島めぐり

屋久島<7> 気がつけば、海水浴場近くでコーヒー屋

  • 文・写真 宇佐美里圭
  • 2014年1月14日

 屋久島最北端にある一湊(いっそう)は、古くから漁業で栄えた村。今も屋久島の特産品である「首折れサバ」の産地として知られている。そんなのどかな村に、島内外から人を集めるコーヒーショップがある。

 その名も「一湊珈琲焙煎(ばいせん)所」。県道沿いに建つ白い平屋の一軒家が風景に溶け込んで、注意していないと見落としてしまう。大きな木彫りのコーヒーカップが目印だ。

 コーヒー豆の麻袋でつくった暖簾(のれん)をくぐると、白い壁と木に囲まれたナチュラルな空間が広がる。豆を買いにくる地元の人、コーヒーを飲みにくる子連れのお母さんや観光客……。小さな空間にひっきりなしに人が出入りし、和やかな雰囲気が漂う。

 お店の奥にはテラスがあり、裏山を見ながらゆっくりとコーヒーを楽しむことができる。店内で販売しているCDやコーヒーグッズ、飾ってある本や小物、すべてが「コーヒーを楽しむ」空間をとても居心地のよいものにしている。

 豆は、栽培から収穫、輸送、保管まで徹底的に品質管理された世界各地の“スペシャルティコーヒー”が中心。店主の高田忠幸さん(38)が毎朝、焙煎する。香り高く雑味はなく、はっとするほどの味で、島外からネットで注文してくる人もいるという。

「もともとはコーヒーってそんなに好きじゃなかったんですよ。でも、あるときスペシャルティコーヒーを飲んで、世界がガラリと変わりました。フルーツみたい!と思った。俺が今まで飲んでいたものは何だったんだろうって。白黒テレビからカラーテレビに移行したくらいの衝撃でしたよ(笑)。情報量というか、解像度が全然違う」

 今でこそ多くのファンを持つコーヒー豆を焙煎しているが、こうなったのは“たまたま”だとか。「あれ、なんで俺はコーヒー屋になったんだろう?って感じなんですよ」と、高田さんは笑う。

 熊本県育ち。大学から東京に出て、10年ほど都内で暮らした。ソウルやジャズが好きで、昔から時間があればレコード屋に入り浸っていた。大学卒業後は就職せず、そのままフリーターに。アルバイトをしながら、お金がたまるとアメリカへレコードの買い付けに行き、それをネットで販売して小遣いを稼いでいた。

 大学時代から付き合っていたのが、今の奥さま、みかこさん。みかこさんは屋久島の一湊で生まれ、親の転勤に伴って高校から鹿児島へ。高田さんと同じ大学を出て、卒業後は出版社の編集者として働いていた。

 いつしか2人は、彼女の仕事の夏休みが取れると、屋久島のみかこさんの実家へ行くように。海辺の空き家に目をつけたみかこさんのお父さんが、「リフォームして、お土産屋さんをやりたい」と言い出した。

「当時の屋久島は今以上に観光客が多かったんです。特に、一湊にはきれいな砂浜の海水浴場があるから、夏はかなりにぎわっていました。あれこれリフォームの計画をたてているうちに、僕らで海の家をやろうか、という話になったんです」

 なんとなく“流れ”で、高田さんとみかこさんは海の家を始めることになった。もちろん海の家なので、夏の1カ月間だけ。初めは屋久島産の山芋「屋久とろ」を使った丼ものやカレー、かき氷など、海の家の定番メニューを出していた。

「夏休みが終わると、彼女は東京の出版社の仕事に戻って、俺はバイトに戻って……。そんな生活を4年くらい続けていました。でも、だんだんそれがつらくなってきたんですよね。家って長く空けると、機械が湿気で壊れたり、虫が増えたりして、掃除が大変なんです。たった1カ月住むためだけに、毎年引っ越しをしているような感じになってきて、だったらもうこっちに来ようか、と」

 移住も“流れ”だった。ネットが使えるなら「ま、いっか」という気軽な気持ちだったという。屋久島に移住する人にしては珍しく、高田さんは特別に自然が好きなわけでもなかったし、屋久島にこだわっていたわけでもなかった。“たまたま彼女の実家があったから”。しかも、島に2人で移住したときは、まだ結婚さえしていなかった。

「いちおう結婚の話をしようかなと思っても、お義父さんにすぐ話をそらされちゃって。聞きたくなかったみたいですね(笑)」

 結婚も「移住後、これまた“流れで”」とみかこさんは笑うが、2人はどこまでも自然体だ。

(つづく)


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