太陽のまちから

若者たちを支える 未来を膨らませる

  • 保坂展人 
  • 2014年9月16日

写真:     

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 2年がかりで準備してきた「若者支援政策」がこの秋、走り出しました。昨年春に「子ども部若者支援担当課」を設置し、2014年度には「子ども・若者部」と名称を変えました。そして、相互に関連しあう「若者支援」の現場がスタートすることになりました。

 9月1日、世田谷ものづくり学校の一角に世田谷若者総合支援センター」がオープンしました。これまでも、ものづくり学校の3階では、就労にむけた支援を行う「若者就労支援センター」(せたがや若者サポートステーション)と就業体験等の機会を提供する「ヤングワーク世田谷」が活動してきました。

 そこに新たに、ひきこもりに悩む若者たちやその家族をサポートする「メルクマールせたがや」がオープンしたことで、総合支援の枠組みが整ったことになります。

 「メルクマールせたがや」の運営を委託した社団法人青少年健康センター(茗荷谷クラブ)の齋藤友紀雄さん(臨床心理学者)とは、かつて故牟田悌三さんと「チャイルドライン」(子ども専用電話)を立ち上げようとしている時に「いのちの電話」の経験をお聞きしたことがあり、10数年ぶりにお会いしました。

 ここでは、教室を改造して、ひきこもりに悩む若者たち自身の「居場所」として機能するリビング風の空間と、相談ができるブースに分かれています。すでにある若者サポートステーションとも10メートルほどの距離なので、利用者同士の交流や情報交換も活発にできそうです。

 ひきこもりの状態に入った若者たちがそのまま歳を重ね、親も高齢化して深刻な社会問題となっていると言われたのは、すでに20年近く前のことでしょうか。ひきこもりの状態を一時的にでも経験している若者たちはいまでも、多いように感じます。この20年の間に起きたのは、「ひきこもりの日常化」だったのかもしれません。

 7月末に世田谷区が開催した「若者支援シンポジウム」で、精神科医の斉藤環さんは「年間3万人台と言われた自殺者は、ようやく3年前から減り始めたが、若者は減っていない。若者の死因の1位は自殺で、就活疲れも目立っている」と指摘しました。

 放送大学副学長の宮本みち子さんも「親は若者の環境が大きく変わったことを自覚しなければ。職場環境や競争は大変厳しい。仕事の内容はどんどん高度になり、スピードを求められ、ミスをしないと同時にいくつものことを複線的に行うことが要求され、長期間やっているとだんだんおかしくなる」と発言されました。

 ひきこもりの状態に入って社会との接点を失い、苦悩しながら自分を責める「生きづらさ」を抱える若者たち。一見、元気に仕事をしているように見える裏側にある労働環境や緊張の糸が張りつめられ、いつプツンと切れてしまうかどうかわからないというリスクと背中合わせの日常に目を凝らさなければ、と思います。

 私も出席した「イクメン座談会」(「AERA」2014年9月1日号)でも、父親が子育て参加に向かうには「長時間労働」が最大の壁になっていることを語り合いました。家族で夕食をともにとることができない働き方がスタンダードになっていて、ゆっくり語り合ったり、くつろいだりすることを許さない競争のリズムが男たちを支配している現状が語られました。

 「ひきこもり」という苦しい状態にありながら、自己承認を取り戻し、自分のやり方で歩き始めることをサポートするという場は、疲れて萎縮している若者たちを元気にして、ただ競争社会に押し返すという単純な役割を演じることではありません。親と子の関係をうるおいのあるものにリフレッシュし、若者自身にとって、友達や地域社会もふくめて多様な社会資源を獲得していく過程であってほしいと思います。

 若者総合支援センターが置かれた世田谷ものづくり学校の界隈ではこの夏、「カレーパンまつり」が行なわれました。世田谷区内のパン屋さんが腕をふるうカレーパンを集めてきて、サポートステーションの若者たちが売り子になり、ものづくり学校に入居するデザイナーをはじめ多くの人が協力してくれて成功させました。

 「ここで出会えてよかった……」。これからもそんな物語が生まれる場に成長してほしいと願っています。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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