シネマな女たち

役者が生きる「空間」つくる

  • 文 佐久間文子 写真 篠塚ようこ
  • 2013年7月22日
「私よりもっと上手な人がいますよ」と謙遜する三ツ松さんだが、セットの元になるデザイン画は、おどろくほど完成度が高い

写真:三ツ松さん愛用のノートとペン。ノートには、映画の場面展開と必要なセットが、独自の図式になって書き込まれている。「こうすると、頭の中に整理できるんです」三ツ松さん愛用のノートとペン。ノートには、映画の場面展開と必要なセットが、独自の図式になって書き込まれている。「こうすると、頭の中に整理できるんです」

 美術デザイナー 三ツ松けいこさん(41)

 「映って2割」。仕事を始めたころ、上司に言われたことばだ。カメラに切り取られて映るのはセットの一部でしかない。だが映らない部分も含めてつくりあげた空気は、役者の演技を通して確実に観客に伝わる。

 是枝裕和監督の「誰も知らない」、西川美和監督の「ゆれる」「夢売るふたり」の美術や、崔洋一監督「血と骨」のセットデザインなどを手がけてきた。是枝監督の初の連続ドラマ「ゴーイング・マイホーム」で、テレビのセットとは思えない生活感あふれる室内をつくったのも三ツ松さんだ。

 最初から映画の世界に入りたいと思っていたわけではない。

 「高校を出てふらふらしていたとき、コマーシャルのエキストラのアルバイトをしたんです。スタジオにセットがどーんとあって、そのセットを箒で掃除しているお姉さんがいて、こういう仕事をしてみたいなと思ったんですね」

 映像の裏方の仕事を探して、日活芸術学院に美術科デザインコースがあるのを知った。当時の講師には映画美術の第一人者である木村威夫さんもいた。

 卒業してアルバイトしながら仕事を探していたとき、照明の仕事に進んだ同級生が、若手を探している美術の人を紹介してくれた。

 「朝早く歌舞伎町に集合して会社に連れていかれ、いきなりちょっとした作業をまかされました。わけがわからないまま、とにかく仕事は面白くて。いまでも美術をやりたいという若い人には、だいたいそんな感じで仕事を始めてもらっていますね」

 台本を渡されるとまず、舞台となる場所や、必要な小道具を確認する。主人公が暮らす部屋なら、その経歴や性格、几帳面かずぼらか、部屋は片付けるほうか、趣味は何か――といったことまで監督との間でつめた上で、図面に落としていく。

 これまでに手掛けた作品の、セットの図面を見せてもらった。「ゴーイング・マイホーム」の主人公が住むマンションや、伝説の生き物「クーナ」探索の事務局が置かれた歯科医院。「夢売るふたり」で阿部サダヲと松たか子の夫婦がかいがいしく立ち働く小料理屋。映画やテレビで見たあの空間は、この一枚の紙をもとにつくられたのかと感じ入った。 パソコンで描く人も多いが、三ツ松さんは基本手描き。どうすれば制作スタッフに伝わりやすいか考えながら、カラーペンを駆使して空間のイメージを立体的に描き出す。

 「是枝監督の『歩いても歩いても』のときに、監督が『主人公の実家の壁や鴨居に画びょうがささってて』って言ったんです。なるほど実家って、何でもないところに画びょうがささったままになってるな、って。柱を磨いたり壁にやすりをかけたり、画びょうを汚したりといったことは私も考えつきますけど、もっともっと考えて、かゆいところに手が届くような美術をめざしたいなとそれを聞いて思いました」

 9月には、カンヌで審査員賞を受賞した是枝監督の「そして父になる」が公開される。

 「福山雅治さんと尾野真千子さん。リリー・フランキーさんと真木よう子さん。二組の夫婦の違いが暮らす家にも出ていますので、そこのところもぜひ見てください」


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PROFILE

佐久間文子

佐久間文子(さくま・あやこ)

1964年大阪市生まれ。朝日新聞でおもに文化、文芸・出版関係の記事を担当。2011年に退社しフリーに。「文藝春秋」「野性時代」「本の雑誌」などでインタビューや書評を執筆している。

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