島めぐり

佐渡島<1>古着から生まれる、アートな割烹着

  • 文・写真 宇佐美里圭
  • 2015年9月29日

 日本海に囲まれた美しい島、佐渡。新潟市の北西にS字型に浮かぶその島は、沖縄本島に次ぐ大きさで、人口5万8000人あまり。米、野菜、魚など食材も豊富で、自然豊かな島だ。新潟市のフェリー乗り場からジェットフォイルに揺られて、およそ1時間。東京からは、新幹線でほんの3、4時間で着いてしまう“離島”だ。

  2014年5月、この島に家族で移住してきたのが、京都府出身の“かっぽう着デザイナー”、山口明香さん(38)。暮らしの衣服として山口さんが生み出す割烹着は、いわゆる白い割烹着ではなく、まるで洋服のようなおしゃれなものばかり。すべて古着のシャツと布を組み合わせた手作りで、一点一点デザインから製作まで山口さんが一人で担う。襟は丸く切ってテープを付け、ワイシャツは下半分を切って前後180度回転させ、縫い付ける。そこに他の布を合わせ、ポケットをつければ完成だ。基本的な作りは一緒だが、タグには作品の通し番号がついている。つまり、一つとして同じものはない。1点1万円前後で、販売は展覧会や、大阪、鳥取、札幌の知り合いのお店で扱っているのみだ。

「私自身、もともとエプロンも割烹着も使わなかったのですが、自分で作ったものを着てみたらすごく着心地がよくて、使い勝手がよかったんです。割烹着を着ることで、気持ちが切り替わって、家事に身が入るのが新鮮でした」

  山口さんが古着のシャツで割烹着を作るようになったのは、たまたま服飾デザイナー・森南海子さんの本を読んだから。森さんは戦後、ミシン全盛の時代に手縫いの良さを説いた女性で、“リフォーム”という言葉の産みの親としても知られている。彼女の本の中に「ワイシャツを割烹着にする」という話がのっていた。それをお手本に1着作ってみた。何度か繰り返すうち、山口さん流の今の形に落ち着いていった。

 当時、月1でアルバイトをしていたドーナツ屋さんの仕事着として着てみたら、スタッフに好評で「作ったら売れるんじゃない」とアドバイスされた。そこから他の人が着ることを想定して作ってみるようになった。展覧会を開くと、あっという間に完売。他のお店からも「うちで個展をやってほしい」と請われ、作っているうちに辞められなくなってしまった。

 まさか自分が割烹着で身を立てていくことになるとは思わなかった。アートやファッションの世界で“暮らし”と“表現”を追い求めてきたら、いつのまにか割烹着を作っていたのだ。

 山口さんは、幼い頃から絵を描くのが好きで、京都市立芸術大学に入学。彫刻を専攻していた。念願の芸術の世界に足を踏み入れたものの、その世界に次第に違和感を感じ始めた。在学中、その後の活動につながる象徴的な出来事があった。

「校舎の裏に彫刻作品が山積みになっているんですよね。ゴミの山です。ちょうどその頃ダイオキシンが問題になり、翌月から焼却炉が使えなくなるというとき、先生が『とにかく全部燃やせ』と。燃やしながら、『世の中では環境のことを考えている時代に、美術だからといってこんなことしてていいのかな』と思ったんです。そこまでして作りたい覚悟がなきゃ、作っちゃいけないんじゃないか、と」

 同時に、芸術と自分の身の回りの生活に大きな隔たりも感じていた。

「アートってすごく狭い世界でやっているように思えたんです。なんのために作品を作るんだろう、自分にとってアートってなんだろう、って考え始めちゃって。それで自分の作品を持って街を歩いたり、パフォーマンスのようなことをするようになりました」

 大学の卒業制作は、お面をかぶって電車の中で絵を描くというパフォーマンスだった。作品を個展会場に並べるよりも、日常生活の中に持ち込み、街の人の反応を見たり、それによって作品の意味がどう変わるのかに興味があったのだ。

 卒業後は、これ以上アートを続けていく気はしなかった。とりあえず、面白そうに見えたフリーペーパーの仕事につく。2年ほど営業や取材などをこなしていたが、1年目くらいで「今後、どうしよう?」と悩み始めた。

  アート作品を作る気はしないが、より生活に近いファッションならいいかもしれない。山口さんは、「自分の作品をより身近なものに落とし込んでみたい」と思うようになった。ファッションの専門学校のパンフレットを取り寄せたが、授業料は軒並み高い。そんなときにふと思いついたのが、海外の学校だった。 ヨーロッパの学校なら授業料がそこまで高くないのだ。

 当時、山口さんのまわりには、大学卒業後にドイツの学生と共同のアートプロジェクトをしたことがきっかけで、ヨーロッパに留学する人が多かった。そこで、仕事の合間にオランダへ留学している友達の家へ行き、ヨーロッパの学校をみてまわることに。そこで見つけたのがオランダのアーネム芸術アカデミーだった。世界的に有名なデザイナー、ヴィクター&ロルフが卒業したことでも知られている。

「向こうの学校って面白くて。優秀な人が必ずしも入れるわけじゃないんです。優秀すぎると、『この人はうちで勉強する必要はない』といって落とすんですよ。その人が本当にこの学校が必要かどうかで合否を決める。だから入試の方法も割と柔軟でした。入試のためにまた来ることは出来ないと相談したら、『じゃあ、 ポートフォリオと課題を送って』と言われて。それが私の入試になりました」

 山口さんは見事合格。25歳でファッションを勉強するため、オランダへ渡った。

(次回は10月13日掲載の予定です)

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PROFILE

宇佐美里圭(うさみ・りか)

1979年、東京都生まれ。編集者、ライター。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。ワールドミュージック誌、スペイン語通訳、女性誌を経て、『週刊朝日』編集部。料理研究家・行正り香さんの書籍を多数手がける。ラテン音楽、山、ワインが好き。

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