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<51>モーニングに魚定食 昭和が香る喫茶店

  • 文 吉川明子 写真 石野明子
  • 2016年10月13日

 いつも地元の人たちや観光客が行き交い、にぎわいを見せる浅草の新仲見世通り商店街。その一角にある建物2階の「昔ながらの喫茶店 友路有 浅草店」は、店名のとおり、昭和の雰囲気が色濃く感じられる喫茶店だ。

 「こんにちは~。お好きな席にどうぞ!」

 笑顔でそう声をかけられると、初めて訪れる店に対するかすかな緊張がほぐれた。両脇の壁にはぎっしりと詰まった本棚が設置されており、自由に読めるようになっている。

 「本店は赤羽にあるのですが、そこでオーナーが自分の本を並べるようになったのがきっかけです。だんだんお客さんが古本を持って来てくださるようになり、この店にある本もほとんどがお客さんからいただいたものなんです」

 と話すのは、店長の佐々木加奈さん(29)。漫画は店の雰囲気に合わないので置かないという決まりがあり、単行本や文庫本などの小説が大半。無料で貸し出しもしており、スタッフに声をかければ2週間借りることができる。

 「お客様にいただいた本は棚に入りきらないほどなので、たまに入れ替えをしています。紙ナプキンやしおりが挟んであり、誰かの読みかけと思われるものはそのままにしておきます。家から持参した本を直接棚に“寄付”してくださる方もいらして、本棚の整理をしている時に、『こんな本あったっけ?』と思うこともたまにあります(笑)」

 中には定期的に、本をまとめて持参してくる男性もおり、佐々木さんは「このあたりの棚はその“お父さんエリア”なんですよ」と、棚の片隅を指差しながらほほえんだ。

 店長2年目となる佐々木さんは接客が大好きで、かつてはホテルで働いていたが、もっとフレンドリーな接客がしたいという思いが強まってホテルを辞めた。

 退職後、たまたまアルバイトとして入った店が「昔ながらの喫茶店 友路有」で、常連客との何気ないやりとりや、アットホームな店の雰囲気に触れた。そして、常連客の好みを熟知しているベテランスタッフが、客が何も言わなくてもいつものメニューをさっと用意する姿に驚いた。その時、自分が求めているものを見つけたような気がしたという。

 オーナーの信条は“喫茶店は日本の文化”。スタッフと客が絶妙な距離感でゆるやかなつながりを保っており、いつ来てもほっとできる、居心地のいい場所づくりを心がけているという。さらには朝6時半から営業しており(赤羽店は5時半から!)、モーニング、ランチ、喫茶、夕飯とさまざまな時間帯で利用することができる。

 フードメニューを開くと、随所にこだわりが感じ取れる。まずは数年前から始めたという、築地から仕入れる魚の定食の数々。魚の種類は仕入れの状況によって異なるが、焼き魚や煮魚定食などを提供している。また、オーナーの父が喫茶店を営んでいた頃からの「先代」メニューも人気で、ナポリタンやオムライス、ポークジンジャーなどの洋食も充実。メニューの豊富さは喫茶店の範疇(はんちゅう)を超え、もはや定食屋のようでもある。

 「朝はこれから仕事に行く人にしっかり食べてもらい、ランチも常連さんに飽きないで楽しんでもらえればと思っています」

 浅草という土地柄、国内外の観光客も多いが、昔から地元に住む人たちも足しげく通っている。中には、雨の日以外は毎日バスで通い、魚定食を食べる80代の夫婦もいるという。

 「昔ながらの喫茶店にあって、カフェにないのは人とのつながり。うちは『いらっしゃいませ』だけは使わないようにしていて、いつも普通のあいさつをしています」

 店に入った時、店員さんに『こんにちは~』と声をかけられたことを思い出した。初めて入った店なのに、温かく迎え入れてもらえたと感じた理由がひとつここにあった。

■おすすめの3冊

『アニメ絵本 あらしのよるに』(監修/「あらしのよるに」製作委員会、著/きむらゆういち、杉本ギサブロー)
ある嵐の晩、真っ暗な山小屋で互いに正体が分からないまま知りあった、オオカミとヤギ。食うものと食われるものに生まれついた2匹が友情をはぐくむ物語。アニメ映画化もされ、本書はその絵本版。「これは私物なんですけど、本当に好きな本! どうしても手元に置いておきたくて、探し回りました。これを読むとすぐに泣いてしまうので、泣きたい時に読むんです」

『博士の愛した数式』(著/小川洋子)
80分しか記憶が持たない天才数学者と、幼い息子を抱えて働く家政婦の私。その出会いと幸福な1年を描いた物語。「会話の中に何かしら数式が入っていて、いろんな意味を持っているんですけど、それがとても素晴らしくて」!

『片思いさん』(著/坂崎千春)
「Suicaペンギン」の生みの親であるイラストレーターのエッセー集。大好きな本や癒やしのおやつ、恋についてなど、心に染みる文章とイラストが詰まった1冊。「前の職場の先輩に誕生日にもらった本なのですが、偶然浅草店の本棚にもありました! 文章もイラストもかわいくて、何度も読み返しています」

>>写真特集はこちら

    ◇

昔ながらの喫茶店 友路有 浅草店
東京都台東区浅草1-29-3-2F
http://www.kissaten.jp/

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