太陽のまちから

バラ色ではない「希望の地図」を描く

  • 保坂展人
  • 2014年9月9日

写真:     

 2013年1月に、このコラムを引き受けてから1年半を超えて書き続けてきました。タイトルに「太陽」とあるように、当初は自然エネルギーの普及・拡大をはじめとしたエネルギー政策を中心とした内容が多かったのですが、次第に話題も広がっていきました。

 保育園待機児童問題や子育て支援、さらに住民の身近な地区に高齢化に備えた福祉の網の目をはりめぐらせていく事業などにも触れました。

 また、中学校から高校にかけての自分史にたちかえり、「孤独と絶望の壁」を前にしていた時期を回想しながら、教育とは何かを問いかける内容にも多くの反響をいただきました。

 そうして書き継いできたコラムの中から70本を選んでテーマ別に再編集し、大幅な加筆と修正を加えて、1冊の本ができあがりました。88万人のコミュニティデザイン 希望の地図の描き方

 出版を勧めてくれたのは、神田にある小さな出版社「ほんの木」の柴田敬三さんでした。2013年の大晦日の「天声人語」にも紹介されているように、市民参加の政治や脱原発のために、渾身の仕事を続けてきた人です。本の制作過程で根をつめすぎて体調を崩すほど、編集者としてハイテンションで伴走してくれました。

「すでにあるコラムの原稿をまとめればいい」と軽く考えていたのは間違いでした。その時々の社会情勢やニュースにあわせて書いたコラムを時系列で並べてみても、「過去ログ」の鮮度の落ちは否めません。

 そこで、テーマ別に分類してみると、具体例や論理構成の重複した記述が目立ちました。そこで、赤ペンで書き込みをしていく一方、ハサミで構成用紙を切り取り、再構成しました。仕事の合間に、何度か朝方までの作業となりました。

 本書のあとがきに、タイトルのいわれを書いています。

 「コミュニティデザイン」とは、コミュニティデザイナーの山崎亮さんが近年、大きく広げた言葉です。東日本大震災と原発事故以来、格別な意味をこめて使われるようになりました。街は暮らしの場であり、主人公は市民です。都市化と分業が進んで、肝心の暮らしの場に人々が居場所が持てなくなっています。

 互いに知恵を出して語り合い、問題を整理して、快適な街を生み出すためにどうしたらいいでしょう。街の現状と課題を共有して、十分に語り合う必要があります。コミュニティデザインでは、地域で人と人のつながりをていねいに、細やかに紡いでいきながら、デッサンを進めます。

 かつて、このプロセスを世田谷区では「住民参加のまちづくり」と呼んできました。積極的にワークショップを重ね、多様な住民の意見が交わされ、行政の描いていたコンテとは異なる「まち」が生み出されてきました。

 たとえば、小川のせせらぎが流れる北沢川緑道は人気の散歩道となりましたが、北沢川の暗渠化にともなって生まれた地上部のせせらぎは、下水再生水を利用した人工的なものです。当初、行政の描いていた計画は直線の川でしたが、ワークショップで「川はくねくねと曲がっているもの」という声があがり、その通りになりました。

 そうした、まちの主人公である人々の声に耳を澄ませて、希望ある未来へとつなげていきたいと考えています。

 そこで、「希望の地図の描き方」という副題をつけました。

 永田町政治の場では、困ったことに「言葉」は色あせ、力を失っています。政治家への信頼もひどく低い状態です。2009年に大きく期待を集めた「マニフェスト」と「政権交代」のその後の失速が災いしているのだと思います。

 「希望の地図」というだけで、実現するかどうかわからない「バラ色の絵図」といった印象がつきまとい、信じるものかと反発する人もいるかもしれません。

 だからと言って、多くの人々が「旧い政治」への全面的な回帰に納得しているわけではないでしょう。強いものはより強く中心部で富を謳歌(おうか)し、弱いものはより弱く周辺部に吹き飛ばされる――。そんな政治は、人々が内面に宿す「希望」を縮小させ、また奪いかねないと思います。

 私は世田谷区長として、人々に飽きられた「バラ色の絵図」でもなく、「旧い政治への回帰」でもない第三の道を描こうとしています。本書は、理念や評論ではなく、具体的なテーマごとに、どのように取り組んできたのかを記した実践の記録です。

 きょうは、全国の書店に並ぶ発売日です。時代の表層を漂うニュースに飽き足らないからこそ、ひとつひとつていねいに、これからも発信していくつもりです。

『88万人のコミュニティデザイン 希望の地図の描き方』>>

 

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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