MUSIC TALK

歌以外の世界も知ってたどりついた、表現のかたち Cocco(後編)

  • 2016年9月20日

撮影/篠塚ようこ

  • 撮影/篠塚ようこ

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  • (左から)「アダンバレエ」通常盤と、初回盤。独特な筆跡で書かれたアルバムのタイトルは、Cocco本人によるもの。初回盤は、沖縄で撮り下ろした写真とレコーディング風景の写真、56ページからなるフォトブックが付いている

 歌が好きになったから、一度全部壊さなきゃいけなかった――。約5年の活動休止の理由をそう振り返る、シンガー・ソングライターのCoccoさん。その真意、そして、その先にたどり着いた表現とは? 40歳を目の前にしてリリースした「生存者(サバイバー)による生存者(サバイバー)のためのアルバム」についても本音を語る。(文・中津海麻子)

    ◇

前編から続く

5年間活動を休止した理由

――1997年にリリースしたファーストアルバム「ブーゲンビリア」が話題を呼び、続く2枚目の「クムイウタ」がミリオンセラーに。シンガー・ソングライターとして世間の注目を集めました。突然の環境の変化をどのように受け止めていたのですか?

 「ブーゲンビリア」は約5万枚売れたのですが、そのときは「売れた」という実感がありました。お弁当のランクが上がってみそ汁がつくようになり、「5万枚ってこういうことか!」って(笑)。でも「クムイウタ」の100万枚は、あまりに数が大きすぎて実感がわかなかった。レコード会社やレコード屋とか、周りがザワザワしてるなっていうことしか覚えていません。

 ただ、キャーキャー騒がれるようなことはなかった。テレビにもあまり出なかったし、ネットやブログもまだ普及してなかったから情報もほとんど出なかったし。当時全盛だったTKサウンドをメジャーとするなら、メジャー「じゃないほう」を探していたマニアックな音楽ファンに響いたのかな、と思います。

――これまでに転機はありましたか?

 歌は毎日頭の中で鳴っていて、創造するものじゃなくて勝手に出てくるもの。愛しいとも思わなかったし、できれば忘れたいし逃れたかった。ただ、歌うとちょっとすっきりするから歌ってただけ。その作業をお客さんが見にくるライブっていうものの意味が全然わからなかった。みんな何が楽しいんだろう、人がこんなに辛いのに……って。正直、ミリオンヒットをいくつか出して10億円貯めて、とっとと辞めたいと思っていました。10億円で沖縄に祖父みたいに劇場を作り、死ぬまで毎日踊り続けられたらいいな、って。

 でも、10億円なんて貯まらないって気づいて(笑)。と同時に「あれ? 私ちょっと歌が好きかも」と感じるようになっていたんです。いつ辞めてもいいと思っていたのに、ツアーが終わりが近づくと寂しくて、もっとみんなで一緒にいたいと思うようになっていた。私、不純だ――。そう感じ、いったん歌を辞めることにしたのです。

――2001年から約5年間の活動休止は、それが理由だったのですか?

 そう。デビューしてからなんとなくレンガを積んできたけど、動機が不純だったからガタガタになっていた。そこにもし大きなレンガを積んだら壊れてしまう。これまでのレンガを一度全部崩して、歌が好きという前提で積み直さなきゃ。そう思った。

 でも、休むと決めたときはすごくうれしかった。歌をさらして商売にしなくていい、踊るために歌う、歌が自分のものだけだった生活に戻れるんだ……。うれしくてうれしくて、走って沖縄に帰りました(笑)。

沖縄に戻って気づいたこと

――沖縄での暮らしは?

 快適快適(笑)。踊りたいときに踊り、歌いたいときに歌う。自分勝手にできるのはすごく自由で快適だった。

――快適だと以前の暮らしやポジションに戻るのは苦痛になるもの。でも、また音楽の世界に戻ってきた。Coccoさんを動かしたものは?

 歌を歌いながらよく海辺を散歩していたのですが、とても汚かったので、ゴミ拾いを始めたんです。そのとき、私が歌手として「ゴミを拾おう」と呼びかければみんなが拾ってくれるかも、と思って。私の踊りでは人を引き留めることはできないけれど、歌ならば人が足を止め、耳を傾けてくれることを知っていたから。歌を歌って「ゴミを一緒に拾ってください」と伝えれば、100人が聴きに来てくれたら100個のゴミがなくなる。そうやって歌を使えばいいんだ、と。だからもう一度、歌手として歌うことにしたのです。

――活動休止中に気持ちの変化はありましたか?

 休んでいる間に絵本を描いたんだけど、絵筆を持っているときも歌っていた。結局、何をしても歌になっちゃんだということに気づき、腹をくくりました。そして、それまでは海で歌ったらその歌は忘れちゃっていいやと思っていたんだけど、絵本を描いているときに歌った歌は、そのあと絵本を読むときにまた自分で聴きたいと思った。そのためにレコーディングをして形にしたい。そういう欲求が生まれたような気がします。

絵本やお芝居があるからバランスが取れるのかも

――活動再開後は、歌に加え、絵本、エッセーなど表現の幅が広がり、さらに映画や舞台で演じることにも挑戦しています。きっかけは?

 沖縄ではスター役者だった祖父と同じ土俵では絶対に勝てないと思ってたから、お芝居はやっちゃダメだとずっと思っていました。でも、デビューするとき当時のディレクターに「Coccoは絶対女優になるよ」と言われたんです。歌だけでいっぱいいっぱいで芝居をやってる余裕なんてない。そのときはそう思ってたんだけど、どこかにその言葉が残っていた。ディレクターが亡くなり、証明したくなったのかもしれません。

――実際にお芝居をしてみてどうでしたか?

