太陽のまちから

総選挙の争点を決めるのは国民だ

  • 文 保坂展人
  • 2014年11月25日

写真:衆院解散を受け会見する安倍晋三首相 衆院解散を受け会見する安倍晋三首相

 あわただしい季節の日常に紛れて、師走選挙になだれこむ「関係者」と、政治選択の焦点が定まらず遠い世界の出来事に感じている「有権者」の構図を示す調査があります。

 朝日新聞の世論調査で、衆議院選挙に「関心がある」は「大いに関心がある」(21%)と「ある程度関心がある」(44%)を合わせて65%でした。「大いに関心がある」と答えた人は過去3回の衆議院選挙と比べると半分以下で、格段と低いことが気になります。この関心の低さが変わらなければ投票率はあがらず、「そんな選挙ってあったっけ?」と棄権する人が続出することになりかねません。

 風が冷たくなってきた11月21日、安倍首相は衆議院を解散、「12月2日公示、14日投票」という日程が決まりました。解散風が吹き始めたのは11月の半ば、さらに解散から公示までの期間が11日ときわめて短いことも特徴です。

 過去、衆議院の解散・総選挙を「関係者」、つまり候補者として何度か体験している私にとってさえ、今回の解散は唐突で、解しがたいという感覚にとらわれます。2年前の衆院選で圧勝した自民党は、法案を通し、政策を実現するのに十分な圧倒的多数の議席を有していて、任期を2年残したいま「解散」することに多くの有権者も違和感を覚えています。各メディアの世論調査でも、今回の「解散・総選挙」に同意できないという懐疑的な声が過半数を超えています。この違和感と低関心は底流で結びついています。

 安倍首相が解散する一因に挙げたのは、11月17日に発表された、7月-9月期のGDP(国内総生産)の実質成長率が年率換算でマイナス1.6%となったことでした。こうした状況を受けて、消費税率の8%から10%へのアップを「1年半先送り」する、というのです。 

 安倍首相のこの判断は、消費税増税法に書き込まれている「景気条項」によるもので、私も妥当だと思います。民主党は当初、「予定を変えずに増税せよ」と主張していましたが、すぐに「先送り容認」に転換しました。安倍政権は当初、「増税先送りの是非」を争点にしたかったようですが、与野党が一致したのであれば争点にはなりません。しかも、すでに法律に書かれていた要件を解散と結びつけるのは無理があります。

 私には、「長期政権を築くための解散」にしか見えません。そのように考えれば、この秋のすべての経過に納得がいき、説明がつきます。

 安倍首相は9月に内閣改造を行い、「地方創生」と「女性活躍」を2本柱に据えました。「集団的自衛権の憲法解釈変更」を受けた法整備は来春の統一地方選挙後に先送りして、ソフト路線で支持率の維持を試みたのです。ところが、番狂わせが生じました。小渕優子・経産相、松島みどり・法相に問題が生じ、改造から2カ月足らずで女性閣僚のダブル辞任となって、政権は失速したのです。

 そうした状況下で、来春の統一地方選挙後の政治日程をにらみ、野党の布陣が整わない年末の解散・総選挙が権力維持のためにもっとも魅力的だと判断したのではないでしょうか。「私にとって、今がもっとも有利な時期だから解散する」と明言してもらうとわかりやすいのですが、有権者としては言外の事情を読み取るしかありません。

 安倍首相は衆院解散後の記者会見で、「アベノミクス解散だ。私たちの経済政策が間違っているのか、正しいのか、他に選択肢があるのか国民にうかがいたい」と問いかけました。そもそも、アベノミクスと呼ばれる経済政策が経済を好転させ順調に推移しているのであれば、この時点で「解散」の理由にはなりません。

 たしかに株価は上昇し、急激な円安は自動車産業など、大手企業に空前の収益をもたらしています。一方で、この春の消費税増税と物価上昇に賃金は追いついていません。消費税増税後の消費は冷え込んでいて、生活不安は広がっていると感じます。年金支給額は下がり、介護保険、健康保険などの国民負担額も上がっています。

 アベノミクスは、一握りの富裕層を潤した一方で、消費税増税と物価高の直撃を受ける多くの人々には負担増となって跳ね返っているのです。

 本当の争点は、この衆院選をへた後の4年間、2019年まで政治の舵取りを安倍首相に委ねるかどうか、だと思います。

 2年前に第2次安倍政権が発足してから昨年の参院選までは、「経済優先」の安全運転でした。ところが、参院選で勝利して衆参両院で多数派を握ると、「特定秘密保護法」が急浮上しました。ひろがる反対の声にもかかわらず、巨大与党の力で強行突破をはかりました。この法律は、この衆議院選挙の公示後の12月10日に施行されます。(2013年12月10日 「特定秘密保護法 弾丸列車は止まらないのか」

 そして、「憲法9条の制約上、集団的自衛権行使はできない」としてきた歴代政府と内閣法制局の憲法解釈を、自民・公明の協議だけで推し進め、閣議決定で180度転換してしまいました。この閣議決定の日、私は次のように書きました。

<おそろしく重要なことが、なにげない日常のニュースにまぎれて語られています。戦争の入口をくぐってしまうと、出口にたどり着くのは至難の業です。その間には想像を超える犠牲を余儀なくされるのです>(2014年7月1日「日本の重大な分岐点 解釈のはてに」

 ただし、この閣議決定のみでは、他国に加えられた攻撃に対して、「自衛隊による集団的自衛権の行使」はできません。根拠となる法整備が必要です。それほど急ぐ必要があるなら、秋の臨時国会に提案してしかるべきでしょうが、国民の反発が予想されることから先送りし、「来春の統一地方選挙後」に続々と提出されるはずです。この「集団的自衛権行使」をめぐる閣議決定を警戒する世論はひときわ強いといえます。

 また、東日本大震災の直後に起きた「東京電力福島第1原子力発電所の重大事故」は、福島県のみならず広域に甚大な被害を与えました。地震と火山活動がますます活発化する中でも、「原発再稼働」が安倍政権の既定路線ですが、 なんとしても原発に再依存するという姿勢に、脱原発を求める声は大きく膨らんでいます。2年前の総選挙ではあいまいだった「再稼働推進・原発再依存」方針はいまや明確です。

 さらに、安倍首相が狙うのは「憲法改正」です。すでに、自民党が2012年にまとめた「日本国憲法改正草案」があります。この内容も多くの国民が知り、議論が活発に展開されるべきだと思います。

 国政選挙の争点は、政権が決めるものではありません。国民が、世論が選択するものだということを示すために、「低関心」の壁を取り払うことがまず必要です。

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


&wの最新情報をチェック

Shopping