東京の台所

<67>子どもに隠れて台所でこっそりチョコを

  • 文・写真 大平一枝
  • 2014年6月4日

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・40歳
 戸建て・4LDK・京王線 分倍河原駅(府中市)
 入居5年・築5年
 夫(会社員・40歳)、長男(5歳)との3人暮らし

 私ってこんなにイライラする人間だったっけ――。35歳で子どもを産んでから気がついたという。

 もともと子どもは苦手で、最初の2年は、とにかく健康で無事に育てることだけに神経を注いだ。ああ、カワイイものだなあと思うようになったのはここ3年くらいのことらしい。

「男の子って少しもじっとしていなくて。あっちこっちで謝りすぎて疲れてしまって、今はもう謝るのもやめたというか……。子育てって小さなことを気にしていたら、きりがないじゃないですか。だから次第に気にしないようになりました。いい意味で、おおざっぱになったかな」

 ママ友という種類の人たちとも仲良くできる自信がなく、ひとりで育児書を何冊も読んで悩んでいた。それが、保育園に通い始めたら、同じように困っているママや、上の子がいる先輩ママもたくさんいることがわかった。そういう人たちと話しているだけで、どんどん気が楽になっていった。

 今は、月に1度は保育園のママやパパたちと集まって宴会をする。会場は持ち回りで、だれかが自宅を提供する。それだからか、台所には宴会用の子どもの木皿や小袋のお菓子がある。食器棚のどこを開けても整然としているのは、みんなが取り出したり片付けたりしやすくするためだという。

 台所もリビングも、いわば子連れの宴会仕様。長居したくなるような居心地の良さが漂う。

 仕事は、会社で映画のウェブサイト制作をしている。帰宅すると、とりあえず浅漬けのキュウリなどを子どもに渡して間を持たせる。疲れてイライラが爆発しそうなときは、アロマエッセンスをハンカチにひと噴きしてから吸い込む。ときには台所の陰に隠れて、大好きなゴディバのチョコレートをひとつ、口に放り込むこともある。

「高いから、子どもには内緒。なのに、子どもって鼻がきくんですよね。『あれ? チョコの匂いがするよ』なんて言うんです。そう? これじゃない?って、コアラのマーチを渡したりしてます」

 子どもが生まれる前は週末になると凝った料理を作っていたが、出産後は、蒸すだけ、焼くだけといった単純なものが多い。なるべく栄養価を壊さず、食材のうまみがわかるようにするためですかと聞くと、彼女は笑いながら頭を振った。

「それも少しはありますが、『時間がないから』が最大の理由ですよ!」

 かつて体を壊し、厳密な玄米菜食を続けたこともあったらしい。今はいちいち気にしていられないのでやめている。

「何もかもがんばって、自分が苦しくなって変な顔をしているより、頼めるところは人に頼んで、ゆるめるところはゆるめて、お母さんはニコニコしていた方が家族は幸せですよね」

 子どもがいたほうがいいとも、いないほうがいいとも思わない。どちらの人生もありだと思う。

「ただ、自分ってこうだったのかと、子育てをしている中で新しい発見をさせてもらうことが多いのは確かです」

 もうしばらく、イライラは続くだろうが、それもまた人生のスパイスになる。気を許せる人たちとの自宅宴会と、光の入るゆったりした台所でこっそりゴディバを食べながら、乗り切ってほしい。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」


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