縫と刺繍が得意で毛皮のオーバーや、ビーズと刺繍と毛皮の縁取りで美しく飾られた小鹿の皮の打ち掛けのような服を着ている。ツンドラの厳しい気候の困難な生活の中でも、もてなしと気前のよさを重んじていて、ケチは最悪の性格的欠陥とされるという。

 パプアニューギニアの高地に住む「フリ」「アサロ」「カラム」。女は草で作ったスカート、男はコテカという性器を包むヒョウタンを着けるだけ。しかし鮮やかな色の鳥の羽根や木の実などで作った帽子や首飾り、泥のボディーペイントが、ジャングルの木々や土、川や滝のしぶきの色と見事に調和して見ほれてしまう。

 アフリカ・ナミビアの灼熱(しゃくねつ)の乾燥地。そこで暮らす半遊牧民「ヒンバ」の女性たちは、上半身は裸だがビーズを幾重にもシックな色合いの大ぶりのヘッドドレスや首飾り、ベルトが顔料で光る濃い肌の色と溶け合って映える。背が高くて細身なこともあって、美しい彫刻のように見える。

 インド西部の草原に住むイラン系の「ラバーリー」、北部高地の「ラダック」(チベット系)、カシミール州の谷間に住む「ドロクパ」(アーリア系)。そのどの部族のアクセサリーも精巧で圧倒的に華麗で、デザイン性や洗練度でもパリの老舗ジュエリーブランドも顔負けなのだ。

 どの写真を見ても重ねて思うのは、人と服・アクセサリーが風景と調和した息をのむような美しさだ。撮影者のまなざしは現代社会では稀有(まれ)となったその場面を、現代人の偏見をいっさい無しに同じ人間としての深い共感と情熱をもって写し取っている。写真集に文を寄せたマルク・ブレッセはこう書いている。

 「部族の民は私たちの歴史の一部であり、私たちの起源であり。私たちが基本とする存在である。彼らは私たちなのだ」。彼らは人間が進歩する前の姿ではなくて、本来あるべき姿なのだといってよいのだろう。

 このコラムで前に紹介した写真集「100年前の写真で見る:世界の民族衣装」(日経ナショナルジオグラフィック社)では、ヨーロッパやアジアの先進国内でも伝統衣装で暮らす人々の姿がまだかなり残っていた。グローバル化した現代産業社会の中で、そうした姿は急速に無くなってきている。彼らがいなくなれば、私たちもいなくなってしまうのではないか?

 私たちがもし生き残れるとしたら、または生き残るためには、ファッションではどんな新しいコンセプトが必要なのか。そのための大きなヒントをこの写真集が示している。

『BEFORE THEY PASS AWAY 彼らがいなくなる前に』
著者:ジミー・ネルソン 翻訳者:神長倉伸義
A4判変型(282×220mm) 280Pages (Full Color) ソフトカバー
ISBN 978-4-7562-4796-4 C0072
定価(本体価格):¥4,200+税

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