インタビュー

妻夫木くんは撮影初日にはもう、匂いに「色気」があったんです

  • 妻夫木聡×李相日 インタビュー
  • 2016年9月16日

妻夫木聡さん(左)と李相日監督 撮影/石野明子

  • 妻夫木聡さん(左)と李相日監督 撮影/石野明子

  • 「とにかくこの作品にかかわりたかったんです」 撮影/石野明子

  • 「(自分の方法論をまとってきてしまう人には)一回引き剝がさなければならないので、一番恥ずかしいことをさせるんです」 撮影/石野明子

  • 「これほど作品に情熱を注ぐ監督ってなかなかいないと思う」と、妻夫木さん 撮影/石野明子 

  • 「怒り」は今月カナダで開かれた第41回トロント国際映画祭のスペシャルプレゼンテーション部門にも出品された 撮影/石野明子

  • 「怒り」千葉編で父子を演じる渡辺謙と宮崎あおい ©2016映画「怒り」製作委員会

  • 「怒り」 綾野剛と妻夫木聡 ©2016映画「怒り」製作委員会

 映画「悪人」から6年。李相日監督が再び吉田修一とタッグを組んで映画化したヒューマンミステリー「怒り」。
東京編に登場する、サウナで出会った男(綾野剛)と同居生活を始めるエリート会社員の優馬を演じた妻夫木聡さんと李相日監督に話を聞いた。(取材・文:坂口さゆり)

    ◇

――妻夫木さんは初めてゲイ役に挑戦されました。最初から優馬役をやりたいと思っていたのですか。

妻夫木 吉田さんが原作を送ってくださったんですが、心をわしづかみにされた小説は「悪人」以来でした。演じるなら優馬しかなかったですね。でも、監督から「何をやりたいの」と聞かれた時に「優馬」と言ってすぐに「いや何でもいいです」と言い直したんです。作品にかかわれなくなるのが怖かったので。とにかくこの作品にかかわりたかったんです。「悪人」(で演じた祐一)の役づくりの時に、李さんと一緒に「ブロークバック・マウンテン」を見たんですが、以来、この映画がすごく好きになったんですね。いつかこういう映画を日本でもできればいいな、いつかゲイ役ができればいいなとずっと思っていたこともあって。そんな中での「怒り」のお話でしたし、李さんが監督でもあったので、僕の中でいろんなことがつながって優馬を演じられたらなと思っていました。

 「悪人」でこの映画を見せたのは同性愛ということよりも、ヒース・レジャーが演じたイニスの抱える孤独が祐一に必要だったからだけどね。その時はお互い試行錯誤の連続だったし、撮影に入っても輪郭しかつかめてなかった。でも、「怒り」は役に取り組む過程を見ていく中で、今回は任せられるなと思ったよ。

役づくりには今回一番お金を遣ったというわけなんです(笑)

妻夫木 優馬は僕の中で世界を作り上げなければいけないなと思いました。ゲイの友人役が決まった瞬間からとにかく一緒に遊びましたね。(新宿)2丁目だけじゃなくて、ホテルに一緒に泊まりに行ったり、お泊まりっこしたり、パーティーをしたり。ヒントは原作にもいっぱいあったので、それと似たような関係性を築けるように、自分からどんどん近づいていくようになりました。知り合いがやっている店があったので、いつもそこが僕たちのホームみたいな感じで(笑い)。

 撮影初日にはもう優馬の雰囲気をまとっていて、正直驚かされたね。プールでのゲイパーティーのシーンだけど、カメラの前に現れたとたんに、その発散する匂いに「色気」があったんです。

妻夫木 今回、自分が考えつくことだったり、できる限りのことはなんでも大事にしました。単純に体を鍛えることもやりましたし、日焼けサロンに行ったり、ひげをデザイン脱毛したり、髪形もこうしたらいいのかとか。そういうことで役づくりには今回一番お金を遣ったというわけなんです(笑)。「悪人」が終わって以来、僕は役への取り組み方が本当に変わってしまった。李監督の現場だからこそやるというわけではないんですが、あれから率先して触れてみるということを大事にしています。

一回、一番恥ずかしいことをさせる

――李監督と他の監督との違いはどんなところにあるのでしょうか。

妻夫木 李さんは俳優がその人物になっていないとダメなんですよ。その人がどういう生き方をしてどういう表情をしてどういう風に感じたか。その「生」を撮りたい。僕たち俳優は芝居といううそをついていますが、演じているその瞬間は生でなくてはいけないんです。だから、日頃からその人物になるべく近づいていって、うそを真実に変える作業を常にしていかないといけない。その作業が撮影前段階でできていないと、うそは急に真実にはならない。初めて監督と一緒にやる人はそこら辺が難しいかもしれないですね。できていないと、たまに奇抜なことをさせますよね?

