リノベーション・スタイル

<73>個室はなく、すべての壁が本棚

  • 文 石井健
  • 2014年7月2日

  [FRINGE]
 Sさん一家(夫34歳、妻33歳、長女8歳、長男6歳)
 東京都八王子市
 築40年 / 85.98m²

 この物件は、ほとんどすべての壁が本棚。しかも素通しで、本の隙間から反対側が見え隠れします。部屋の中心には馬蹄(ばてい)型のダイニング一体型キッチンを置き、そこから部屋全体をぐるりと見渡すことができます。

 それぞれの空間は目的によってカラーコーディネートされていて、子ども部屋は緑、寝室は紫、仕事部屋は赤、キッチンは黄色、というように壁がペイントされています。

 ここでまでくると、「どこかで見たことがあるような?」と思う方がいるかもしれません。映像ディレクターのご主人と、シナリオライターの奥様というご夫婦は、大の「天命反転住宅」好き。三鷹市にある、美術家で建築家の荒川修作+マドリン・ギンズによる反転住宅をリノベーションのモチーフにしたのです。

 物件はほぼ正方形の二面採光で明るい部屋ですが、大きい梁(はり)と真ん中にある柱がネックでした。

 そこで考えたのが、梁を無視して中心のキッチンから波紋状に空間を配置するA案と、梁の下を全部素通りの本棚にするB案でした。最終的に採用されたのは、AとBを掛け合わせた折衷案。つまり、キッチンを中心にして、本棚でグリッドを組んでいくというものになりました。

 本棚は棚が可動のところもあり、ランダムに仕切られています。隣の部屋を見るときは、必ず本が視界に入ります。棚ははしごみたいで、つい登りたくなりますよね。子どもたちは引き渡しの日にさっそく登ったりして遊んでいました(笑)。

 部屋には登り棒もありますが、あちこちに「つい体を動かしてしまう」ような仕組みが隠されています。天命反転住宅と同じように、「自分の体で空間を認識する」というのが建築のテーマとしてあるのです。

 すべての空間は本棚でゆるくつながっていて、完全な個室というものはありません。ガラス戸がついているのは、寝室とクローゼット、トイレや風呂だけです。

 キッチンは部屋の中心にあり、自然と人が集まるようになっています。フロアのタイルはスペイン人デザイナー、パトリシア・ウルキオラのもの。去年出たばかりのシリーズで、国内では初めて住宅に使ったそうです。

 子ども部屋からリビングの窓側にかけてはインナーテラスがあります。10センチほど段差があることで、部屋の中にありながら外のような空間ができ、縁側みたいになりました。

 天井にはアンカーをたくさんつけたので、ハンモックやブランコを吊すこともできます。「こうでなくてはいけない」という固定観念から開放されるのは、まさにリノベーションの醍醐味ですね。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から600件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。
ブルースタジオへのリノベーションのご相談は、隔月開催のセミナーや、個別相談で承っています。

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