life+design

枯れても楽しめる、表情のある一輪挿し

  • 文 杉江あこ
  • 2014年11月27日
  

  •   

  •   

  •   

  •   

  •   

  •   

 世の中に一輪挿しは数あれど、これほどシュールなものは見たことがない。頭をもげたような人形の姿をしているのだが、花を挿し入れると、花が人形の「顔」になるのだ。そして、花の種類や時間の経過によって「顔」は表情を変える。その名も「フラワーマン」。坂本史と内山知美がドイツ留学中に生んだ作品である。

   ◇

 私たちは元々、日本で同じ大学の研究室出身の先輩後輩の関係だったのですが、お互いをよく知ったのは、ドイツのハノーファ専科大学に留学しているときでした。

 日本では現代美術表現を専攻していたのですが、ハノーファ専科大学ではプロダクトデザインコースに進みました。平面での表現を得意とする坂本と、立体での表現を得意とする内山。そこで、私たちがユニットを組んで取り組んだ課題作品が、フラワーマンなのです。

 発想のきっかけは、ドイツに住んでいる間、坂本が花を買ってきて家に飾るという習慣ができたことでした。日本ではそんな習慣はまったくなかったのに、気軽に花を買ってみようと思える、何か優しい空気があったのでしょう。ただ、ドイツでは、いつまでも花を真っ直ぐ立てておくために、茎に針金を通して売っていたのです。

 それを見て、花は自然なままの姿であってほしい、と思いました。それは西欧人にはない、日本人らしい考えなのかもしれません。そこで、私たちは、花が枯れていく過程も楽しく見せられるようなプロダクトを作ろうと考えたわけです。

 坂本が描いた落書きのようなイラストに内山が形を付けるというように、コンセプト作りやドローイング、粘土での試作を2人で進めていきました。

 フラワーマンがふっくらとした体形をしているのは、当時、内山が住んでいたアパートメントのオーナーがいかにもドイツ人らしく太った人で、彼を勝手にモデルにしたためです。有機的な花を飾るのに、身体は角張った形よりも、真っ白でつるんとした形の方がしっくりくるとも思っていました。なにより、花を擬人化したのは楽しんで見てもらうためでした。

 こうしてフラワーマンの模型を完成させて、授業でプレゼンテーションしたら、「日本人らしい」と教授から評価されました。「枯れていくことが美しいという着眼点がポエティックだ」と。

 その後、毎年ドイツで開催されている国際消費財見本市「アンビエンテ」の学生ブースに出品したところ、会場で陽気な日本人のおじさんに出会いました。それがアッシュコンセプトの名児耶秀美さんでした。アッシュコンセプトの商品はミュージアムショップや雑貨店などで見たことはあったものの、名児耶さんのことをまったく知りませんでした。

 それでも、名児耶さんはフラワーマンを見るなり、「いいね、商品化しませんか?」と声をかけてくださったのです。

 実際に商品化に向けて動きを始めたのは、私たちが日本に帰国した半年後でした。当初はスタンディング(立ち)とシッティング(座り)のほかに、ライイング(寝姿)の案もあったのですが、生産方法が難しいことから取りやめになりました。

 商品化に当たっては、スタッフ内でも「恐い」と「面白い」とに意見が分かれたそうです。それでも、名児耶さんは「10人に1人が買ってくれる商品があってもいい」と言ってくれました。まったく同感でした。

 プロダクトデザインはコストや機能性などが重視されるものですが、そこに驚きや発見、情緒的なものが加わってもいいのではないか、と私たちは思っています。そうであればなおさら、私たちが日本で学んでいた現代美術にヒントがありそうです。機会があれば、また2人で商品づくりに挑みたいと思います。

    ◇

坂本史
1987年、熊本県生まれ。2014年、広島市立大学博士前期課程(芸術学研究科造形計画専攻現代表現領域)修了。

内山知美
1990年、山口県生まれ。2014年、広島市立大学芸術学部(デザイン工芸学科現代表現領域専攻)卒。

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

杉江あこ(すぎえ・あこ)

1973年、愛知県生まれ。95年から、デザイン、アート、文芸、暮らし、食、自然環境などを専門に、雑誌、書籍、ウェブマガジンの編集・執筆に携わる。2014年、「意と匠研究所」を下川一哉と共に設立。http://www.itoshow.co.jp


&wの最新情報をチェック

Shopping