2013年秋冬パリ・オートクチュール(高級注文服)コレクションが7月初旬に開かれた。ここ数年の傾向は「普通に着られる正統派の服」だったが、今回は一転して、素材や表現に斬新な試みが目立った。プレタポルテ(高級既製服)のデザインが画一化しつつある中で、オートクチュールを再び「モードの実験場」としようとする動きが出てきた。
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インドのサリーに英国調チェック柄の股上。マサイ族風ドレスに足袋(たび)ブーツ……。クリスチャン・ディオールの新作は、これまでのシンプルでお堅い雰囲気とはうって変わった、不思議なちぐはぐさの漂うデザインだった。
基本は欧州とアジア、アフリカ、アメリカの4大陸の民族服スタイルの大胆なミックス。服の形も前と後ろではまったく違って見える。とはいえ、仕立てやディテールには上品さも。ランウエーの壁には、花を背景に舞台裏のモデルがピースサインをする映像が映しだされる。
ベルギー出身のデザイナー、ラフ・シモンズは、元々は前衛派。現地紙の取材に「これは大きな賭け。ディオールを(いまの現実の女性たちに向けて)解放したかった」と語っていた。
デビュー20周年を機に13年ぶりにオートクチュールに戻って来たヴィクター&ロルフは、もっと冒険的だった。舞台はプリントなどで波紋を再現した京都・竜安寺(りょうあんじ)の石庭。黒いシルク地のドレスを着たモデルが1人ずつ登場し、庭の石と化す。服は石形になるようにデザインされていた。
デザイナーは「禅の教えのように、静かに今をみつめる感覚が必要だと思う」と語った。ファストファッションが広がり、プレタポルテの情報がネット上に即座にあふれるようになった現状を踏まえ、「クチュールこそ実験に挑み、純粋な創造性を試す場だ」という。
今回、クリスチャン・ラクロワを迎えて本格的に復活したスキャパレリは、今後は毎回デザイナーを替えて新作を発表する。服飾デザイナーだけでなく、建築家や写真家の起用も検討中という。創始者エルザのスキャンダラスな作風を、誰がどう再表現していくのか。これもわくわくする実験といえる。
近ごろ注目が高まっているヴァレンティノも、野心的な作風だった。ロマンチックなドレスなのだが、繊細な刺繍(ししゅう)やレースの奥には図鑑にあるような動植物のリアルな柄がはめ込まれていた。「新しい美の探究は、知識への渇望から始まる」とデザイナー。
イリス・ヴァン・エルペンも、クチュールを実験場とする若手の1人だ。とげのようなケミカル素材で異様な質感を醸すドレスを並べた。
一方、常連のブランドにも力作がそろった。
シャネルは、会場を朽ちかけた古い劇場風に作り込み、立体的でモダンなスーツを提示。ジョルジオ・アルマーニは肌色の薄布を重ねた軽やかなドレスで穏やかなロマンチシズムを漂わせ、ジャンバティスタ・ヴァリもコサージュやレースなどあらゆる技を総動員して服に花を飾った。アトリエ・ヴェルサーチは、下着用のようなフックで、布を体にぴったりと沿わせた。
今回は衣服ブランドが23、高級宝飾が7、また10の刺繍や手袋の工房が協会の公式日程に参加。他に約40のブランドがイベントなどを行い、例年以上に過密な日程だった。作り手が高齢化し、顧客も次第に減る中、オートクチュールは長らく風前のともしびと言われてきたが、近年は新興国の顧客の増加や美術的な価値を認める動きなどによって盛り返しつつある。
中東やロシア、中国などからの新しい顧客には、若い女性の姿も目についた。実験場としてオートクチュールを見直す今回の動きは、そんな「モードの未来を担う女性たち」へのアピールとも思える。
(パリ=編集委員・高橋牧子)
(写真 ジャンバティスタ・ヴァリ以外はすべて大原広和氏撮影)
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