MUSIC TALK

バレリーナ目指していたのに、音楽の道へ Cocco(前編)

  • 2016年9月16日

撮影/篠塚ようこ

  • 撮影/篠塚ようこ

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 「強く儚い者たち」――。その自らの歌のごとく、強さと儚(はかな)さを内包したリリックとメロディー、そして圧倒的なパフォーマンスでオーディエンスを魅了するシンガー・ソングライターCoccoさん。踊ることだけを夢見ていた少女は、なぜ音楽のスターダムに登ることになったのか? 幼少期からデビューまでを回想する。(文・中津海麻子)

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最初に手にしたレコードは「フラッシュダンス」

――幼いころの思い出は?

 祖父(琉球芝居の権威で重要無形文化財「組踊」の保持者、真喜志康忠さん)が役者をやっていたので、よく劇場に遊びに行きました。すごく古い劇場で、低い天井の楽屋にはオレンジ色の裸電球があり、たくさんの人が踏んだ床は飴(あめ)色でキシキシと音を立てて、とても昭和な雰囲気だった。祖父や役者さんたちが休憩している楽屋に行ってお菓子をもらったり、舞台が始まると、いつも袖からこっそり見たりしていました。今もライブの舞台袖にいると、あのころ見ていた光景がよみがえります。

――音楽の原体験は?

 体を動かすのが大好きで、常に踊っているような子どもでした。3歳ぐらいの時に「ひらけ!ポンキッキ」で流れていた中国語が出てくる数え歌がえらく気に入ったらしく、「イーアルサンスー!」って歌いながら朝から晩まで踊っていて、あまりの没頭ぶりに親が心配するほどだったとか。無音でも踊れるんだけど、BGMや効果音を自分で入れたりもして。踊るための音や歌っていうのが、私の中の最初の音楽だったのかな。

 うちはテレビをほとんど見せてもらえなかったので、「ザ・ベストテン」も「夕焼けニャンニャン」もリアルタイムで見たことがなかった。翌日、学校で「中森明菜はああだった」「工藤静香がこうだった」ってみんながまねしているのを見るのだけが情報源だったから、歌謡曲やJポップに関してはすごく遅れてましたね。

 最初に手にしたレコードは「フラッシュダンス」。映画を見に行って、映画の中のダンスを帰ってきてから狂ったように踊っていたので、レコードがあれば少しは落ち着くだろうと親が買ってくれたんです。でも、さらに火がついた(笑)。映画のシーンと同じで、震える手でレコードに針を置くところから始めるんです。何度も何度もすり減るほどかけて、踊りまくりました。

――その後バレエを始めます。きっかけは?

 踊りが好きだったからバレエはやりたかったんだけど、役者の祖父に振り回されて家族が大変な思いをしていたから、芸能に関することは一切禁止で、学芸会で舞台に立っても怒られるほどだった。もちろんバレエなんて絶対にダメ。でも踊りたい。じゃあ学校でダンス部を作ればいいんだって思いついた。部員を何人か以上集めれば部が作れると先生から聞き、6年生のとき一人で「ダンス部を立ち上げようの会」を発足しまして。休み時間のたびに大きなカセットデッキを持って校庭とかに行って、ブルマ姿で踊りながら「みんなも踊らないかい?」とデモンストレーション(笑)。でも結局、親友のメグミちゃん以外は誰も見向きもせず、部として成り立たなかった。それを不憫(ふびん)に思った先生が、親に「何か打ち込めるものをやらせたらどうですか?」と言ってくれたんです。

 ところがそれでも親は認めてくれなくて、こうなったら内緒で始めようと秘密のヘソクリをスタート。ベッドの下に「バレエ資金貯金箱」を隠して、お小遣いや拾ったお金をこっそり貯めました。そして、当時地元の那覇にあったショッピングセンターにバレエ用品を売っている店があり、毎日そこに通ってひたすらじーっと品物を眺め続けた。「またCoccoちゃん来てたよ」と親の耳にも入ったらしく、ようやく折れてくれたのです。

 最初は週1回のレッスンで、でも全然踊り足りなくて、首里にある本校に通いたいと先生に頼み込みました。週2回が3回になり、そのうち土日以外は毎日通うように。高校のころには、学校よりもバレエが中心の生活でした。

レコード会社の人が沖縄まで探しに来てくれた

――プロのバレエダンサーを目指していた?

