シネマな女たち

「映画は私の子ども」 買い付けに注ぐ愛

  • 文 坂口さゆり 写真 篠塚ようこ
  • 2013年11月1日
初めて見た洋画『スター・ウォーズ』で衝撃を受けた。「私の映画人生はそこからはじまりました。映画には人生を変える力があるんです」

写真:自身の作品のチラシは常に持ち歩く。取引先に渡すのはもちろん、置いてくれそうな店があればすぐに交渉。「草の根的な宣伝活動をしています」。肌の疲れはフェイスマスクでケア自身の作品のチラシは常に持ち歩く。取引先に渡すのはもちろん、置いてくれそうな店があればすぐに交渉。「草の根的な宣伝活動をしています」。肌の疲れはフェイスマスクでケア

映画配給会社ドマ代表取締役 澤木映里さん

 いくら話題の海外映画があっても、それを買い付ける人がいなければ、日本で見ることはできない。

 澤木映里さん(47)は映画会社の1バイヤーとして、「美しき諍い女」「ラン・ローラ・ラン」「インファナル・アフェア」など、1990年から数々のヒット作を買い付けてきた。

 米留学などを経て、2010年、自身で映画配給会社ドマを設立。ドキュメンタリー映画「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したイラン映画「別離」、ニューヨークの名物ファッション写真家を取り上げた「ビル・カニンガム&ニューヨーク」と、見たら語りたくなるエッジの効いた話題作を立て続けに配給。11月30日には尊厳死をテーマにした「母の身終い」が公開される。

 「学生時代から自分の心に響いた映画を人に伝えたいと思っていました。でも、それは1会社員では難しい。自分の会社を持って初めてできることなので、思い切って独立を決めました」 

 映画の買い付けは、澤木さんのようなバイヤーと、映画を売ろうとするセラーとの“ゲーム”だ。バイヤーは狙った作品を少しでも安く買って大きく儲けたいし、セラーは少しでも高く売りたい。彼女の買い付けの決め手は、「私の映画!」と思えるかどうか。各国のセールス会社から送られてくる作品ラインナップや資料、事前に入手した脚本や情報などを参考にしながら、予算に合わせ、自分の買いたい作品を絞り込む。さらにマーケット会場である映画祭で実際に映画を観て、セラーの言い値を聞きながら、落としどころを探っていく。

 米国映画の買い付けは金額がモノを言うが、欧州の場合、バイヤーの情熱がセラーの心を動かすことがよくあると言う。「エル・ブリの秘密…」は、ベルリン国際映画祭で見つけた。「私は食べることも飲むことも料理をつくることも大好きなので、当時エル・ブリをよく知らなかったんですが興味を持った。それに超一流の人の舞台の裏側はだれでも見たいはずです。実際、映画を見たらシェフのフェラン・アドリアはすごく面白い人物で、『これは私の映画だ』と思いました」

 そこでセラーに映画への思いはもちろん、自分自身について熱心に語った。「私は本当に好きな映画しか買わない。私がハンドリングする映画は私の子ども。これは私のファーストベイビーよと(笑)。配給が決まった後で彼女に聞いたら、やっぱり私が一番熱かったそうです」

 今年のカンヌ国際映画祭では「別離」のアスガー・ファルハディ監督による最新作「The Past(原題)」を買い付けた。「別離」がオスカー受賞を果たしただけに、独立後に買い付けてきた中で一番競り合ったと言う。最終的には、「『別離』を買い付けた実績が考慮されたんだと思います」と澤木さんが言うように、バイヤーは信用第一。「この人に任せたい」と思ってもらうことが肝心なのだ。

 海外出張も多く日々仕事に追われる彼女にとって、気分転換は散歩。自宅界隈を歩きながらリフレッシュする。「バイヤーにとって常に感性を磨くことは重要です。美術館へ行ったり音楽を聴いたり。散歩も木々の色づきひとつをとっても季節を感じて楽しい。何かしら発見があります」


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PROFILE

坂口さゆり

坂口さゆり(さかぐち・さゆり)

東京都出身。生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な媒体に、「AERA」「Precious」「女性セブン」「プレジデント」など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』。

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