ノーザンテリトリー特集

アボリジニの壁画を追った旅 石川直樹<前編>

  • 2015年2月20日

石川直樹さん(撮影 石野明子)

  • 石川直樹さん(撮影 石野明子)

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  • 写真集『NEW DIMENSION』(赤々舎)から

 オーストラリアの先住民アボリジニの壁画を追い、ノーザンテリトリーを旅したという写真家の石川直樹さん。ファインダーに、石川さんの目に映った聖地の風景とは。(文 中津海麻子)

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――ノーザンテリトリーには、写真集『NEW DIMENSION』(2008年、赤々舎)の撮影で行かれたのだとか。

 写真集の撮影だけのため、というわけではありません。もともと壁画に関心があって、世界にある先史時代の壁画を撮影していて、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、インドなどを旅する中で、オーストラリアのノーザンテリトリーも訪れました。それが後になって、写真集になったんですね。オーストラリアの北端に近い、カカドゥに軽飛行機で入り、そこからアリススプリングスまで、アボリジニの聖地をめぐりながら約1カ月間、車で移動して撮影しました。

――ノーザンテリトリーの壁画とは、どのようなものなのでしょうか。

 先住民アボリジニによって描かれています。彼らは書き文字を持たないため、口承で色々な歴史を受け継いできたのですが、自分たちの祖先がどこからきて、どう生きてきたのか。壁画はその足跡を記したアーカイブでもあります。さらに、ほかの地域の壁画の多くが先史時代の遺物であるのに対し、ノーザンテリトリーのそれはアボリジニによって今も描き続けられていて、現代に生きる彼ら彼女らにとって、意味を失っていません。まるで図書館に蔵書が増えていくように壁画が描き続けられていく。世界的に見ても、めずらしいものだと思います。

――旅をしていて印象に残ったことは?

 観光地ではない地元の人しか知らない山に入るときは、アボリジニの方にガイドをお願いしました。その人は画家で、ヨレヨレのシャツに破れたジーンズに裸足という一見すると怪しいおじさんなんですが、道なき道を地図も持たずにどんどん進んでいく。また、突然しゃがみ込んで、「ここに壁画がある」と促されて、岩影を見ると、そこに壁画があったりする。彼は、彼のコミュニティで共有されていることを、僕に伝えてくれているにすぎないのですが、目の前の風景の見方が自分と違うことにただただ驚きました。

 今でも思い出すのが、撮影していて、ガイドの男性と離れてしまったので、ちょっと大きな声で「待っていてください」と呼びかけたとき、彼が「大声を出しちゃダメだ。ミミが怒るから」。とぼくに言うわけです。最初は何のことかわからなかったのですが、どうやらミミというのは精霊のことらしい。彼はその存在を確かに感じていて、彼らの世界観のなかに確固とした位置を占めている。スピリチュアルな話ということではなく、現実として彼らの中に精霊が存在していることを知って、今でも時々思い出します。

――ノーザンテリトリーには大自然の風景にも多く出あえます。心に残った風景はありますか。

 ウルル(エアーズロック)の裏側の様子は、ほとんど見る機会がないですが、行ってみたらとても怖かった。山の斜面に穴がボコボコと開いていて、畏怖の念がわき上がる。ガイドブックには美しいウルルの写真しか載っていませんが、荒々しい裏側の風景を見ると、びっくりします。だからこそ、この地は古くから聖地たりえていたのかもしれません。

 ウルルに登っている観光客の話はよく耳にします。でも、アボリジニのことを少しでも理解しようという姿勢があるなら、決して登る気にはならないはず。地元のアボリジニが大切にしている場所で、彼らが登らないでほしいと言っているのに、それでもなお登る人がいるなんて、ぼくには信じられません。僕自身、アボリジニの歴史や文化に関心を抱くようになったのは、以前に出あった本によってでした。

(後編はこちら

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石川直樹(いしかわ・なおき)
1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最近では、ヒマラヤの8千メートル峰に焦点をあてた写真集シリーズ『Lhotse』『Qomolangma』 『Manaslu』 『Makalu』(SLANT)を4 冊連続刊行。最新刊に写真集『国東半島』『髪』(青土社)がある。個展「NEW MAP-世界を見に行く」(横浜市民ギャラリーあざみ野)は2月22日まで。石川直樹+奈良美智展「ここより北へ」(ワタリウム美術館)は、5月10日まで開催。


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アボリジニの聖地である世界遺産「ウルル」で満天の星空のもと楽しむディナーや、壮大な自然景観と野生の動植物との遭遇体験「カカドゥ」と、そのゲートウェイで世界中の若者が集うトロピカルリゾート「ダーウィン」など――。ノーザンテリトリーには、想像もつかないほどの絶景と、大自然を肌で感じられるアトラクションがいっぱい。壮大なスケールのノーザンテリトリーを満喫できるツアーを多数ご用意いたしました。
WEBサイトをご覧ください。

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