太陽のまちから

ヤジ問題の根源に横たわる、無意識の意識

  • 保坂展人
  • 2014年7月8日

写真:塩村文夏都議(左)に謝罪する鈴木章浩都議=6月23日 塩村文夏都議(左)に謝罪する鈴木章浩都議=6月23日

 「都議会ヤジ問題」の報道を受けて、私は次のようにツイッターでつぶやきました。

 <魯迅はこのように書いた。「急場の失言の根拠とは、考える時間がないことにあるのではなく、考える時間がある時に考えないことにあるのである」と。何げなく口にする言葉は普段の意識の反映、改めて釈明する言葉はにわかづくりの外向きの言葉になる。外向きの言葉が浮遊するだけでは事態は変わらない>(6月22日)

 「考えるいとまがなく発言したのではなく、考える時間がある時に考えたり、語り合ったりしている」ことが「急場の失言」になったのではないか、ということです。

 6月18日、塩村文夏・東京都議会議員が都議会本会議場で耐えがたいヤジを受けたのは、「女性の晩婚化」にふれて「不妊治療を受ける女性に対してのサポート」を求める質問の最中でした。

 「早く結婚しろ」「産めないのか」

 こうしたヤジが報道で取り上げられた1週間後、それまで自身での発言ではないと否定していた自民党の鈴木章弘都議が名乗りでて、塩村議員に「軽い気持ちで発した。反省している」と謝罪しました。

 ただし、そのほかの「産めないのか」などのヤジは誰が口にしたのかはいまだに解明されていません。

 同様のヤジは、国会でもあったことが判明しました。日本維新の会の上西小百合・衆院議員が4月17日の衆議院総務委員会で、やはり少子化問題を質問しているとき、

「早く結婚して子どもを産まないとダメだぞ」

 とヤジられていたことが報道され、自民党の大西英男議員が「つい親しみから不用意な発言をしてご迷惑をかけたことを反省している」とHPで表明するに至りました。

 こうした不用意な発言が日常の風景の中に溶解していることをうかがわせます。

 「都議会ヤジ問題」が報じられると、新聞・テレビは一斉に批判的な論調となりました。石破茂・自民党幹事長も「誰であれ『自分でした』と言ってお詫びすべき。仮にわが党だとすれば、党としてお詫びをしなければいけない」(6月21日)と言い、野田聖子・自民党総務会長は、「仮に自民党議員のヤジであれば、安倍首相の成長戦略を否定しかねない発言」とし、「女性が活躍でき、子どもを産み育てられる国をつくらなければこの国はだめになると、これだけ首相が言っているのをきちんと聞いていなかったということだ」(6月21日)と批判しました。

 こうした反応を見ると、表面的には「女性の尊厳を傷つけたり、侮蔑したりするような態度はよくないとの社会的な合意」ができあがりつつあるようにも見えますが、はたしてそうでしょうか。

 冒頭で紹介した魯迅の言葉にあるように、日常の感覚や価値観、そして本音がヤジという形で表出しているのだとしたら、ヤジだけを反省しても何も改まらないということになります。今後しばらくは、「早く結婚しろ」「産めないのか」という言葉だけは議場で禁句になるでしょうが、そう思っても、口に出さなければいいのだというのでは反省にも何にもなりません。

 海外メディアの報道は、「性差別は日本企業では一般的」「依然として男性が社会的地位の大半を占め、高所得を得ている」(CNN) 「女性は結婚・出産後に退職を勧められることも多く、働く女性はお茶くみなど、さまつな仕事をさせられる」(ロイター)など、ヤジの背景にある日本社会や企業における女性の位置づけにも注目していました。

 自治体が子育て基盤を整備するのはもちろんですが、認可保育園をつくる土地を国から借りて整備しても、保育を希望する親たちが絶対的に多く、なかなか出口を見いだせていないのが現状です。 問題はハードの不足だけにあるのではないように感じています。

 私は、保育園待機児童の解消のために動くなかで、さまざまな声に触れてきました。保育園に預けた子どもが病気になって保育園に迎えに行くと、会社に居づらくなって退職したという話を聞きます。平気で残業を要求する企業側の身勝手な職場風土をそのままにして、保育時間を延長だけしても問題の解決にはほど遠いでしょう。

 たとえば、企業が子育て中の親に対して、急な子どもの病気による欠勤や遅刻・早退に理解を示し、保育園の迎えの時間に影響するような残業を禁止したり、それによる不利益な扱いをしないという原則を打ち立てたりすべきではないでしょうか。

 子どもの生活リズムや成長・発達を度外視した「24時間駅前保育」的な手軽な保育施設を規制緩和で増やして、女性の待遇を変えないまま長時間労働を可能にすると、第2子、第3子をあきらめなければならず、少子化に拍車をかけることになります。

 「都議会ヤジ問題」が真に問いかけているのは、塩村議員の訴えた「不妊治療への助成」をはじめ、働く女性の心身を支えるための制度設計の必要性ではないでしょうか。それが進まない社会を許している無意識の意識こそが、ヤジの背景にあるように思えてなりません。

 働く女性と子育てを支援する社会システムを構築することが、政治に求められた仕事です。それに本気で取り組まなければ、政治不信にこたえることはできないと感じます。それこそが「反省」の中身にならなければならないはずです。

 これを機会に「性別」を理由とした就職差別や職場でのセクハラ行為を禁止し、政府・自治体・企業などの社会全体に「子育て支援の責務」を課する立法や条例が検討されるべきだと思います。その議論が、政治の場で進んでいるように見えないことが、ヤジ問題の底流にあるものを映し出しているように思えてなりません。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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