太陽のまちから

「子どもを産まないのが問題」発言の底にあるもの

  • 文 保坂展人
  • 2014年12月10日

写真:     

 奇襲戦法のような突然の総選挙に、とまどいを隠せない有権者が目立ちます。序盤、中盤と各報道機関の事前調査は、解散時以上の「自民党の圧勝」の予想が並びました。「アベノミクス選挙」と呼んで、長期政権の足がかりを築きたい安倍首相の意図は、冷めた反応のまま受容されていくのでしょうか。

 どの世論調査でも、政治に対する国民の関心のトップは「社会保障政策」にあります。少子高齢化で人口バランスが大きく崩れている今、どうやって持続可能な社会保障政策が実現できるのか。だれにとっても他人事ではありません。

 総選挙のラストサンデーとなった7日、札幌市内の応援演説で麻生太郎・副総理兼財務相が「子どもを産まないのが問題」とした発言が波紋を呼んでいます。それは以下のようなものでした。

<日本の場合は少子高齢化になって、昔みたいに働く人6人で高齢者1人の(社会保障に)対応をしていたものが、今はどんどん子どもを産まねえから、なんか高齢者が悪いようなイメージに作ってる人がいっぱいいるけど、子ども産まないのが問題なんだからね。長生きしたのが悪いことなんか言ってもらったら困りますよ。子ども産まれないから結果として、3人で1人の高齢者を、もう少しすると(現役世代)2人で(担う高齢者は)1人になっちゃう。それは間違いなく、税金が高くなるということですよ。それを避けるためには、みんなで少しずつ(消費税で)負担してもらう以外に方法はありません。ということで、私どもは消費税ということを申し上げております>(YouTubeより)

 麻生財務相は「高齢者が悪いようなイメージをつくっている人が多い」として、「子どもを産まないのが問題だ」と続け、社会保障を支える人口構成の変化と消費税による税負担の必要性を訴えたかったのかもしれませんが、「子どもを産まないのが問題だ」という言い方にひっかかるのはなぜでしょうか。カレンダーを半年前に戻してみましょう。

 6月、東京都議会でヤジ問題が起きました。本会議で質問に立っていた女性議員が、

「早く結婚しろ」「産めないのか」

 とのヤジを浴びせられたという問題です。しかも、「女性の晩婚化」にふれて「不妊治療を受ける女性に対してのサポート」を求める質問の最中でした。一部のヤジをとばした自民党議員は「軽い気持ちだった」と謝罪しましたが、だれが、どう発言したのかの全容は伏せられたままになっています。

 その後、国会でも「少子化問題」について質問している野党の女性議員に対して、自民党議員から「早く結婚して子どもを産まないとダメだぞ」という発言があったことが明るみに出ました。この発言の主も「親しみから不用意な発言をして迷惑をかけた」と謝罪しています。

 ヤジとは、議事録に記載されない不規則発言です。「都議会ヤジ問題」で議論されたのは、たとえヤジであっても、女性を侮辱したり、尊厳を傷つける発言は許されないという反省であり、社会的合意だったのではないでしょうか。(「ヤジ問題の根源に横たわる無意識の意識」

 政治家の言葉、とくに公衆を前にした演説は、ヤジとはレベルが違います。まして、副総理兼財務相の演説は、政権の屋台骨を背負うものと受け取られて当然です。国民の審判を仰ぐ総選挙の演説で、「子どもを産まないのが問題だ」と発言してしまえば、手離した風船のように世間という大空に飛んでいくのは当たり前の話です。

「子育て支援」や「女性の活用」は、安倍首相の掲げる金看板ではなかったのでしょうか。政治家であれば、「子どもを産まないのが問題」という表現を口にしたとたんに、深く傷つく人の顔も想像できなければなりません。「誤解を与えた」「言葉が足りなかった」と言う前に、想像力の欠如を感じます。

「子どもを産めなくて悩んでいる人」もいます。そのために「不妊治療をうけている人」も少なくありません。「産みたくても、経済的な条件が整わずあきらめている人」や「子どもは産んだけれど、第2子、第3子は、とても生活状況から無理だと考えている人」も多いのです。それでも「産まないのが問題」と言えるでしょうか。