 目指していました。高校を卒業したら東京に行こうと、休みのたびにオーディションを受けに行きました。でも、渡航費も衣装代も全部自費だからものすごくお金がかかる。そんなとき、お姉ちゃんがあるファッション誌に載っていた新人歌手発掘オーディションの告知を見つけてきて「Cocco歌上手だから受けてみたら? 合格すれば100万円もらえるよ」って。100万円あったら東京で何回オーディションを受けられるだろう!と飛びついた。バレエのための資金調達です(笑)。カラオケボックスで歌を録音し、応募した1次が通過。すると「2次試験を受けに来てください」と航空券が届いた。さらに空港には車が来ていてスタジオまで送迎してくれて、「こんな世界があるんだ」って驚きましたね。

 ただ、私の目的はあくまでもバレエ。夕方にはどうしても受けたかったバレエのオーディションがあったから、歌の2次審査はとにかく早く終わらせたかった。とりあえず歌って、審査員から「どんな歌手になりたいですか?」と聞かれたので、「なるつもりないです。バレリーナになりたいんです。ただ渡航費がほしかっただけなんです」と正直に言い放ち、バレエのオーディション会場に走りました。結果は、歌手もバレエもどちらも落ちてしまった。ところがその後、レコード会社の担当者が私のことを沖縄まで探しに来たんです。

――沖縄まで!?

 そう、いきなり。ちょうどそのとき、友達に誘われて高校の文化祭で即席バンドのボーカルをやったところ好評で、ライブハウスで解散ライブをすることになっていました。「Cocco先輩が解散ライブやるから見に来てね」みたいなハガキを後輩がFM沖縄に投稿、それを沖縄に来たレコード会社の担当者がたまたまレンタカーで聞いて、「あの子だ!」。ライブハウスに問い合わせていきなり自宅に訪ねてきた。家に帰ったら、親と一緒に写真撮ってた(笑)。

 解散ライブも見に来てくれて「歌手になりませんか?」と誘ってくれたんだけど、私の気持ちは固く「絶対に嫌です。バレリーナになる予定なので」ときっぱり断りました。高校を卒業したら東京に行ってオーディション受けると伝えると、「じゃあ、もしおなかがすいたらご飯でもごちそうするよ」と言ってくれた。連絡するつもりは毛頭なかったんだけど、上京してオーディションに落ちまくって、おなかがペコペコになったとき思い出して(笑)。それから週に1回、ごはんを食べさせてもらうようになりました。そうこうしているうちに当時のディレクターと出会い、歌手としてデビューすることになったんです。

――ごはんにつられて?(笑)

 ごちそうしてもらっているうちになんとなくそういうことになってた(笑)。この担当者とのこともそうなんだけど、私は本当に出会いに恵まれたんだって後になって気づくんだけど。

 レコーディングの休憩の時間か何かでマネージャーと外の階段でおしゃべりしていたときのこと。頭の中に流れていたメロディーが気になったので、「ねぇねぇ、この歌って誰の歌?」って歌ってみたんです。すると「それ、Coccoの歌だと思うよ」と。翌日もその翌日も同じようなことがあって、「それレコーディングしようよ」って言ってくれた。実はデビュー曲の「カウントダウン」はそうして生まれました。

 不思議だった。昔も今もそうなんだけど、私の中では毎日毎日音楽が鳴っている。それが誰の歌ともわからずに、踊るときやお風呂に入るときに歌ったりするだけの単なる「今日の音楽」で、翌日には消えてしまう。そんなものがCDになるわけ?って。歌や曲っていうのはプロの人が作るもので、それを私がもらってデビューするものだと思っていたから。作詞も作曲も勉強したことないし、譜面も書けない楽器も弾けない、そんな自分がシンガー・ソングライターになるなんて考えたこともなかった。

 階段で歌った歌も拾い上げれば歌なんだ――。それを拾い上げてくれる人がいたことは、本当にラッキーだったと思います。

後編へつづく

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Cocco(こっこ)

1977年沖縄生まれ。シンガー・ソングライター、絵本作家、女優。 97年、シングル「カウントダウン」でメジャーデビュー。「強く儚い者たち」「Raining」などのヒット曲を生み出す。絵本「南の島の星の砂」(2002年 河出書房新社)をはじめ、「こっこさんの台所」(2009年 幻冬舎)、「コトコノコ」(2012年 幻冬舎)、「東京ドリーム」(2013年 ミシマ社)などエッセイも多数。近年は女優としても活躍し、岩井俊二監督映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」(2016年)などに出演。2016年8月、通算9枚目となるアルバム「アダンバレエ」をリリースした。
Cocco公式サイト:http://www.cocco.co.jp/

【ライブ情報】
Cocco Live Tour 2016 “Adan Ballet”

9月13日(火) 愛知・Zepp Nagoya
9月15日(木) 広島・HIROSHIMA CLUB QUATTRO
9月22日(祝・木) 新潟・りゅーとぴあ劇場
10月2日(日) 東京・NHKホール
10月7日(金) 福岡・福岡国際会議場 メインホール
10月11日(火) 東京・昭和女子大学 人見記念講堂
10月21日(金) 宮城・仙台PIT
10月25日(火) 大阪・オリックス劇場

【イベント情報】
沖縄のウタ拝 2016

10月30日(日) 沖縄・浦添市てだこ小ホール
※Coccoは踊りで出演

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