life+design

ストーリーや作り手の顔とともに届ける 名児耶秀美

  • 文 阿久根佐和子 写真 石野明子
  • 2014年4月17日
名児耶秀美さん(撮影はすべて石野明子)

  • 名児耶秀美さん(撮影はすべて石野明子)

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 動物の形をした色とりどりの輪ゴム、カップ麺の蓋(ふた)を抑えるユーモラスな人型のフィギュア、鳥の形のペーパーナイフ……。「こんなものが欲しかった!」と思わず膝を打つ、生活まわりのアイテムを生み出すデザインブランド「+d(プラスディー)」。2002年スタートのこのブランドを牽引するのが、アッシュコンセプトの名児耶秀美さん(55)だ。商品ごとに協働するデザイナーの人となりや、それぞれのアイテムに込めた思いに重きを置く「+d」と名児耶さんにとって、“デザイン”とは一体何なのだろうか。(聞き手・阿久根佐和子)

二男で末っ子 自由に生きていたからこそ

 2002年の設立から12年が経ち、「+d」を含めたブランドで現在扱うのは100アイテム弱。種類は文房具、キッチンツール、インテリアなど生活まわりの全般にわたります。デザインは社内外のプロダクトデザイナーやクリエーターによるもので、僕らは彼らのアイデアを商品にしていくプロセスにとことん付き合い、販売するというスタンスです。

「+d」を立ち上げるまでには、実は紆余曲折があるんです(笑)。
 僕の実家は140年ほど続くブラシ屋。二男で末っ子だった僕は家業は継がないでいいと言われていたので、小さい頃から好きだった美術やデザインの方向へ進もうと、美大に入りました。
 そうして大学2年生の時に、当時高島屋のウィンドウディスプレイをしていたデンマーク人、ペア・シュメルシュアさんのアシスタントになるんです。週に3日ほどは大学そっちのけで現場にいたでしょうか。愛情を持って楽しく仕事をするペアさんから、デザインの基礎の多くを学びました。

 その縁があって、大学卒業後は高島屋の宣伝部に入り、徹夜仕事をこなしたりと忙しく働いていたのですが、社会人になって3年経ったところで父が病気で倒れ、家業を手伝えと言うんです。「好きにやっていいって言ったじゃん!」と思いつつも(笑)、業績が芳しくないと言うし、早めに親孝行をしておくのもいいかと思い切り、高島屋を辞めて実家に入りました。そうして改めて家業の内情を知ると、それまで見ていた百貨店とは規模もやり方もまるで違う。

 時代の流行と合わない物を作り続けていたり、よさを生かすプレゼンが出来ていなかったりするんです。ただ、製品の品質はどれもしっかりとしていたので、これならば、自分が学んできたデザインでブラッシュアップをしてやることができるかもしれないと思いました。社内にデザイナーなどいないので自分で商品をデザインし、さらに高島屋時代の人脈に助けられてカタログを作ったり、展示会できっちりとしたディスプレイを出したり……。それまでに普通にやってきたことを応用していき、「メーカーが作りたいモノ」から「ユーザーがほしいモノ」づくりへと変えていったんです。

 すると業績は順調に上がり、ブラシだけではなく、家庭用品全般を総合的に扱う企業へと成長していきました。そこで次にやるべきことを模索するようになりました。
 ひとつの企業をここまで変えたのは、明らかにデザインの力。それなのに、それを表に出し切れていないというストレスがあったんです。日本には、物がよければそれでいい、アノニマスなデザインこそがいいというような見方が根強くあります。僕も一方ではそれは確かに正しいと思うのですが、思いを込めてひとつの物を作り出すデザイナーが全く世に出ないとのはあまりにも寂しいなあと。
 それで次のステップは、デザイナーを前に押し出した物作りだろうと思ったのですが、兄の反対にあうんです。家業を継いでいるのは兄ですし、一つの企業に何人もの船頭は要りません。
 そこで、「ちょっと待って、本当にやらない?」と(笑)。それならば自分でやろう。そう考えて家業を辞して始めたのがアッシュコンセプトなんです。

誰も欲しくないデザインは“ゴミ”と一緒

 商品化までのプロセスはさまざまです。僕自身がひょんな縁で出会ったデザイナーもいれば、むこうからアイデアを持ってプレゼンに来てくれたことがきっかけとなったデザイナーもいる。当初のアイデアがほとんどそのまま実現するケースもあれば、やりとりの中でまるで変わってしまうものもあります。
 誤解を恐れずに言うならば、誰も欲しくないデザインは“ゴミ”と一緒だと思うから。それがアートなら、自己表現を最優先すればいい。でもプロダクトデザインでは常に、作り手とは反対側に使ってくれる人がいるものです。ユーザーが喜んでくれるものを作るのでなくてはデザインの意味はない。
 相手を考えて物をつくることが、デザインには不可欠だと思うんです。

 僕らのスタッフは皆“デザイン馬鹿”ですから(笑)、デザイナーと一緒になって各アイテムには愛情を注ぐ。それをお客様へ届けるときには、「Thank you for the good design」というメッセージと、デザイナーの顔とがきちんと見えるようにしているんです。
 それぞれのアイテムに、デザイナーの「暮らしをもう少しこういう風にしたい」とか「これがあったら暮らしが少し楽しくなる」とかいった思いやストーリーがある。この人たちがデザインしてくれたから、このアイテムができたんだ、という喜びも一緒に伝えたいんですよね。

 そうやってストーリーや作り手の顔とともに受け取ってもらえたら、デザインにももっと愛着を持っていただけるんじゃないかと思っています。

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なごや・ひでよし
 1958年東京都生まれ。武蔵野美術大客員教授。武蔵野美術大造形学部在学中、デンマーク人デザイナーのペア・シュメルシュア氏に師事。高島屋宣伝部を経てマーナに入社。2002年アッシュコンセプトを設立。生活者とデザイナーがともに楽しめるものづくりをテーマに、デザイナーブランド「+d」を発信、世界で販売する。地域発ブランドなども手がける。

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PROFILE

阿久根佐和子(あくね・さわこ)

ライター。国内外のさまざまな雑誌、書籍、ウェブなどに執筆、翻訳も手がける。写真雑誌IMAにて『GREAT MASTER'S VIEW』連載中。浅草にてマルチスペースGIN/RICH(ギングリッチ)を運営する。猫派、落語好き。


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