MUSIC TALK

映画の仕事が、音楽を確信に変えた ハナレグミ 永積 崇(後編)

  • 2016年12月22日

撮影/篠塚ようこ

  • 撮影/篠塚ようこ

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  • 自身の楽曲や他アーティストとの共作楽曲を収録したアルバム「What are you looking for」(2015年8月リリース)

 オリジナルはもちろん、親交のあるアーティストから提供された楽曲を歌い、映画の劇伴も手がけるハナレグミの永積 崇さん。言葉を紡ぐことへのこだわりと思い、そして、ライブ愛を語る。(文・中津海麻子)

    ◇

前編から続く

映画「エンディングノート」の音楽を手がけて

――ハナレグミとして楽曲やアルバムをリリースする一方で、2011年公開の映画「エンディングノート」では劇中の音楽と主題歌を手掛けられました。

 実は東日本大震災後、創作活動がきつくなっていた時期があって。震災が起きたときはアルバム「オアシス」のレコーディング中だったんだけど、レコーディングを続ける精神状態じゃなくなってしまったんです。音楽なんてやってていいのか、と。

 「エンディングノート」のサントラのオファーは、アルバム制作の前に砂田麻美監督からいただいていました。自作のアルバムを作るのって、自分と対面し、自分に問うていく作業なんだけど、震災の後はそれがちょっとしんどくて。そこで、当初は自分のレコーディングを終えてからサントラに取り掛かろうと考えていたんですが、先にサントラを進めることにしたのです。人のモチーフに寄り添い、血を注ぐことならやってみたいし、やれるかもしれない、と。

 結果、それができたことはとても大きかった。「自分はまだこういう音が出せるんだ」と確認ができたんです。そして、このころから自分の作品にいろんな人が関わってもらうのがいいかもな、いろんな人と一緒にやってみたいなと、より強く思うようになったように感じます。

観る人、聴く人が、作品に自身を重ねる瞬間

――「エンディングノート」でプロデューサーを務めた是枝裕和監督との出会いがあり、それがきっかけで、今年6月に公開された是枝作品「海よりもまだ深く」の音楽を担当されました。完成後の是枝監督との対談などでは「深く語り合っていないのに共鳴した」と。

 ホントそうでしたね……うん。なんだったんだろう、あの感じは。

――そこが聞きたい!(笑)

 ですよね(笑)。お話が来た時にはすでに映像がすべて出来上がっていて、僕はそれを見て音を足していく、という作業でした。監督からは、エンディングテーマを作ることと、音楽をつけるシーンの指示はあったものの、具体的にこうしてほしいああしてほしいというのはあまりなかった。「感じたままに音をつけてほしい」と。

 映画で描かれている土地が、僕が育った街とかなり近いところだったし、あと、阿部寛さん演じる主人公の40すぎの良多と樹木希林さんが演じる母親の関係性も、どこか自分とかぶるようなところがあって。いろんな点で自分と隣り合う物語だと思いました。おそらく僕だけじゃなく、誰しもがあの映画の中に自分を見つけるんじゃないかな。でもそれが何かというと、言葉にするのは難しい。普段の暮らしの中でなんとなく過ぎていくこと、何げない日々の空気感だから。そうした時間や空気を切り取り、セリフやシーンに一つひとつ落とし込む監督のすごさに、映画を見れば見るほど驚かされて。さらに、それをくみ取っていく役者さんたちの演技があって。ものづくり、映画作りのすごさを垣間見ました。

 僕が言っていいのかわからないけれど、あの映画には答えがないんじゃないか、と。観る人が自分を重ねた瞬間に引っかかってくる言葉とか時間とかを見つける。それが、監督が作品で意図したことなのではないかと感じたんです。

 「こうやって生きていこう」とか「日々に感謝しよう」みたいなわかりやすいメッセージがあるわけじゃなくて、自分という鏡に映画の中から映し出されたものが、きっとそれぞれの人へのメッセージになる。そう思ったら、あ、これって僕がこれまで音楽で続けてきたこととすごく近いかもしれない、って。ソロとして初めて出した曲「家族の風景」も、何が言いたいとか何かを感じてくださいなんていうのはなくて、聴いた人が何かを足したら動いてくる景色や匂いがあるんだろう、と思っていた。あの映画を見て、「これでいい」と教えてもらったような気がしたんです。それはすごく大きかったですね。

時を経たものに感じるいとおしさ

――ラストシーンで流れる主題歌「深呼吸」も、是枝監督が絶賛したとか。

 最初ハミングの状態で聴いてもらったんですが、監督から「これでいい、歌詞なくていいですよ」と言われ、「えーっ!? 書きますよ!」って(笑)。ただ、答えのない歌詞にするべきだと思った。

 そして、最後のフレーズは「あと一歩だけ前に」という表現でとどめました。「前に進もう」までは書いちゃいけないような気がした。映画は良多が離婚した妻や息子と別れ、電車に乗るシーンで終わるんだけど、その瞬間、良多は「前に進もう」と思ったんじゃないか。でも、とはいえ、じつは「進もう」というほどは定まってない。きっとみんなそうなのかもな、と。僕もだけど、「よし、頑張るぞ」って一瞬は意気込むものの、2日ぐらいするとまた元に戻っちゃう(笑)。そういう繰り返しなんですよね。だからあえて「進もう」は書かなかった。僕がそうした表現が好きということもあるけど、そんな部分と監督が映画で描いたこととがシンクロしたのかもしれません。

