リノベーション・スタイル

特別編<1>「アパートの葬式」から生まれた複合施設

  • 連載100回記念対談 宮崎晃吉×石井健(前編)
  • 2015年2月4日
撮影 篠塚ようこ

  • 撮影 篠塚ようこ

  • 撮影 篠塚ようこ

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 自分らしく暮らすために住まいを編集する――。「ブルースタジオ」が手がけたリノベーション事例を紹介する連載「リノベーション・スタイル」が100回を迎えたのを記念して、ブルースタジオ執行役員の石井健さんがいま注目の若手3組と、これからの住まいや暮らしについて語り合います。

 第1回は、東京・谷中に2013年にオープンした最小文化複合施設「HAGISO」代表の宮崎晃吉さん(32)との対談の前編をお送りします。(構成 宇佐美里圭)

    ◇

石井健 ここはもともと木造2階建ての賃貸アパートだったんですよね?

宮崎晃吉 はい、1955年に竣工した記録があります。もともと隣のお寺の敷地内にあって、住職が管理していたんです。萩が多かったので「萩寺」と呼ばれていたので、ここも「萩荘」だったなんです。トイレは共同で、お風呂はなし。6畳間が14部屋ありました。上京した学生の下宿所だったんだと思います。その後、家族世帯向けにリフォームされた跡がありましたが、2000年代からはずっと空き家でした。ホームレスが勝手に住んでいた時期もあったようですね。

石井 へえ、けっこう最近の話ですね。

宮崎 ホームレスの人たち、ちゃんと靴を並べて家にあがっていたみたいで、近所の人がそれを見つけてわかったらしいんですけど(笑)。その後、東京芸大の建築科の学生たちがたまたま見つけて、04年から住み始めたんです。

石井 ほんの10年前ですね。

宮崎 当時は男ばかり6人くらいが自分たちで改修して住んでいました。鍵もかけなかったので、だんだん芸大生のたまり場みたいになってきちゃって。家に帰ってくると、知らない人たちが飲んでる、みたいな。僕は06年から住み始めました。

石井 そこに震災が起きて、取り壊しの話が出てきた。

宮崎 はい。建物はまったく壊れなかったのですが、大家さんが不安になって、「取り壊して駐車場にでもするわ」と。僕らも好き勝手に住んで迷惑をかけてきたので、まあ、しょうがないかなと。ただ、その数年前に近所の大好きな銭湯が取り壊されとき、すごくショックだったんです。

石井 建築をやっていたのに何もできなかった、と。

宮崎 はい。不甲斐なさが残っていたんです。だから、せめて「建物の葬式」はしようということになって。そこで、解体前の建物に花を手向けるつもりで、住人やアーティストが20人くらい集まって、建物全体を使って作品を展示しました。「ハギエンナーレ」と名づけて、壁にビスを打ちまくったり、床を抜いて鳥を飼ったり、廊下に植物を植えたり。どうせ壊すつもりだったから、やりたい放題(笑)。その「やっちゃった感」がウケたのか、3日間で1500人も集まったんです。

 そうしたら、大家さんも喜んでくれて、「もったいないかな」と口にしたんです。それを聞いて、僕は急いでリノベーションの事業計画を書きました。『建築プロデュース学入門』という本をお手本にして(笑)。そして大家さんに提案したら、「そこまで言うなら」と、のっかってくれたんです。

石井 大家さんもセンスがいいですね。きっと若い世代が集まってきていることに可能性を感じたんでしょうね。そのとき、宮崎さんが自分で複合施設を造ろうと思ったのはどうしてだったんですか? デザインをやってる人が運営にまわるのって、ある種の“ジャンプ”が必要だと思うんですよ。

宮崎 当時はあんまり考えていなかったんですけど(笑)。ただ、建築のハード面よりソフト面に興味があったというのはあります。僕は大学院を卒業した後、磯崎新さんの事務所で働いていたんですが、震災による心境の変化があって辞めたんです。スペックの高い建築物を公共事業で造ることが多かったんですが、建築そのものより、どういう構造にすると、どういう出来事が生まれるのかということに僕は興味があった。建物と人の関係を“まるっと”デザインしてみたかったんです。

石井 デザインの奥にあることを見たかったんですね。

宮崎 ええ。建物は生き生きと使われて、はじめて作品になる気がするんです。郊外に大きなハコモノを作っても、実際はランニングコストだけかかってお荷物になっていたり。3千人のホール、本当にいるのかなとか、疑問に思うことも多かった。そこで、生活の延長線上にある最小文化複合施設のようなものを造りたいなと思ったんです。

 ただ、ここは完全に場所ありきです。自分で物件を探してカフェの設計をしたいとかじゃなく、「この建物を生かすためにはどうしたらいいだろう」という発想から出発しました。

石井 成り行きだったんすね(笑)。

宮崎 めちゃくちゃ成り行きです(笑)。

石井 とはいえ、ここは客観的に見てとてもポテンシャルのある場所です。

宮崎 そうなんです。谷中のど真ん中で、目の前に岡倉天心公園があって、T字路で。街のコアになりそうな予感がしたんです。だからすべての設計が「場所発想」。カフェのターゲットも、「20代の女性で、ロハス思考で……」とかじゃなく、「この場所に来る人に何を提供できるか」を考えています。

石井 そこが魅力になっている気がします。悪く言えば成り行きなんだけど、5カ年計画とか10カ年計画がまずあるのではなく、「これ気持ちいいよね」とか、小さな日常が積み重なっている。

宮崎 そうですね。イベントも建物から生まれてきたものが多いです。最初から演劇はやりたいと思っていたので、吹き抜けの天井のところに小さなバルコニーを造っておいたんですが、それがきっかけで、「居間 theater」という女の子6人組のレジデンスパフォーマーが生まれました。

石井 オペラ座みたいなものですね。

宮崎 オペラ座の最小版ですね(笑)。劇団のあるカフェなんです。最近は、200円や300円でパフォーマンスを注文できる特別期間もあるんですよ。

(後編はこちら

    ◇

宮崎晃吉(みやざき・みつよし)

HAGISO 代表、建築家。東京藝術大学建築科教育研究助手。東京藝術大学大学院修了後、磯崎新アトリエを経て、2011年よりフリーランスの建築家・デザイナーに。建築デザイン事務所:HAGI STUDIO

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から500件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)

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