太陽のまちから

子どもの声は騒音か、それとも希望の響きか

  • 保坂展人
  • 2014年9月22日

 2年前の夏、「子どもの声は騒音か」とツイートしたところ、反響が反響を呼んで、新聞、雑誌、テレビでも取り上げられたことがありました。当時、ツイッターを始めて2年あまりでしたが、全国から次々と寄せられる具体的事例の数々に驚き、SNSの情報拡散力を体感しました。翌年、始めたばかりの連載「太陽のまちから」の2回目で私はこう書きました。

 <反響を呼んだのは「子どもの声は騒音か」というテーマのツイートでした。昨夏、子どもの声がうるさいという苦情が保育園の近隣から寄せられ、子どもたちが外に出られずに困っている、とつぶやいたのです。その情報は、毎日20件ほど送られてくる「区長へのメール」に目を通すなかで知ったのです。反響は予想を超えるものでした。最も多い時で2千人、その後も半日で300人から500人にリツイートされました。(『SNSと「集合知の広場」』(2013年1月16日)

 こうしてツイッターから始まった議論は、メディアを一巡していきました。新聞やテレビで取り上げられると、「誰もが子どもだったはず。次の世代を排除するなんて悲しい」「年金も医療も子どもがいなければ成り立たないことがわからないのか」という20代、30代の声が多く返ってきました。

 ただし、この問題の根は思った以上に深いものでした。2年前、ツイッターでつぶやいたときは、苦情を口にするのは保育園や幼稚園、学校などの近隣の住民の方がほとんどでした。それがいま、保育園建設が一斉に進んでいるせいか、「保育園は、そんなうるさいのか」と保育園の建設予定地で反対の声をあげる人が出てきたのです。

 都市部では、住宅街が密集し、保育園をつくれるスペースは限られています。一昔前の郊外のように、周辺は田畑や空き地という環境はほとんどありません。従って、住宅やマンションに接して保育園をつくるということになります。「保育園を1日でも早くつくってほしい」と泣きそうな表情で訴える親たちの要望と、「静かな住宅街に保育園をつくる必要はない」という声の板ばさみになっているのです。

 ドイツでは2011年5月に、「子どもの声」をめぐって連邦法が改正されました。子ども施設(乳幼児・児童保育施設及び児童遊戯施設)から発生する音を、環境騒音から除外するというものです。背景には、ドイツ社会でも「子どもの声」を「環境騒音」として訴えた住民による訴訟が相次いだことがありました。

 たとえば、08年秋にハンブルク市の幼稚園(定員60名)が住居区にあることを理由に裁判所から閉鎖命令を受け、09年にはベルリン市で商業・住居地に幼稚園が入っていたために「目的外使用」として裁判所から移転を余儀なくされるという事態が起きています。

 ハンブルク市では幼稚園側が敗訴し、「規模縮小・防音壁」という妥協案が浮上したものの、「子どもの声は騒音だ」という判決そのものへの批判が高まりました。

 一方、ベルリン市では2010年、州新法で「子ども騒音」を保護する法的措置がなされました。ドイツ連邦各州で初めてとなる州法改正によって、子ども施設からの騒音は法的に保護されることになったのです。

 「市環境局は『子どもが原因の音は今後、法的にも社会的にも容認すべきものと判断されることになる』としている。関係するベルリン州環境侵害防止法の改正(中略)により、幼稚園、休暇施設など子どもの使用が想定される施設は、近隣住民の声があがったとしても、その存在が保証される」(独誌「シュテルン」電子版 2010年1月16日)

 このような法的措置は、ドイツ全体で行なわれるべきだという議論の広がりが、「子どもの声」を「環境騒音」が除外する法改正につながり、子ども施設周辺の静穏権を求める住民訴訟の道を封じたのです。

 2年前にこの動きを知った時、ドイツでも「子ども施設と静穏権をめぐる対立」があったことに驚くとともに、日本ではもう少し穏やかな解決方法があるはずだと感じていました。近隣の方々と信頼関係をつくり、子どもたちと交流を重ね、コミュニティの力で対立から融和へと転換する努力を重ねられないか、という感覚です。実際、近隣住民の激しい建設反対運動にみまわれながら、保育園側の努力によって対立が融和され、最終的にはは最大の協力者になっているというケースも報告されています。

 それでも、対立が先鋭化するケースもあるようです。「保育園児の声は騒音? 近隣住民の1人が提訴 神戸」(9月6日付朝日新聞)によると、神戸市東灘区の保育園をめぐり、近隣住民の1人が、防音設備の設置や慰謝料100万円の支払いを求める異例の裁判を神戸地裁に起こしたそうです。仮にも、この訴えを一部でも認める司法判断が確定したら、全国に大きな影響を与えることになるでしょう。

 ベテランの保育園関係者に聞くと、近隣関係との騒音問題は昔からあったといいます。この問題が顕在化してきたのは「待機児童解消」に向けて、保育園新設が急ピッチで行なわれていることも背景にあるのだろうと思います。待機児童数が1千名を越える世田谷区でも国の官舎跡地等を借りたり、民間の土地に多額の助成をしたりして、来年度の開園に向けて10カ所の認可保育園の準備を進めています

 「子どもの声は騒音か」という問いに対して、「子どもの声は騒音から除外しよう」という地域合意をつくらなければいけない時期に入っているものと感じます。子ども施設の努力と近隣住民の反対の声を、地域コミュニティの力で解決・受容するという道を探りながら、「子どもの声」をめぐる基本ルールをつくりたいと思います。

『88万人のコミュニティデザイン 希望の地図の描き方』>>

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。

&wの最新情報をチェック


&wの最新情報をチェック

Shopping