東京の台所

<86>履き倒れの器好き、粋人の昭和空間

  • 文・写真 大平一枝
  • 2014年12月17日

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・34歳
 賃貸アパート・1DK・東横線 自由が丘駅(世田谷区)
 入居11年・築約40年
 ひとり暮らし

 アパートの2階の扉を開けると、左右に靴のタワー、その向こうに台所がある。ファッション関連の会社に勤めているため、海外に行ったら靴を買いこむという。

「手作りの痕跡が感じられる、昔ながらの靴が好きなのです。イタリアの小さな工房で作っているようなハンドメイドは履き心地まで楽しいんですよね」

 履き心地が楽しい。靴道楽にしかわからない表現だ。玄関には私のそれの何倍もしそうな上質な靴が並んでいるが、実は一部。押し入れにも、台所の吊り戸棚にも、炊飯器の下の棚にも靴箱がしまいこまれている。

 きっと、食べることと同じくらい大事なのだろう。

 忙しいが、料理もこまめにしている。日曜の朝の野菜市で新鮮なものを買い、いまの季節は鍋にして楽しむ。韓国食材の粉唐辛子を味噌(みそ)やコンソメと煮込むなど、ひとくふうして使う。疲れて総菜を買って帰ったとしても、食材を加えたりして、ひと手間はかける。

 洗面所は水しか出ないし、流し台も古いステンレスで、「何もかも昭和すぎる」と住人がいう台所のそこかしこに、個性的な焼き物の器が置かれている。収納が広いので、増えないように気をつけているが、ついつい笠間の陶芸市やギャラリーに足を運び、備後屋やもやい工芸といった民芸店で買ってしまうらしい。

「この部屋に越してから10年で、お皿がぐんと増えてしまいました。栗駒の鈴木照雄さん、笠間焼の佐藤和美さん、会津の五十嵐元次さんの器など、買う作家の器は決まっています。やはり手仕事の良さが伝わるものに惹かれますね」

 使っていて楽しいもの。大量生産ではなくハンドメイドのもの。つまり、靴と同じなんである。やかんも、銅をたたいて成形した手作りだ。

「電子レンジでチンしたお湯と、やかんで沸かしたお湯は味が全然違うんですよね。牛乳1杯でもわかります」

 好きなものだけに囲まれた昭和のアパート。靴の箱と器が隣り合っている、その“好きっぷり”が潔い。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

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