 楽しかった! すべて自分でコントロールできて、やりたい放題だった。歌は私の感情とはまるで関係なく生まれてきてしまって、やりたいようには何もできない。歌が威張ってて、私はいつもペコペコしながら「すみません、もう勘弁してください」みたいな(笑)。でもお芝居だと私のほうが威張ることができる。「スタート!」と言われたら泣いて、「カット!」がかかればすぐに笑える。思うがままだわ!って(笑)。自分でコントロールできることがあるというのがすごくうれしくて楽しくて、もっともっと演じてみたいと思うようになりました。

――様々な表現方法を手にしたことで、歌や音楽に変化は?

 自分が高い塔に住んでいて、これまでは歌という一つの窓しかなく、そこから激流のようにすごい勢いで吐き出していた。それが、絵本やお芝居といったほかの窓が増えたことで勢いが穏やかになる――。そういうことなのかと思ってたんだけど、最近それもちょっと違うかも、って。というのも、絵本を描いてもお芝居しても、何をしても結局歌になってしまうから。

 やっぱり塔には歌という一つの窓しかなくて、相変わらずほとばしるように噴き出している。塔の下には池があり、これまでは歌という激流で池の水があふれそうになっていたけれど、その池にいくつか穴ができて、そこから水が流れていくから溺れないでいられる。その穴がほかの表現方法です。歌は相変わらずコントロールできずにだだ漏れだけど、池の穴には管理人がちゃんといて「いっぱいになったので開けまーす」って(笑)。そんな感じで、バランスが取れるようになった部分はあるかもしれません。

ニューアルバムは、一生懸命生きる女性に聴いてほしい

――8月、約2年ぶりのアルバム「アダンバレエ」がリリースされました。タイトルに込めた思いは?

 気づいたら39歳になっていて、生き急いできたつもりが、はからずも生き残った側になっていた。じゃあ「生存者(サバイバー)による生存者(サバイバー)のためのアルバム」を作ろう。そう思ったとき、私の中でアダンの葉が揺れていました。アダンは沖縄では身近な植物。鋭いトゲがたくさんあって、戦時中、沖縄の人たちはアダンの茂みに身を寄せ、痛みに耐えながら戦火を逃れていた。私にとってサバイバーの象徴だったのです。でも、血まみれの光景はあまりに生々しすぎる。それを中和しようと、私の中で最上級にポジティブなものを無意識でくっつけた。それが「バレエ」です。すると、痛々しさがなくなり、アダンが風に踊るような風景が見えた。これなら痛みや苦しみに対峙(たいじ)できるな、って。

――どんな人に聴いてほしいですか?

 今を生きるすべてのサバイバーに……とは言っているけれど、本音は30代から40代の一生懸命働き、一生懸命生きている女の人たちに捧げたい。正直、今回は男性リスナーのことは考えていない。Coccoのファンは女の人が多いっていうのもあるんだけど、最近本当に男性に対する冷たさが増してるねー(笑)。

――(笑)。

 そもそも「サバイバー」で男性をイメージしなかった。戦争で生き残っている人の話も、ひめゆり学徒隊とかばあちゃんたちとか、女の人から聞くことが多かったからかもしれないけど。

 ピカソが70歳近くで父親になれたように、男っていくつになっても巻き返せるけど、女には期限がある。自分が描いた将来設計を達成するために「何歳までにこれをやらないと」っていうことが男より多い。それは私自身そう実感しているし、同級生の女たちもみんな同じように感じているんです。「アダンバレエ」は、自分が人生のサバイバーだと実感している人しか共感できないと思う。高校生が聴いても、きっとわからない。その高校生が大人になったとき差し出せたらいい。男の人も、案外還暦過ぎると共感してもらえるかも。人生必死に走ってきて、さてこれからどうしよう? と悩んでいる人たちに届くといいな。

――来年デビュー20周年、そして40歳を迎えます。どんな風景が見えていますか?

 正直、こんなに長く歌ってるなんて思ってもみなかった。これからもわからない。池の管理人次第ですね(笑)。サバイバーとしてはきついことも多いけど、年上の友達が「40超えたら楽になるよ」って言っていたんです。ならば、臆することなく前に進みたいですね。

    ◇

Cocco(こっこ)

1977年沖縄生まれ。シンガー・ソングライター、絵本作家、女優。 97年、シングル「カウントダウン」でメジャーデビュー。「強く儚い者たち」「Raining」などのヒット曲を生み出す。絵本「南の島の星の砂」(2002年 河出書房新社)をはじめ、「こっこさんの台所」(2009年 幻冬舎)、「コトコノコ」(2012年 幻冬舎)、「東京ドリーム」(2013年 ミシマ社)などエッセーも多数。近年は女優としても活躍し、岩井俊二監督映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」(2016年)などに出演。2016年8月、通算9枚目となるアルバム「アダンバレエ」をリリースした。
Cocco公式サイト:http://www.cocco.co.jp/

【ライブ情報】
「Cocco Live Tour 2016 “Adan Ballet”」
9月13日(火) 愛知・Zepp Nagoya
9月15日(木) 広島・HIROSHIMA CLUB QUATTRO
9月22日(祝・木) 新潟・りゅーとぴあ劇場
10月2日(日) 東京・NHKホール
10月7日(金) 福岡・福岡国際会議場 メインホール
10月11日(火) 東京・昭和女子大学 人見記念講堂
10月21日(金) 宮城・仙台PIT
10月25日(火) 大阪・オリックス劇場

【イベント情報】
「沖縄のウタ拝 2016」
10月30日(日) 沖縄・浦添市てだこ小ホール
※Coccoは踊りで出演

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