写真のよろこびと哀しみ

<13>高まるリスク、そしてお金のこと

  • 文 小林紀晴
  • 2013年7月30日
  

 人を介すれば介するほどリスクが高まるとは、どういうことか。

 具体的な例をあげれば、こんな感じだ。ある出版社が旅行のガイドブックを作ることになって、制作プロダクションに制作を丸投げしたとする。すると、その制作プロダクションがカメラマンやライター、デザイナーに仕事を依頼する。

 お金の流れは、出版社が制作プロダクションに決まった金額を支払うかたちが多い。制作プロダクションはその金額内ですべてを制作しなくてはならない。そのなかにはカメラマンの撮影料のほかにライターの原稿料、デザイナーのデザイン料、宿泊費、交通費などが含まれる。だから、制作プロダクションは自分のところの利益を増やすため、もろもろを切り詰めることになる。当然のことだ。この場合、出版社からカメラマンに直接支払われることはまずない。

 よって、カメラマンは制作プロダクションからギャラをいただくことになるのだが、制作プロダクションによっては経営が苦しいところも当然ある。まとまった金額が入ってきたら、それを先に違う支払いにまわさなくてはならないこともある。つまり自転車操業である。その悪循環にカメラマンも巻き込まれてしまうのだ。

 支払いが滞っていると、まったく気がすすまなかったが、時々、催促の電話をすることになる。いまのようにメールはない。頃合いを見て数ヶ月ぶりに電話すると、担当者が会社を辞め、話がまるで通らなかったこともあった。とにかく20代の頃は、そんなことにパワーを多く使った。

「ごめんなさい、いま一年前にやっていただいたカメラマンさんに払っているので、あと半年くらい待ってもらえる?」

 などと平気で言われたりした。でも、たいして腹も立たず、そんなもんかと思っていた。

 私の経験でもっともリスクが高かったのは、制作プロダクションとよく仕事をしているフリーの編集者とかフリーのライターから撮影の依頼を受けた場合だ。なんとなく誰がいつ払ってくれるのか聞かないまま撮影を終え、ところで、ということになると編集者やライターは「制作会社が払う」と言い、制作プロダクションに訊ねると「それはその編集者が払うことになっている」などと言い出すパターンだ。

 それでも撮影の依頼がくると、うれしくて「はい、やります。やらせてください!」などと答え、仲良く遠くまでロケに行ったりする。自分でも不思議だ。

 でも、そのあとは全然支払われない。その繰り返しで、払われるはずのギャラが架空の残高として増えていく。しまいには、それがもらえるときが来るとは信じられなくさえなっていくのだ。やがて、その金額だけが増えていくと、不思議なことにその制作会社がどうかつぶれませんようにと心配し、同情心まででてくる。 

(「アサヒカメラ.net」2013年7月29日掲載) 

 

アサヒカメラ


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PROFILE

小林紀晴(こばやし・きせい)

1968年、長野県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真科卒業後、新聞社カメラマンを経て、91年よりフリーに。1997年に『ASIAN JAPANESE』で脚光を浴びる。同年『DAYS ASIA』で日本写真協会新人賞受賞。作品集に『homeland』『days new york――デイズ ニューヨーク』『SUWA』『はなはねに』など。他に『ASIA ROAD』『写真学生』『父の感触』『十七歳』など、著書多数。

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