ノーザンテリトリー特集

ノーザンテリトリーへと誘った1冊の本 石川直樹<後編>

  • 2015年2月27日

石川直樹さん(撮影 石野明子)

  • 石川直樹さん(撮影 石野明子)

  • 写真集『NEW DIMENSION』(赤々舎)から

  • 写真集『NEW DIMENSION』(赤々舎)から

 アボリジニの歴史や文化を知ってから訪れると、違う世界が見えてくる――。オーストラリアの中ではノーザンテリトリーが最も好きだという写真家の石川直樹さんに、アボリジニを知るきっかけや旅への思い出などを聞いた。(文 中津海麻子)

  ◇

前編から続く

――影響を受けた本とは?

 イギリスの紀行作家、ブルース・チャトウィンの『ソングライン』です。アボリジニは大地に存在するさまざまなものをランドマークとして定め、それらを繋ぎながら移動します。無数にあるそれらの道の一つ一つは「歌」として彼らの頭に記憶されていく。いわば見えない地図のようなもの、それがソングラインですね。本の中では、チャトウィンがオーストラリアで「ソングライン」と出会い、人はなぜ旅をするのかという大きな命題を追求していくさまが描かれています。

 ぼくたちには、ブッシュが広がるだけの荒野にしか見えない場所も、アボリジニにとっては、例えばかつて水がわいた場所だったり、食べられる木の実のある場所だったりが見えている。ソングラインによって、荒野の上に別の世界が立ち上がってくる、と。僕らが見ているものとはまったく別のレイヤーに入り込める、そんな地図がソングラインなのだと思います。

 観光スポットとして知られる「デビルスマーブル」には、まん丸の岩がゴロゴロと転がっていて、何も知らなければ奇岩がたくさんある風景ということになるでしょう。でもこうした場所にも、アボリジニは物語をもっている。見ているモノは同じなのに、まったく別の世界の上に生きている人がいる。そのことを知ろうとすることによって、旅がどんどん枝分かれしていって、未知の風景が立ち現れるような感覚がぼくにはあります。

 チャトウィンは若くして病に倒れ、この本が遺作となりました。この本を読んでからノーザンテリトリーを訪れると、色々なものや風景の見え方が変わるでしょう。僕自身、オーストラリアだけでなく、旅をするときのテキストとして大事にしている1冊です。

――自分たちが見えている世界がすべてではない。異文化を理解することの大切さを、「ソングライン」の存在が教えてくれたのですね。

 たとえば北部の街に行くと、アボリジニのおっちゃんがぼんやりしてたり、酔っ払いのように歩いていたりする光景をよく見かけます。観光客からしたら奇妙に映るかもしれません。彼らには「Walkabout」という言葉があって、日本語に訳すのがとても難しい。言うなれば、「目的のある放浪」みたいなニュアンスでしょうか。つまり、僕らから見たら、無目的に徘徊しているように見えても、彼らは彼らなりの切実さによって、ただ歩いている。

 日本では徘徊する老人などが問題になっていて、多くの人は彼ら彼女らが意味もなく徘徊しているように思うのでしょうが、ぼくは「本当にそうなのかな?」と思います。自分なりの切実な理由をもって歩いているのだけれど、ぼくたちとは違うレイヤーの世界にいるので、それをこちら側が理解できていないだけかもしれないなって。逆に自分たちに見えないものが、ある人には見えているんじゃないか、と思うんです。アボリジニの文化と触れると、そうした考え方もあながち絵空事じゃないように思えます。

――ノーザンテリトリーを旅し、アボリジニに触れたことが、石川さんのその後の活動、人生にも、大きな意味を持つようになったんですね。

 大きな意味を持った、とは決して言い切れないですが、影響を受けているのは間違いありません。横浜市民ギャラリーあざみ野で「NEW MAP」という写真展をやったのですが、その挨拶文で、アボリジニの「ソングライン」に触れていました。既存の地図ではない自分なりの「NEW MAP」を、旅によって作り出していきたい、その上を歩いていきたい、ということです。願わくば、アボリジニが頭に描くソングラインの世界に入り込んでみたいし、見慣れた場所のなかに未知のフロンティアを見出すような旅をこれからも続けていきたいですね。

  ◇

石川直樹(いしかわ・なおき)
1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最近では、ヒマラヤの8000m峰に焦点をあてた写真集シリーズ『Lhotse』『Qomolangma』 『Manaslu』 『Makalu』(SLANT)を4 冊連続刊行。最新刊に写真集『国東半島』『髪』(青土社)がある。石川直樹+奈良美智展「ここより北へ」(ワタリウム美術館)は、5月10日まで開催。


>>ノーザンテリトリーの特集はこちらから


アボリジニの聖地である世界遺産「ウルル」で満天の星空のもと楽しむディナーや、壮大な自然景観と野生の動植物との遭遇体験「カカドゥ」と、そのゲートウェイで世界中の若者が集うトロピカルリゾート「ダーウィン」など――。ノーザンテリトリーには、想像もつかないほどの絶景と、大自然を肌で感じられるアトラクションがいっぱい。壮大なスケールのノーザンテリトリーを満喫できるツアーを多数ご用意いたしました。
WEBサイトをご覧ください。

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

&wの最新情報をチェック


&wの最新情報をチェック

Shopping