太陽のまちから

学校のリノベ 解体・新築より13億円節減

  • 文 保坂展人
  • 2014年3月25日

 自治体の財政にとって、老朽化した公共施設の更新は頭の痛い問題です。

 世田谷区のように、小中学校あわせて93校もあると、1校で平均27億円を要する改築費用は大きな支出になります。また、従来までの学校改築では、校庭にプレハブ仮設校舎を建て、本校舎の解体そして建築、さらには仮設校舎を解体して工事が終了します。そのプレハブ仮設校舎にかかる費用が平均で3億8千万円にもなるのです。

 プレハブ仮設校舎は堅牢な建物で、仕上がりは立派です。ベニヤ板の床がきしむような半世紀前のものとは違います。といっても、数年で解体するものにかける費用としては、けっして小さくはありません。

 そこで、行財政改革の対象として、学校建築のあり方を変えることはできないだろうかと考えました。

 日本には、古くなったコンクリートの建造物は「寿命」ととらえ、取り壊して改築するという「常識」があります。でも、それが本当にいいのでしょうか。私は、「大規模改修・リノベーション」で徹底的に手を入れて再生させる手法を取るようにできないか、と問題提起しました。

 当初は、「学校のリノベーションは費用と工期が余計にかかる」という強い反対論がありましたが、専門家の力をかりて、「コンクリートの強度の劣化対策」から全国の学校リノベーションの事例研究までの勉強会を重ねました。費用を削減できるだけでなく、さまざまな手法が開発されていることを知りました。

 こうして議論しているうちに、文部科学省は「学校長寿命化」に取り組む姿勢を明確に打ち出しました。これまで40年程度で取り壊し・改築の対象としてきた学校を、リノベーションによって80年使用可能なものに再生させるよう推奨する方針へと転換したのです。

 背景にあるのは、全国の自治体の財政難です。今後は「取り壊し」を前提とせずに、リノベーションの可能性を探っていく潮流が全国的に生まれていくでしょう。

 世田谷区でも、区立深沢中学校の一部をリノベーションすることが決まりました。これは、文部科学省の「学校長寿命化対策先導事業」に選定されています。リノベーションによる削減額は7億5千万円となる見込みです。

 こうして、まずは学校リノベーションの可能性を探り、校舎の配置や敷地の制約などの事情から全面改築を決めた場合でも、さらに一工夫することにしました。全面改築の場合、仮設校舎として利用できる空き校舎や空き教室が近所にあれば、それを活用するのです。そうすることでプレハブ仮設校舎をつくらないか、あるいはつくったとしても規模を抑えることができます。

 事例に基づいて考えてみましょう。たとえば、改築予定のA校の児童・生徒が、工事期間中に「空き教室」のあるB校に全員移れば、プレハブ仮設校舎の建設・解体費用は節約できます。また、「空き教室」を一部利用しながら、規模を縮小したプレハブ仮設校舎をつくる場合でも予算は削減できます。前者は3億円前後、後者でも1億円を超える節約効果が見込まれます。

子どもたちが、工事中にこれまで以上に歩かなければならないという側面はありますが、区内は学校が密集している地域も多く、子どもが歩ける範囲内で利用する学校を選んでいます。もちろん、交通量の多い道路を避けるなど、より安全な通学路の選定に留意します。

 効果は財政面だけではありません。自校で工事を完結させるのではなく、近くの学校に借りた「仮校舎」を利用することによって、工期を3分の2まで圧縮することができるのです。

 教育委員会でまとめた「学校施設整備基本方針」(第2次)では、学校の長寿命化をめざしたリノベーションや、建設コストの縮減について次のようにふれています。

<学校施設の既存の躯(く)体を活用して、改築よりもコストを抑え、求められる機能を付加して教育環境を確保する長寿命化の対策として、長寿命化改修(リノベーションなど)の手法を採用した新たな取り組みも重要です>

 このようにして削減した予算の一部を、子どもたちの教育環境や教材、校外学習や見学等の機会を増やすことに充てていきたいと考えています。

 行財政改革というと、とかく「区民サービスの削減」「施設利用料の値上げ」等が検討対象となります。たしかに、リーマンショックの経済減速に直撃された区財政を立て直すために、私はこうしたメニューにも取り組んできました。ところが、1億円を削減するのは並大抵ではありません。

 もっと大きな予算の構造を見なければと考え、着目したのが「学校建築手法の改革」でした。現在計画が進んでいる学校の改築・改修でも、これまでと比べて13億7千万円の歳出削減につながる見通しです。建設業界の人手不足やコストの上昇を考えると、自治体財政にとっては大きな改革となります。

 2年前に導入した、区が使用する大口電力の競争入札でも今年度の6650万円に続き、来年度は1億円の予算削減効果が見込まれています。

 このように、歳出構造の骨格を変えることによって、子育て支援や福祉等の新しい課題に取り組む財源を生み出していきたいと考えています。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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