 総選挙期間中のこの発言に対して野党が一斉に批判を強め、麻生財務相は翌日の演説の中で「釈明」しています。

<麻生太郎財務相は8日、社会保障費の増大について7日の演説で「子どもを産まない方が問題だ」などと発言したことについて、「子どもを産みたくても産めない、親が働いたときに保育をしてくれる所がないといった理由で、結果的に産まないことが問題なのであって、少子高齢化になって、高齢者が長生きするのが問題だと言われるのは話が違うと申し上げた」と釈明した>(12月8日、朝日新聞デジタル

 この修正発言の 「子どもを産みたくても産めないことが問題だ」という表現と、最初の「子どもを産まないのが問題だ」という発言は、「産まない」と「産めない」で一字違いですが、意味はまったく違います。前者は「子どもを産まない」という「個人の選択」を問題にしているように聞こえるのに対して、後者の「産みたくても産めない」では、子育て支援をめぐる環境や経済的状況など「社会の構造的な要因」に目を配っているように感じられます。

 さらに9日、閣議後の記者会見で発言の修正は続きます。

<「人口減はものすごく国力に影響する大きな問題。経済的事情で産めないのは、放置できる話ではない」と改めて釈明した。「産みたくても産めない」と言うべきだったとし、「誤解を招いた点は、(説明に)時間をかけるべきだった」と述べた。(12月9日、朝日新聞デジタル)

 麻生財務相はこの記者会見で、「経済的事情で産めないことを放置しない」と話して、言い抜けようとしています。あらためて演説を聴き通してみると、「産まないのが問題」発言は、社会保障や消費税の税負担をめぐる文脈の中で出てきており、釈明の言葉に説得力があるようには思えません。

  もし、「放置しない」という言葉が本当なら、「格差解消」と「産みたければ産める社会」のための具体策を明らかにすべきでしょう。そもそも「子どもが少なすぎる」社会をつくってきたのは誰でしょうか。長い間、国会の政権与党の責任ある立場にいた麻生財務相こそ、「子どもを産みたくても産めない社会」にしてしまった責任を自覚し、反省の言葉を口にしてしかるべきだと思います。

 少子化が加速した原因は、労働市場の規制緩和にあります。1990年代の半ばから、若い世代の男女ともに低賃金・不安定雇用の長時間労働で磨耗し、子育てどころか結婚すら断念している人たちが増えました。

 さらに、この国会で廃案になった労働者派遣法は、さらなる規制緩和を実現しようとするものです。企業が利益追求だけを徹底していけば、非正規労働者のみならず、正社員の解雇も日常茶飯事となり、残業代ゼロでますます長時間労働に歯止めがかからなくなるでしょう。企業が働く人に収益を分配し、「子どもを産み育てることが可能な賃金」が支払われるように転換する必要があります。悪い習慣となっている「際限なしの長時間労働」を監督する労働行政も強化しなければなりません。

 そんな政策はさっぱり語られません。語られないことは「現状の放置」であり、「子どもを産めない社会」の固定化につながります。麻生財務相は「選挙(応援)のときですから、時間はあと2分しかないという状況」だったと釈明していますが、演説は全体で15分あまりに及ぶものでした。

 麻生財務相は度々の「失言」で知られていますが、世界を驚かせ、物議をかもした「ナチス発言」は、多くの人が覚えていることでしょう。昨年夏、麻生財務相はこう言ったのです。

 「ある日気づいたらワイマール憲法はナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないうちに変わった。あの手口学んだらどうかね」

 実際には「ナチス憲法」というものはなく、錯誤だらけの発言でしたが、「国民が気がつかないうちに憲法を換骨奪胎した手口を参考にしよう」と受け取られました。

「真意が伝わらず誤解を招いた」「説明が不足していた」

 軌道を外れた発言のたびに、こうした言葉で「修正」が繰り返されるうちに、聞く側もやがて慣れっこになっていきます。麻生・財務相は「ナチス発言」でも、「子どもを産まないのが問題」発言でも謝罪はしていません。「この発言はおかしい」と感じる私たちの方が、「真意を読み取らず、誤った解釈をする」存在へと突き落とされかねないことに注意を払うべきです。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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