京都古文化特集

[周辺情報]着物ニューウエーブ 谷川幸さん

  • 2013年4月25日

写真:シルクショール「消えた記憶」を持つ谷川幸さん=撮影・岩瀬春美シルクショール「消えた記憶」を持つ谷川幸さん=撮影・岩瀬春美

 1200年以上もの歴史を持つ着物。そんな日本の伝統衣装をキャンバスとして、現代にメッセージを発するアーティストがいる。谷川幸(みゆき)さん。地元、京都をベースに活躍するテキスタイルデザイナーだ。

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 生まれも育ちも京都。子どもの頃から絵を描くのが好きで、中学ではすでに芸術の道に進むと決めていたという谷川さん。「ファッションが好きで、大胆なことがやりたかったから」と京都造形芸術大学の染織テキスタイルコースに進学した。谷川さんが着物をキャンバスに作品を作るようになったのには、二つの理由がある。

 一つは、成人式の振袖を自分でデザインしたことがきっかけだった。何十にも分業されている着物の制作過程の、それぞれの職人さんを訪ねた。最初は「尺も寸もわからへん奴が」と言われ、相手にしてもらえなかったものの、着物の勉強をして足しげく通ううちに、職人さんと対話ができるように。半年近く染織工場に通いつめた末、振袖は見事に完成。伝統を受け継ぐ究極の職人技に触れた経験から、着物制作の魅力に引き込まれた。

 その一方では、後継者がいない呉服業界の現状も知った。「私の着物を実現させるために一生懸命してくださった職人さんが、最後に『もう自分の代で終わり』と話されるんです。どこに行っても同じ話を聞いてしまい、ショックでした。だから私はいつかデザイナーになって、この職人さんたちと一緒に作りたい、と思うようになりました」

 二つ目の理由は、着物が実生活の中で息づくアートであることだ。「着物は、衣桁(いこう/和服掛け)に飾れば美術工芸作品ですが、人が着たら自分の作品が歩いてくれて、ファッションになります。その二つが合わさるのが魅力で、私がキャンバスにするのはこれだと思いました」。学生時代から、着物をキャンバスに精力的に作品を生み出していく。

 作品には、必ずメッセージを込める。その中でも、戦争、人種差別や、「本当は見るべき問題に気づかないふりをしていませんか」と無関心に対する問いかけなど、重いテーマが多い。谷川さんがデザインするときは、まずイメージが「ぱっと頭の中に出てくる」という。その根幹は過去の経験と深く結びついていた。それは、小学生の頃に見た広島の原爆写真。「目を背けたくなるような生々しい写真が大きく展示されていて、怖いと思った記憶が強烈に私の中で残っていたんです」と谷川さんは振り返る。

 その象徴とも言える作品が、2007年に谷川さんが制作した「消えた記憶」。燃え広がる炎、ぼんやりとピンクの煙となって空へ浮かぶ人々、極彩色の蝶が空間全体を包み込むように舞う。人間同士の争いをテーマに、鎮魂の願いを込めたこの作品は、一度見たら脳裏に焼き付くようなインパクトだ。それだけの思いを込めて生み出す作品の数々。モデル撮影では、着たときによく「ぞわっとする」と言われた。「自分の肌につけて、その作品をまとうというのは、モデルさんも気分的に思うところがあるみたいです」

 女性を美しく艶やかに見せる着物に、強烈な印象の柄を乗せ、メッセージを込めるという谷川さんの前衛的なスタイルは、学生の頃から評価が二分されてきたという。「すごく面白いと言ってくださるか、こんなもの着物ではないと言われるか、どちらかでしたね」。それでもずっと制作、発表を続けてきた。一方では、古典柄の勉強をして着物の図案が描けるようにもなった。

 その先で、谷川さんは大きなチャンスをつかむことに。それが蜷川実花監督の映画「さくらん」の衣装のデザイン協力だった。当時24歳。就職活動でポートフォリオを置いてきた会社が「さくらん」の衣装協力をすることになり、「ぜったい君に向いているから」と誘いを受けたという。谷川さんは当時、別の着物会社に勤めていたが、出向という形での参加が叶った。手がけた衣装は、1カ月半で32着。無我夢中でやり遂げた。

 その頃から仕事の幅が広がっていき、4年後の2009年に独立。同年、「夢のまた夢」だった着物をメインにした海外個展をパリで行った。11年8月には、香港で着物の大型展示をし、そこで気づいたことがあるという。それは、海外から見た日本のイメージと、日本人が思っているものとの違い。谷川さんは現地で「あなたの作品は海外の人も好きだと思う」と言われることがあった。その理由は「日本のアート作品は緻密ですごい。でもその細やかさが、海外の人には地味に映ってしまうときがある。それよりインパクトがあって、強いカラーでわかりやすいものの方が入りやすい」とのこと。

 谷川さんはこう話す。「私たちが渋いとか日本らしいから海外に持っていきたいと考えるものと、海外の人が面白いとか、これこそジャパニーズ!とおっしゃるものには、違いがあるということをふまえて、いろんなものづくりをしていったら、自分の作品も変わるだろうなと思っています」

 また「平成の時代に谷川幸という作家がいて、こんなデザインを作っていた、とひとつの波が作れたらいいなと思っています」とほほえむ。そんな大きな視野で時代を見つめる谷川さんだが、その話しぶりには気負いが感じられない。京都で生まれ育つということは、「ほんまもん」に囲まれてきた、とも言える。「京都はその辺りをふらっと散歩するだけでも、すごくいいものがそばにあります。お寺とかもそうですし。そういうところで生まれ育ったのは、すごくよかったのかな」

 現在31歳。妊娠を機に、仕事のペースを緩めた。今は5カ月の息子との日々を大切に過ごしている。「今はてんやわんやすぎて…」と笑うも、育児の合間にイメージが浮かんだらパソコンに向かって記録しておくこともあるそうだ。

 「子どもを産んで、本当の産みの苦しみを経験しましたので、これぐらいの思いで作らなきゃだめなんだなというのはわかりました」。そう語る彼女が、これからどんな作品を生み出していくのか。楽しみに待ちたい。(文・岩瀬春美)

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◇関連ページ
谷川幸 オフィシャルHP
ミホプロジェクト

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