 そして、映画を観る前と後では、僕の中の「時間の色味」がちょっと変わりました。実家に帰ったときに、時間を経た周りの風景がいとおしく感じるようになったんです。隣の家のボロボロになった鉄柵も、小学校のときは新築だったけど今はだいぶ経てきた家とかも、なんだかいとおしいなぁ、みたいな(笑)。わずか数十年の中にも甘えたくなるような時間が育ってるんだな、って。新しいものの中にずっといると、いつもフレッシュじゃなきゃいけないって追い立てられる。それはそれでアッパーで楽しいけど、古くなる快感や、時間の中に埋まっていく心地よさみたいなものもあると、あの映画に出会って気づいたんです。

 そんな作品にあのタイミングで関われたのはすごくいい経験になりました。そして、自分の言葉というものにちょっと興味が出た。言っちゃうと、そもそもあまり自分の歌詞に興味がないので(笑)。

――え? そうなんですか?

 自分の歌詞は見返さないし、CDも出来上がると聴かないし。でも、たまに友だちと車に乗っているときにふと自分の曲がかかると、他人のような距離感で自分の言葉が聴こえてきて、「この場面でこの言葉っていいね」みたいに感じて、ちょっと歌いたくなってきたぞ、なんてことはある。自分の音楽や言葉とは、そのぐらいの距離がちょうどいいと思っていて。

 僕はライブがすごく好きなんですけど、ライブってその瞬間で消えていけるあいまいさがいい。瞬間にバン!と弾けて、あとは余韻になっちゃう、みたいな。そういう、だんだん消えていく音源があればいいのに。だって毎回バッチリすぎると恥ずかしいじゃないですか(笑)。

 レコードって何度も聴くうちにだんだん擦り切れてくるけど、ああいうのに憧れる。二度とそこには戻れないほうが、言葉やメロディーはいい。だからその一瞬にエネルギーを集中したいし、だからこそ入り込めるんだと思います。

ライブ盤は、呼吸しているように聴こえるはず

――ライブと言えば、昨年リリースしたアルバム「What are you looking for」のライブ盤の配信が9月から始まりました。聴きどころは?

 ツアーは、これまでで一番完成度が高かったかも。新曲と昔の曲がうまく混ざりあった選曲も曲順もすごくよかったし、ミュージシャンワークも素晴らしかった。以前は「みんな楽しんでいこうぜ、イエーイ!」みたいなノリだったんだけど、今回のツアーではセットを工夫したりして、観客の皆さんにもライブの時間をゆっくりと味わってもらえたんじゃないかな、と。

 僕の歌は、ライブでどんどん変わってくるんです。音源どおりに歌うことにはあまり興味がなくて、お客さんの空気感をその都度感じながら演奏したり歌ったりするのがすごく好き。だから、おそらく僕が呼吸しているように聴こえているはず。ライブ盤は、そうしたライブの景色や空気感、僕の緊張までもが感じられるミックスに仕上がっていると思います。

――「これから」のハナレグミは?

 声って日々変わっていくもの。だから、歌えるタイミングと場所があるなら、抑えず、まとめず、歌っていきたいですね。やっぱりライブがいい。うん。今までだったらやらないような編成とかもやってみて、それによってまた新しいアイデアが出てきたりして。ソロのよさは、たった一人でもできるし、100人とも一緒にできる。そういう自由度はこれからも楽しんでいきたいですね。

 あとは、もっといろんな人と出会って、機会があるなら一緒にやってみたい。年上でも年下でも、俳優さんでも。まだまだ止まれないな、動き続けたいな、と。

――次は誰と一緒に?

 さぁ、誰と組むんでしょうか? 楽しみにしててください。てか、僕が一番楽しみにしてるんですけどね(笑)。

    ◇

永積 崇(ながづみ・たかし)

1974年、東京生まれ。1997年、「スーパーバタードッグ」でメジャーデビュー。2002年、バンドと並行して「ハナレグミ」名義でソロ活動をスタートし、同年、ファーストシングル「家族の風景」とファーストアルバム「音タイム」を発表。
2015年、自身の楽曲に加え、野田洋次郎(RADWIMPS)、YO-KING(真心ブラザーズ)による楽曲提供や、池田貴史(レキシ)、大宮エリー、辻村豪文(キセル)、堀込泰行(元キリンジ)との共作楽曲を収録した通算6枚目のアルバム「What are you looking for」をリリース。
2016年5月、是枝裕和監督映画「海よりもまだ深く」の主題歌「深呼吸」をシングルとしてリリース。また、「What are you looking for」を披露した公演を収めた配信限定ライブアルバムを、2016年9月から配信している。

ハナレグミ公式サイト:http://www.hanaregumi.jp/

【ライブ情報】
ハナレグミ ライブハウスツアー「名前のないツアー」

3月3日(金)HEAVEN'S ROCK Kumagaya
3月5日(日)郡山HIP SHOT JAPAN
3月17日(金)浜松 窓枠
3月19日(日)岐阜CLUB ROOTS
3月21日(火)京都磔磔
3月22日(水)京都磔磔
3月24日(金)富山MAIRO
4月2日(日)旭川 CASINO DRIVE
4月4日(火)小樽 GOLDSTONE
4月7日(金)盛岡club CHANGE WAVE
4月9日(日)石巻 BLUE RESISTANCE
4月14日(金)鹿児島 CAPARVO ホール
4月15日(土)長崎 DRUM Be-7
4月17日(月)周南 RISING HALL
4月19日(水)神戸 Harbor Studio
4月21日(金)高松 MONSTER
4月23日(日)和歌山 SHELTER
5月12日(金)横浜BAY HALL

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