太陽のまちから

出産前からママを支える「かかりつけ保健師」

  • 保坂展人
  • 2014年6月10日

写真:フィンランドの「育児パッケージ」(提供:NPO法人「ここよみ」) フィンランドの「育児パッケージ」(提供:NPO法人「ここよみ」)

 梅雨入りと同時この数日間、激しい雨が降り続いていました。中休みのように、小雨に変わった日曜日の午後、世田谷区内の古民家に子ども連れのお母さんたちが三々五々集まってきました。「ネウボラ・モデルを世田谷から」と題した、子育て支援システムについての勉強会に向かう人たちです。

 ネウボラは、フィンランドで子どもを持つすべての家庭を対象とする切れ目のない子育て支援制度です。妊娠に気づいた時から出産、そして就学前まで、ひとつの窓口(ワンストップ)で同じ保健師が「かかりつけ専門職」として相談に乗り、必要に応じてほかの職種の支援にもつないでいきます。フィンランドの子育て家庭のほぼ100%がネウボラを利用しています。日本でもここ数年、にわかに注目を集めています。

 ネウボラとはフィンランド語の「助言」(neuvo)が元になった言葉で「助言の場」(neuvola)という意味だそうです。

 勉強会は子育て支援活動をするNPO法人「ここよみ」が主催し、ネウボラに詳しい高橋睦子さん(吉備国際大学教授)、フィンランドで取材した榊原智子さん(読売新聞社会保障部)、母国フィンランドと日本で子育てをしてきた坂根シルックさん、在日フィンランド大使館の堀内都喜子さんらがゲストとして招かれました。

 まず、世田谷区内の子育てひろばを利用しているゼロ歳児のママたちが、子育て現場からの声を聞かせてくれました。

「出産後1カ月で実家の母が帰ってしまい、育児の仕方もわからずに気が張りつめていました。ちょっとした相談をしたくても、なかなか接点がなく、誰かと話したいと思っていました」(Aさん)

「双子を産んだけど、双子の育児についての情報が本当に少なかった。生後1カ月で『産後ケアセンター』を利用しました。初めて肩の力が抜けた5日間でした。『赤ちゃん訪問』の助産師さんに子育てひろばを紹介されて、初めて来た時にベビーカーから降ろすところから手伝ってもらえたのがうれしかった」(Bさん)

「第2子が生まれたとき、第1子の時には遠慮して利用しなかった『産後ケアセンター』に申し込みました。1泊だけでしたが、『ゆっくりお母さんになって下さい』と声をかけてもらって、やっとほっとできたと思います。お母さん同士の交流もできてよかった」(Cさん)

 世田谷区では、生後4カ月までの赤ちゃんのいる全ての家庭を助産師・保健師が訪問し、母子の健康・育児に関する相談や子育て情報の提供を行う「赤ちゃん訪問」も実施しています。

 また、話の中に出できた産後ケアセンターは、2008年に全国に先駆けて開設された施設(世田谷区桜新町)です。産後の健康不安や、体調不良がある時に母子でショートステイ、デイケアのサービスを受けることができ、利用率が高いのが特徴です。出産後の母子を対象とした本格的な施設で、全国の自治体からの視察など大きな反響を呼びましたが、その後は広がっていません。

 勉強会では、高橋睦子さんが、日本の子育て状況にひきつけて話してくれました。「セーブ・ザ・チルドレンによる調査「お母さんにやさしい国 2014」で、世界1位はフィンランドでした。日本は32位にとどまり、ここ数年ランクが一つずつ下がっています。

 フィンランドでは、「ネウボラおばさん」と呼ばれる保健師は、子どもや母親、父親、家族全員のことを出産前から良く知っています。定期的に対話を重ねて、他の専門職の支援が必要だと判断すると、他の機関へもつないでくれます。

 読売新聞の榊原智子さんは、出産して半年間の育休を取った時に辛い時期があったという。「どうしてもネウボラを見たくて現地を訪れて、日本に紹介すると大きな反響がありました」。シルックさんは、日本で第1子を生み、フィンランドで第2子を生んでネウボラの支援を受けた体験を語り、フィンランドで親たちが受け取る「育児パッケージ」を紹介してくれました。

 この日のハイライトは、フィンランド大使館から1セットの「育児パッケージ」が日本で初めて公開されたことです。素敵なデザインのダンボール箱には、赤ちゃんのよだれかけ、布オムツ、肌着から服、防寒着など実用的なアイテムが詰め込まれていました。KELA(フィンランド社会保険庁事務所)が毎年、出産前の4万世帯に配布している「祝福の箱」だそうです。母親手当として現金140ユーロ(約2万円)か「育児パッケージ」を選ぶことができるといい、ほとんどの人が「育児パッケージ」を選んでいるそうです

 日本の出生数は昨年も過去最低を更新しました。子育てを私事として突き放すのではなく、社会と地域が協同で支えるものとして制度を築き上げてきたフィンランドに学ぶ点は多いと思います。

 世田谷区でも、妊娠中から出産、乳幼児へとつなぐ「子育てサービス」のメニューはずいぶんと多様にそろえているつもりでますが、いくつかの窓口を訪れていただく必要があり、ワンストップにまで至っていません。

「ひとつながりの切れ目のない支援」は、子育て支援であるだけでなく、児童虐待防止策でもあります。世田谷区が3月末にまとめた、今後10年間の基本計画では、副題を「子どもが輝く 参加と協働のまち」としました。

 孤独や不安にさらされ、ひとりで悩みを抱え込んでいる母親たちを「ひとつながり」に支えるために何をしたらいいか、ともに考えていきたいと思います。幼子の瞳に映るお母さんたちが元気にほほ笑んでいられれば、子どもたちもほほ笑み返し、輝いてくれるはずです。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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