インタビュー

聴いて楽しむ高校野球 ブラバン応援のディープな世界 梅津有希子さん

  • 2016年8月19日

梅津有希子さん

  • 梅津有希子さん

  • 『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』(文芸春秋・1296円)。表紙イラストを『青空エール』の作者・河原和音さんが描き下ろした

  • 映画「青空エール」から。吹奏楽部員のつばさ(土屋太鳳)と野球部員の大介(竹内涼真)が支え合いながら全国大会を目指す。8月20日公開
    (c)2016 映画「青空エール」製作委員会 (c)河原和音/集英社

  • 映画「青空エール」から。劇中で演奏される音楽も梅津さんが選曲。「チャンス紅陵」「智弁ファンファーレ」などの人気応援曲も登場する
    (c)2016 映画「青空エール」製作委員会 (c)河原和音/集英社 

 夏の高校野球もいよいよ大詰め。連日熱戦が続く甲子園で、グラウンドではなくアルプススタンドに注目している人がいる。吹奏楽部を舞台にした人気コミック「青空エール」の監修をつとめるライターの梅津有希子さん。高校野球の応援演奏の奥深い世界を取材した「高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究」(文芸春秋)を先月出版した。

 梅津さんは、「青空エール」の舞台のモデルになった吹奏楽の強豪・札幌白石高校の出身。自身も吹奏楽部でファゴットを担当し、全日本吹奏楽コンクール全国大会で3年間連続金賞を受賞した。とはいえ、吹奏楽部の少女と高校球児が励まし合って全国大会を目指す「青空エール」とは違い、母校は野球応援の習慣がなく、高校野球とは無縁。野球そのものにもほとんど興味がなかった。

 だが、5年ほど前にたまたま見ていたテレビの中継で、吹奏楽コンクールの常連校が応援演奏をしているのに気がついた。調べてみると、常総学院、大阪桐蔭、天理、愛工大名電、埼玉栄、春日部共栄……と、東京・普門館の全日本大会で競い合った各地の強豪が野球でも全国区の活躍をしていた。

 「野球と吹奏楽の有名校がこんなに重なっているとは思わなかった。7~8月といえば、吹奏楽部員はコンクールの準備で超多忙な時期。私たちが朝から晩までコンクールの自由曲と課題曲の練習漬けになっていた頃に、スタンドのような過酷な環境で大事な楽器を演奏していたのか、と本当にびっくりしました」

 大好きだった習志野の演奏を生で聴いてみたくなり、千葉マリンスタジアムで球場デビューしたのが2012年。「美爆音」の異名を取るサウンドは「応援というより、もはやコンサート」。予想以上の迫力に感動し、強豪校が演奏する日を狙って関東近郊の球場に足を運ぶようになった。

 「目当ての高校の試合の後も続けて観戦するうちに、吹奏楽部時代には知らなかった面白い学校も次々見つけました。今回の本で紹介した拓大紅陵もそのひとつ。演奏がすごく上手でかっこいい。すべてオリジナルなので知らない曲ばかりなのに、思わず聴きほれてしまいました」

 特にかっこよかった「チャンス紅陵」という曲は、千葉や埼玉の別の学校の応援にも登場し、応援曲としてすっかり定着していることがわかった。しかも、他校では「怪物マーチ」などと勝手に命名していることも判明。自分も知らない昭和のアニメソングやヒット曲がいまだに定番になっているなど、応援曲をめぐる謎は深まるばかり。

 「何これ? なんで? と次々疑問がわいてきた。ライターなので、疑問に思ったことはとことん調べて自分で解決しないと気が済まない。そんなわけで、どんどんのめり込んでいきました」

 自校の攻撃中しか演奏できないといった応援ルールも、門外漢には新鮮だった。好奇心の赴くまま、人気曲のルーツやブラバン応援の歴史を調べ、注目校を訪ねて関係者に話を聞いた。春夏の大会期間中は、地方大会や甲子園のブラバン応援の模様をツイッターで実況。楽曲や演奏についてのわかりやすい解説が人気を呼び、いつしか「高校野球ブラバン演奏研究家」になっていた。

 その研究成果を詰め込んだのが今回の本。1年がかりで準備し、スタンド応援のトリビアから、注目校紹介、人気曲の楽譜付き解説、写真入り楽器ガイド、自ら体を張った応援演奏体験記など、野球好きも音楽好きも楽しめるメニューをそろえた。

 だが、思わぬ誤算もあった。締め切りが、監修をつとめる映画版「青空エール」の撮影時期と重なってしまったのだ。

 「『吹奏楽部のシーンだけ立ち会ってくれればいい』と言われたのに、ふたを開けたらほとんどのシーンに吹奏楽部が出てくる(笑)。演奏だけでなく楽器の扱い方などもチェックしなければならないので、撮影現場に詰めることになってまいました」

 朝5時起きで出かけ、遅いときは深夜まで。家には寝に帰るだけの日々が続き、撮影の合間を縫って原稿を書くしかなかった。しかも撮影はオールロケ。高校の音楽室や教室、グラウンド、野球場にコンサートホール……さまざまなロケ先で居場所を探してはパソコンに向かった。「ブラバン応援の本だからよかったけれど、別ジャンルだったら混乱してきっと書けなかった(笑)。すごくきつかったけれど、球場や学校で書いたことで、多少は臨場感が加わったかもしれません」

 「青空エール」の映画版は8月20日公開。10月には人気テレビアニメ「響け!ユーフォ二アム」の新シリーズが始まり、来年には初野晴さん原作の吹奏楽部ミステリー「ハルチカ」の実写映画も公開されるなど、高校野球の季節の後も、ブラバン人気はまだまだ続く。

 「ブラバンがブームなのは確かです。ただ、脚光を浴びるのは強豪校が中心。実際は部員が少なくて、全国大会に出られない小規模な編成しか組めない学校も多い。コンクール人間だった頃はそういう学校の存在を意識することはなかったけれど、少人数でも頑張って魅力的な応援演奏を聴かせてくれる子たちを球場で知って、考え方が変わった。ブラバン応援を通して、私自身の音楽の楽しみ方も広がったような気がします」

■うめつ・ゆきこ 北海道出身。ヤマハ勤務(管楽器担当)ののち、FMラジオ局、IT企業、編集プロダクションなどを経て2005年に独立。女性向けのwebや雑誌、書籍を中心に、食、ペット、暮らし、発信力などのテーマで執筆や講演を行う。著書に、『終電ごはん』(幻冬舎)、『吾輩は看板猫である』シリーズ(文藝春秋)、『だし生活、はじめました。』(祥伝社)など。ツイッターアカウントは@y_umetsu

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