MUSIC TALK

ブラジルのリズム、洗練のジャズ。ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート

  • 文・堀内隆志
  • 2016年10月25日

(左から)デボラ・グルジェル(piano)、シヂェル・ヴィエイラ(bass)、ダニ・グルジェル(vocal)、チアゴ・ハベーロ(drums)

  • (左から)デボラ・グルジェル(piano)、シヂェル・ヴィエイラ(bass)、ダニ・グルジェル(vocal)、チアゴ・ハベーロ(drums)

  • 10月5日にリリースした最新アルバム『DDG4』

  • 堀内隆志さん(photo:Sadato Ishizuka)

 アーティストインタビューをお届けする連載「MUSIC TALK」、今回は番外編として、ブラジル音楽に造詣(ぞうけい)の深い、鎌倉の人気カフェ「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」の店主・堀内隆志さんに、いま注目のブラジル人アーティストについて寄稿いただきました。

  ◇

音楽家のDNAが引き継がれる国、ブラジル

 今年大きな感動を与えてくれたリオデジャネイロオリンピックでの開会式や閉会式で、ブラジルのミュージシャンが多数出演して熱いパフォーマンスを繰り広げ、マラカナンスタジアムを沸かせていたのをテレビで観ていて、改めてブラジルは音楽大国だということを感じた。開会式でジゼル・ブンチェンが、ブラジルを代表する作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンの孫ダニエル・ジョビンがピアノを弾きながら歌った「イパネマの娘」に乗せて、優雅にウォーキングしたのはハイライトのひとつだった。
 ダニエル・ジョビンのように、ブラジルでは子どもや孫の世代もミュージシャンという家柄は珍しくない。ジョアン・ジルベルトは娘ベベウ・ジルベルト、カエターノ・ヴェローゾは息子モレーノ・ヴェローゾ、ブラジルの国民的歌手だったエリス・レジーナは娘マリア・ヒタといったように、二世、三世に渡って音楽家のDNAが引き継がれていく国だ。

母・娘・夫・“ソウルブラザー”の4人組「DDG4」

 サンパウロで活動しているダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート(以下DDG4)は、音楽学校で長きに渡りピアノ教師を務めていた母デボラ・グルジェルとプロカメラマンとしても活動しているボーカル担当の娘ダニ・グルジェルが中心となり結成されたカルテットである。ドラムスはダニの夫チアゴ・ハベーロ、ベースは“ソウルブラザー”と呼ぶシヂエル・ヴィエイラの4人。チアゴとシヂエルはスタジオミュージシャンとしても引っ張りダコで、渡辺貞夫との共演で知られるセザール・カマルゴ・マリアーノやホメロ・ルバンボのトリオのメンバーとしても活動している。
 DDG4は、ブラジルの多彩なリズムをジャズのフォーマットで即興を交えながら演奏するスタイルだ。レパートリーはオリジナルのほか、ブラジル音楽の名曲、スティービー・ワンダーやビートルズ、マドンナのヒット曲までと幅広い。技巧派と呼ばれるミュージシャンはテクニックに走りがちなのだが、確かな演奏力を持つ3人にダニのキュートでキャッチーなボーカルやスキャットが乗ることで、クールでありながら親しみやすいサウンドが生まれる。ブラジル音楽愛好家はもちろんだが、ジャズ、ポップスファンにも支持されているのは、ありそうでなかったDDG4独自の世界観が受けているからだ。

最大の魅力はステージに

 DDG4の魅力はライブにある。僕が初めて彼らの演奏を目にしたのは、2012年に行われたダニのシアトル公演だった。DDG4結成まではソロ名義で活動していたダニのアメリカツアーは、シヂエルを除くメンバーでアメリカ人ベーシストを加えたDDG4のフォーメーションで行われた。ステージは終始ニコニコしているメンバーがアイコンタクトでビシッとブレイクを決める。ダイナミックなブラジルのリズムに洗練されたジャズのハーモニーがミックスされたサウンド。衝撃だった音楽のシャワーに、僕は心を奪われ虜(とりこ)になった。それと同時に「もっとたくさんの人たちと彼らの音楽を共有したい」とも思ったのだ。

 翌13年、DDG4が正式に結成され、アルバム『ウン』を国内盤でリリース。タイトルのウンとはポルトガル語で1という意味だが、ダニによれば家族の一体感も表しているという。収録されているマイケル・ジャクソンのヒット曲「ロック・ウィズ・ユー」のカバーは、斬新なジャズアレンジが評判を呼び、FM局でスマッシュヒットを記録。そして、その年の秋に東京JAZZで待望の初来日を果たした。日本では全くの無名に近いアーティストだったが、彼らのライブ終盤には野外ステージに黒山の人だかりができるほど、多くの観衆の度肝を抜くステージを披露。SNSで瞬く間にDDG4の名前は拡散されることになった。14年には日本で体験した出来事をもとに作られた曲「テーハ・ド・ソル」を収録するアルバム『ルース~光』をリリースし、全国7カ所を巡る2回目の来日ツアーを行った。

 さらにDDG4の進撃は続く。全曲カバーアルバム『ネオン』とホメロ・ルバンボがゲスト参加した『ガーハ』の2枚を15年にリリース。3回目の来日ツアーでは、初のブルーノート東京公演を成功させた。終演後のサインを求める長蛇の列は、彼らの演奏が観客の心を鷲(わし)づかみした証しだった。昨年末に発表された「J-WAVE SAUDE! SAUDADE…」と「月刊ラティーナ」が共同開催している2015年ブラジル・ディスク大賞の一般投票部門において、『ガーハ』が見事1位を獲得。彼らの日本での歩みを応援している身としては感慨深い出来事だった。

 今年に入ってダニは娘ヒタを出産した。10月5日にリリースされた最新アルバム『DDG4』のブックレットには大きく「ヒタへ」と記され、愛娘に捧げられた曲が2曲収録されている。デボラからダニへ、そしてヒタへと音楽家の血筋は受け継がれていくに違いない。

 『ウン』から一貫して行われているスタジオでのライブレコーディングという形式で録音された『DDG4』。このタイトルは、日本のファンが付けた愛称をそのままつけたものだ。

 いよいよ4度目の来日ツアーが迫ってきた。ぜひ会場でアットホームな雰囲気ながらエキサイティングなプレーを見せる彼らのステージを体験してほしい。きっと何か新しい刺激を持ち帰ることができるはずだ。

  ◇

『ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート“DDG4”リリースツアー2016』

11月1日(火)ビルボードライブ大阪
11月2日(水)鎌倉 カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ
11月3日(木)鎌倉 カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ
11月6日(日)ブルーノート東京
11月7日(月)ブルーノート東京

ライブの詳細はこちら

  ◇

堀内隆志(ほりうち・たかし)

1967年東京生まれ。1994年に「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」をオープン。カフェ経営と並行して、ブラジル音楽のアルバムプロデュースや選曲、ラジオ番組のパーソナリティー、執筆と、活動は多岐にわたる。一方、6年前に始めた自家焙煎にも夢中の日々。著書に『珈琲と雑貨と音楽と』(NHK出版)、『コーヒーを楽しむ。』(主婦と生活社)、『はじめてのコーヒー』(ミルブックス/庄野雄治との共著)などがある。

[PR]

&wの最新情報をチェック


&wの最新情報をチェック

Shopping