リノベーション・スタイル

<65>33m²、北向き、下はラーメン屋でも…

  • 文 石井健
  • 2014年5月7日

 [celda]
 Mさん
 東京都新宿区
 築33年 / 32.84m²
 工事費700万円

 コンクリートむき出しの壁や天井に、ブラジリアンチェリーのダークな床、大きなステンレスの引き戸。その中に置かれたアンティークの机や掛け時計……。

 まるで映画に出てきそうな、この個性的な部屋は、実はさまざまな不利な条件を克服する中から生まれました。

 物件はわずか9坪ほどで、北向き。リビングには小さな窓が一つあるだけで昼間も薄暗い。しかも、下はラーメン屋。敷地境界線の関係で、壁の一方が斜めになっています。一般的には敬遠される条件ですが、その分値段も比較的お手頃。仕事の関係で帰宅は深夜というMさんは、即決で購入を決めたといいます。

 よく考えれば、日当たりのいい物件を買っても、昼間は家にいないのだから、太陽の光をほとんど享受できません。ならば、そこは割り切って、自分好みのインテリアを楽しもうと発想を変えたのです。

 斜めの壁がネックでしたが、よく計算してデッドスペースをなくしました。水回りは扇形のような空間に入っているのですが、浴槽は外壁に沿って置き、洗面台とトイレの正面のスペースを共有させました。ちょっとした発想の転換ですが、洗面台に立っているときはトイレを使わないし、トイレに座っているときは洗面台の前に立ちません。つまり、この両方の正面にあるスペースは重なっていても大丈夫なのです。

 キッチンも同じような発想でブーメラン型にし、コンロとシンクを組み合わせました。コンパクトですが、カウンターの中に洗濯機もあり、使いやすくなっています。キッチンの作業台は反対側に座ればカウンターになるようにしました。

 一番インパクトがあるのはキッチンの両脇にあるステンレスの引き戸でしょう。天井から吊(つ)っているのですが、これを開けると両側がクローゼットになっています。クローゼットを全開にすると、キッチンが隠れます。コンクリートとステンレスのハードな空間の奥に、真っ白で清潔感あふれるキッチンがあるんです。ストイックな空間の中にぽっかりあいた洞窟のような感じです(笑)。

 テレビ台の棚にも凝りました。白い壁に浮いているように見せるため、壁から少し離し、下から照明を当てたのです。

 多少条件が悪くても、発想を転換させれば可能性は無限であることを思い知らされるリノベーションです。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から500件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)


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