life+design

大きなことに気づく小さなきっかけ

  • 阿久根佐和子
  • 2014年6月26日
  

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 「んん?」と2度見して、気づいて、ふわりと笑う。志村リョウの〈カバクレヨン〉〈カバマグカバー〉〈カバコースター〉を手にした人は、そんな反応をするだろう。名前の通りに〈カバクレヨン〉は“カバ”の形をしているし、マグカバーとコースターにも“カバ”がくっついているのだ。そのため重ねることも、まとめることもできない。でもだからこそ、の愛着が、じわじわと湧いてくる。まずは第一印象で「かわいい!」と飛びついてみるのでいい。実はそれが、志村の用意した“大きなことに気づく小さなきっかけ”なのだ。

    ◇

 僕は造形作家として活動をしているのですが、元々活動のテーマに、生物の“大量絶滅”というのがあるんです。悲しいことに地球上で多くの動物が絶滅の危機に瀕(ひん)している。現代では、大気汚染や森林伐採、温暖化、密猟など人間の手で引き起こされたものなんです。

 僕は小さい頃から動物が好きで、夢は獣医になることでした。美術大学に進んでからも動物のモチーフを描いていたのですが、ある時先生から「なぜそんなに動物が好きなのか、その理由を考えてみたら」と言われて。機能がそのまま形になったような、動物の身体のラインの美しさが好きなんだと気づきました。それぞれの動物は、幾世代もの時間をかけてあのラインを研ぎすませながら変化を続け、今の形になっている。それが人間のせいで消えてしまうのはやっぱり嫌です。

 それで絶滅危惧種をモチーフにした作品制作を始めたんです。とはいえ、動物が好きというのが根本にはあるので、作っているのは絶滅危惧種だけには限らないんですけどね(笑)。

 〈カバクレヨン〉〈カバマグカバー〉〈カバコースター〉のシリーズの最初にあるのは〈カバクレヨン〉。元々、自分のために作って使っていたものなんですよ。型をつくって、ちびたクレヨンなんかをとかして流し込むとできるので。

 マグカバーもコースターも、製品化するとなると、自分で作って自分だけで使う時よりもさらに使いやすさ……持ちやすさや描きやすさが問われます。そのことは意識しましたね。元となる形は自分の手で作るので、ふっと持ちやすいところは自然と出来てくるんです。クレヨンは、首の根元のところが持ちやすいはずですよ。

 作品を作るときには、より動物に近い、細密なものを目指したりするのですが、プロダクトとして型をとって数多く作っていく時にはデフォルメしなければなりません。このカバたちも、それぞれ一目でカバと分かる境目のラインを見つけて適切にデフォルメしたものです。

 不定形なので、どのアイテムも“片づけづらい”って言われる可能性はある。でも、これは片づけなくていい、片づけたくないクレヨンであり、コースターだといいなと思いますね。カバがぴょこっとついていることで、コースターであれマグカバーであれ「自分のもの」という愛着を持つ。そうやって、動物に対する意識を持ってもらうことで、絶滅危惧種について知り、もっと言うならば地球環境を考えていくきっかけになるといいなと思うんです。

 僕はデザインを学んだわけではないけどプロダクトデザインをやっていて、でも作品制作もやっている。だから“造形作家”ってなんなの、と聞かれることがあるんです。デザイナーなの、アーティストなの、と(笑)。

 僕自身はどちらもやれる人がいていいんじゃないかと考えていますね。アートは、見た人の心にはメッセージがズバッと直線的に届くけど、見てもらえないとなかなか広がっていかない。対してデザインされたプロダクトは、円形状に多くの人へ広がっていくかわりに、メッセージの力が少し弱くなる恐れがある。強いメッセージを、円状により多くの人に届ける。そういうところを目指していきたいと考えています。

    ◇

志村リョウ(しむら・りょう)
 1985年生まれ。2008年東京造形大学サステナブルプロジェクト専攻卒業。10年同大学大学院デザイン研究領域修了。KONICA MINOLTAエコ&アートアワード 2011審査員特別賞受賞。http://shimura-ryo.blogspot.jp

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PROFILE

阿久根佐和子(あくね・さわこ)

ライター。国内外のさまざまな雑誌、書籍、ウェブなどに執筆、翻訳も手がける。写真雑誌IMAにて『GREAT MASTER'S VIEW』連載中。浅草にてマルチスペースGIN/RICH(ギングリッチ)を運営する。猫派、落語好き。


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