料理本の向こうに「生きること」が 勝屋なつみ

  • 文 吉川明子 写真 石野明子
  • 2014年9月19日
  

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 魅力ある料理本を広めたい――。書店員らのそんな思いから「料理レシピ本大賞」が生まれ、第1回受賞作が発表された。料理専門の書棚をもつ代官山 蔦屋書店の料理コンシェルジュ、勝屋なつみさんに話をうかがった。(聞き手 吉川明子)

  料理レシピ本大賞の受賞作はこちら

――「料理レシピ本大賞」が発表になりましたね。

 “料理本のアカデミー賞”といわれる「グルマン世界料理大賞」という賞がありますが、日本にもそういうのがあればいいな、と思って、私が担当する料理フロアで毎年、「代官山 蔦屋書店の料理本ベスト30」を発表してきました。『ごちそうマリネ』(河出書房新社)と『サラダ好きのシェフが考えた サラダ好きのための131のサラダ』(柴田書店)の2冊は、オープンから3年の間にうちの店だけで1千冊以上売れています。

 料理の本に少しでも親しんでほしいと思ってきたので、この賞ができたことを知って、「やった~」って思いましたね。残念ながら、私は審査員ではないのですが……。

――受賞作をごらんになって、どんな感想をもたれましたか?

 大賞を受賞した『常備菜』(主婦と生活社)や準大賞の『ごちそうさまが、ききたくて。』(文化出版局)は、今でもよく売れるロングセラーです。入賞作にも『向田邦子の手料理』など、印象的なものがありますね。
 来年からは、過去1年間に出された新刊本だけが対象になるとのことですが、ちょっともったいないような気がします。著者自身の介護体験などがきっかけとなり、いのちを支えるスープのレシピが綴られた『あなたのために』(文化出版局)をはじめ、長く読み継がれている料理本には、レシピがしっかりしているだけでなく、思想や生き方を感じさせるものが少なくありません。
 それから、料理レシピ本だけでなく、食のエッセイ本もあるといいですよね。高山なおみさんの本など読んでいるだけで作ってみたくなる本って、料理の楽しさを広げていくと思うんです。

――さまざまな料理本が出版されていますが、料理本や料理をとりまく環境についてお聞かせください。

 最近、食品偽装問題などに代表されるように、食が“ブラックボックス”化していると思います。誰がどこでどのように作ったものか分からなかったり、保存のためにたくさんの添加物が入っていたり。昔は臭いや見た目で食べ物が傷んでいることが一目で分かったのに、今ではそれすら分からなくなっています。
 それだけに、自分で作ってみると、食材がどのように生産されてきたんだろうとか、こんなに手間がかかるのに市販品があんなに安いのはどうしてだろうとか、いろんなことを考えるきっかけにもなるでしょう。
 たとえば、保存食や作りおき本ブームのさきがけになった大賞受賞作の『常備菜』が売れたのも、毎日お惣菜を買うよりも、自分で作ったものを少しずつ食べていく方がいい、と気づいた人が多かったからではないでしょうか。この本は、どこでも手に入る食材を使った、シンプルで普通のレシピなんだけど、どれも家族が喜ぶような一品になっているのがすごいなと思いました。そのシンプルさがなんとも素敵で、これ一つあれば食卓がすごく楽しくなると思います。

――有機農業にもますます注目が集まっていますよね。

 アメリカのオーガニックレストランのオーナー、アリス・ウォータースは「食べることが世界を変える。“食の革命”だ」と言いましたが、自分たちの身体のためだけではなく、次世代の子どもたちに残していく環境をどうするかということも食べることとつながっているんですよね。1冊の料理本がそんなことを考えるきっかけになったら素敵ですね。「料理レシピ本大賞」によって、料理本により興味を持ってもらいたいですし、見るだけじゃなくて作ってみて、自分の“おいしい”を探したり、食べるということを楽しみ、ゆくゆくは食べることについて考えていただければいいな、と思っています。

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勝屋なつみ(かつや・なつみ)
「代官山 蔦屋書店」料理コンシェルジュ。「医食同源」をテーマに掲げ、書籍や食品をセレクト。“書店はメディア”と考え、女性誌の元編集長として培った知見をもとに、ストーリーのある棚づくりを心がける

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