太陽のまちから

沈黙のまま暮らす 65歳以上男性の6人に1人

  • 文 保坂展人
  • 2014年4月8日

黙ったまま暮らしている男たちがいます。

国立社会保障・人口問題研究所の「生活と支えあいに関する調査」(2013年7月)で、65歳以上の一人暮らしの人の回答を見て、驚きました。日常生活の中で「電話も含むふだんのあいさつ程度の会話の頻度」が「2週間に1回以下」と回答したのは、男性で16.7%でした。

 一人暮らしをしている65歳以上の男性のうち、約6人に1人が、2週間誰とも口を利かないか、挨拶(あいさつ)程度の言葉を1回しかかわしていない、というのです。一方の女性は、3.9%にとどまっています。

 世田谷区が区内15万人の高齢者を対象にした「全高齢者実態把握調査」(2010年)でも同様の傾向が見られました。一人暮らしの高齢者で「家族・親族・友人と会ったり連絡したりする機会が少ない」との回答は15.7%でしたが、男性が29.2%、女性は12.1%と、男性の方が社会的孤立の傾向が高いことがわかります。

 女性たちは自らの周囲に壁をつくらず、初対面の人でもつながっていくことが得意なようです。男性は、企業や組織の中での「社会的役割」を強く意識し、「組織内のコミュニケーション」を重ねてきたことで、枠組みがなくなると他者との関係がつくりにくいのでしょうか。

 誰とも話さない、挨拶をする相手もいない。いまや、買い物もコンビニやスーパーで黙って品物を出すだけで、会話をしなくても生きていくことは可能です。誰にも気を使うことなく自由とも言えますが、孤独と背中合わせでもあります。

 年を重ねると、体調の変化も起こりやすくなります。「顔色悪いね」「ちょっと胸が苦しいんだ」といった日常会話から診療に結びつくという機会がないと、孤立死・孤独死と地続きになるリスクがあります。

 高齢化が進んだ集合住宅の中で、孤立死・孤独死が連続して起こる問題では、定期的に巡回して声をかけたり、安否を確認する仕組みを導入したりするなどの工夫が一部で行われています。

 ただ、行政はこれまで、「誰とも言葉をかわさずに暮らす人」を政策の対象としてはあまり意識してこなかったのではないでしょうか。

 政府広報や自治体広報にも、にこやかな老男女と子ども夫婦と孫たちが談笑する「家族写真」がよく掲載されています。

 しかし、世田谷区の場合、3世代同居はわずか1.5%にとどまります。一方で、単身世帯は約50%を占めています。そのうち、65歳以上の一人暮らしは約4万人を数えます(2010年国勢調査)。このように、家族の姿は激変しています。一人暮らしの高齢者は、これからさらに増える一方です。

 日常生活の中で「おはよう」とか「ただいま」とか、ひと言でも誰かと言葉をかわすということは、家族が成り立っていた時代には当たり前のことでした。ところが、挨拶の相手も身近にいない、会話する相手もいないという人が相当数出ているのです。「家族」に代わり、「弧族」という言葉を耳にしたこともあります。

 そうした状況のなかで、私は、高齢者福祉にからんで、ふたつの場の提供を考えています。

 世田谷区内には、地区ごとに置かれた出張所・まちづくりセンターが27カ所あります。ここに、地域包括支援センター(世田谷区では「あんしんすこやかセンター」と呼ぶ)と、地区の社会福祉協議会の窓口を集めて、「身近な福祉の窓口」とするのです。これから3年かけて、その体制に移行する準備を始めているところです。

 もうひとつは、地域に老若男女が集える「コミュニティー・カフェ」や集いの場を多く創り出していくことです。たまには挨拶をかわし、雑談をするのもいいものです。

 一人暮らしでも週に1回は、誰かと食卓を囲んでゴハンを食べられる場や機会を、住民自身の運営によって生み出していってほしいと考えています。そのための支援をしたいと思います。今、力を入れている空き家活用も有力な手法となるでしょう。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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