 え? そう?

妻夫木 やっているじゃないですか。役と関係ないところで歌わせたり(笑)。

 それはさ、何もまとわずに演じてほしいのに、どうしてもまとって来てしまう人がいるわけですよ。役をまとうのではなく、「役者・自分の方法論」をまとってね。悪気があってまとって来るわけではないんだけど、それは一回引き剝がさなければならないので、一番恥ずかしいことをさせるんです。

妻夫木 させられた人を目の前で見てますけど、結構エグいですよ(笑)。オッケー出ないから「お前、歌え」と俳優、スタッフみんながいる現場で歌わされちゃうんだから。

欲望のありかは正確につかみづらい

――妻夫木さんにとって今回、難しかったシーンはどこでしたか。

妻夫木 最初に直人(綾野剛)と発展場で出会うシーンかな。僕と剛と監督と3人だけでリハーサルの時間を取ったんですが、「何か違うな、何か違うな」と探り続けたんです。ふと一回ゼロに戻してやってみたら、「アッ」という瞬間があった。そこに行くまでが一番難しかったんですが、面白かったですね。

 欲望のありかは正確につかみづらいんです。男女でもそう。妻夫木君が同性愛者をきちっとまとっているとはいえ、自分から生まれた欲望で性行為をするということの真実味。それをつかめないと、最初はどうしても形を探しちゃうんですよね。こういう動きにしたらいいのかなって、色々試す。でもなかなか届かない。それが、どこかの瞬間で直人に対する欲望がふっと芽生えたんじゃないかな。そこで動きに無理がなくなった。僕が見ていてもそう思いました。あぁいう時って不思議で、受ける側の綾野君も納得するんだよね。優馬の欲望を肌で感じたんだと思うんですよ。

――妻夫木さんから見て李監督とは?

妻夫木 それはもうすばらしい監督でしょう。

 席外したほうがいいかな(笑)。

妻夫木 これほど作品に情熱を注ぐ監督ってなかなかいないと思うし、貪欲(どんよく)です。絶対に妥協しません。単純に聞こえるかもしれないけど、大事なことなんですよ。やっぱりどこか人間は欲に負けてしまうところがある。こうしたほうがお客さんが入りやすいとか、見やすくなるとか。そういう計算は多少はあるのかもしれませんが、李監督は作品のためを第一優先する人。主役がだれであろうと関係ない。そういう心意気は大好きです。監督は一つの作品に時間をかける方なので、数多くの作品を生み出せないかもしれませんが、できる限りこれからもご一緒させてもらえたらと思っています。

■妻夫木聡(つまぶき・さとし)
1980年12月生まれ。福岡県出身。「ウォーターボーイズ」(01年)で映画初主演。「ジョゼと虎と魚たち」(03年)「悪人」(10年)「マイ・バック・ページ」(11年)「東京家族」(13年)「家族はつらいよ」(16年)など多くの映画に出演。09年にはNHK大河ドラマ「天地人」で主演するなど多方面で活躍

■李相日(イ・サンイル)
1974年新潟県生まれ。04年「69 sixty nine」でメジャー進出。06年の「フラガール」で日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞など国内映画賞を独占。10年「悪人」でキネマ旬報日本映画第1位。13年にはクリント・イーストウッド監督・主演の「許されざる者」を、明治初期の蝦夷地を舞台にリメイクした

    ◇

「怒り」 愛した人は殺人犯なのか――。「人を信じる」という根源的な問いかけを、1つの殺人事件を通して問う。豪華キャストで魅せるヒューマンミステリー。ある殺人事件の犯人が逃亡。1年後、千葉、東京、沖縄に素性の知れない男たちが現れる。それぞれの場で男たちと親しくなっていく人々だが、ひょんなことから相手が殺人犯かもしれないと疑い始める。
監督・脚本:李相日 出演:渡辺謙、宮﨑あおい、妻夫木聡、森山未來ほか。9月17日から全国東宝系にて公開

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