リノベーション・スタイル

特別編<2>谷中から、面白くない東京を変える

  • 連載100回記念対談 宮崎晃吉×石井健(後編)
  • 2015年2月10日
撮影 篠塚ようこ

  • 撮影 篠塚ようこ

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 自分らしく暮らすために住まいを編集する――。ブルースタスジオが手がけたリノベーション事例を紹介する連載「リノベーション・スタイル」が100回を迎えたのを記念して、ブルースタジオ執行役員の石井健さんがいま注目の若手3組と、これからの住まいや暮らしについて語り合います。

 第2回は、東京・谷中に2013年にオープンした最小文化複合施設「HAGISO」代表の宮崎晃吉さん(32)との対談の後編をお送りします。(構成 宇佐美里圭) >>前編はこちら

    ◇

石井健 HAGISOのホームページには、お店のスタッフや関係者が紹介されていますが、それがテナントの人々というより、ファミリーに近い関係性を感じます。複合施設ではあるけど、家に近いというか。

宮崎晃吉 そうですね。実際に知り合いが多いというのもありますが、企画展では新しい人たちにもどんどん入ってもらっています。ここは僕の拠点でもあるけれど、みんなの拠点になったらいいなと。そうなることで、可能性がもっと広がると思っているんです。

石井 最近は、地域の町づくりの拠点にもなってきていますよね。

宮崎 はい。去年の夏は、HAGISOサマーキャンプというものをやって、谷中の中に残っていた“のこぎり屋根”(三角屋根がギザギザに連なった屋根)をテーマに展覧会をやりました。残念ながら取り壊されてしまったんですが、古くて面白いものって、放っておくと維持する人がいなくて、消えていってしまいます。

石井 古い家は、壊してマンションや駐車場にすれば、手っ取り早く収入も増えるから、オーナーさんはそっちを選びますしね。あと、たとえ空き家が残っていても、大家さんが偏屈だったり、入院していたり、遠くに住んでいたりする場合が多くて、次の住み手が入りづらい。法務局で大家さんを調べ、手紙を書いて2年がかりで口説き落とした、みたいな人も多いですね。

宮崎 そうなんですよね。実は僕、最近東京ってあまり面白くないと思っているんです。昔、よく出張で上海に行っていたんですが、向こうの方がめちゃくちゃ面白い建物があります。防空壕がナイトクラブになっていて、そこで爆音でライブやっていたり、洋館がリノベーションされて使われていたり、屠殺場が商業施設になっていたり。それくらいのことは東京でもできるはずなのに、ニュースになるのは、駅前に高層ビルができたとか……。そんなのはどこにあっても一緒だし、わざわざその場所へ行く理由もない。他と比べると、都市としての奥行きがない気がします。

石井 そういう動きは世界的にありますね。廃線になった駅が活用されるとか。思うに、東京って悪い意味で“ヘルシー”なんです。スラムがない。23区って実はどの駅も人口流入数って変わらないんです。地価の差はあるけど、みんな意外と満足して生活している。

 海外だと、スラムがあって、そこにアーティストが移り住み、ギャラリー、クラブ、商業施設ができて、次に不動産屋やディベロッパーが入ってくる。で、地価が上がるとアーティストは出て行くという流れがあります。東京はそこまで家賃の差がないですし、街が大きいので、そんなに人が一カ所に集まらないのでしょうね。

宮崎 ガツン!とした大きな転換が起こりにくいんですかね。

石井 そうですね。でも、だからこそ複合施設の大切さってあるんだと思うんです。

宮崎 単体だと成立しなくても、複合施設だからできることはありますね。うちは企画展のギャラリーは、アーティストにタダで貸すことにしているんですが、カフェがあるからできることです。

石井 複合でありつつ、最小にこだわっているのは面白いですよね。ふつう、複合っていうと拡大路線に行きそうなのに、最小を目指しているのはなぜですか?

宮崎 生活に密着した文化をデザインしたいんです。日常生活の中で文化を当たり前に生産したり楽しんだりするエリアがないと、東京がかっこわるい場所になっちゃう。美術館とか劇場とか立派な建物の中で文化をありがたがるのではなく、その辺のおばちゃんがふらっと現代美術を楽しめるようにしたい。あちこちにHAGISOみたいな場所がいっぱいできればいいと思うんです。巨大な公共施設ではなく、生活の延長線上にある最小文化施設を造って行くのが建築家の仕事であってもいい。

石井 個性の違う施設がそれぞれの地域にあったら楽しいですよね。

宮崎 ええ。だから僕はとりあえず谷中を掘って行こうと思っていて、次は宿泊施設ができたらいいなと。あちこちの空き家を宿にして、朝ご飯はHAGISOにきてもらって、お風呂は近所の銭湯、お土産は商店街……というふうに、街全体を旅館に仕立てたら、地域も盛り上がると思うんです。

石井 それはいいですね。ちょうどいま、日本中でゲストハウスが仕込まれていて、数年後には30から40くらいできると言われています。ゲストハウスは地域に密着しているので、旅行者も街に“ダイブ”できる。いまシェア文化とか言われているけど、それってシェアハウスに住むだけじゃなく、街と一体になって住んでいくことだと思うんです。それが都市に住む面白さじゃないでしょうか。

宮崎 僕、実家が群馬の前橋なんですけど、完全に国道文化なんですよ。一世帯2台くらい車を持っていて。家と国道のショッピングモールの往復みたいな生活。だから、中心街がめちゃくちゃ廃れて、小さなお店は潰れちゃうし、一時期は映画館もありませんでした。それがすごく寂しかった。銭湯なんて憧れでしたよ。東京に来たときは、谷中みたいなエリアがとても東京的だと感じました。隣人を知らないのは、郊外化した田舎でも同じです。逆に渋谷は閉鎖的な巨大ショッピングビルが増えて、郊外化している気がします。

石井 銭湯でいうと、城崎温泉って、基本的に旅館には内風呂がなくて、みんな外湯めぐりをするんですよね。実はその仕組みって、団地を開発した西山夘三(うぞう)が考えたんです。みんなお風呂に入るために外へ出るから、街がとても活気づいています。途中でビールも飲みたくなるから、地域にお金も落ちる。よくできているシステムですね。

宮崎 温泉をみんなでシェアしているんですね。合理的なだけでなく、違う楽しみが得られるという側面もありますね。

石井 そうですね。街の魅力って幅広いし、もっと自由なんです。HAGISOは客単価をいくらにして、ということをやってないからこその魅力がある。単におしゃれなカフェができた、というのとは違います。

宮崎 ここの可能性は谷中の可能性なんだと思います。この地域はもともとの文化的資産のストックがあるし、住民の意識も高い。場所が持つ価値に光を当てていきたいんです。あるものを生かして、逆照射していくというか。マーケティングして「カフェを造りました」だと、地域を映し出すものにはなれない。そうじゃないものを造っていきたいんです。あれ、なんかすごい真面目な話になっちゃったな(笑)。(おわり)

宮崎晃吉(みやざき・みつよし)

HAGISO 代表、建築家。東京藝術大学建築科教育研究助手。東京藝術大学大学院修了後、磯崎新アトリエを経て、2011年よりフリーランスの建築家・デザイナーに。建築デザイン事務所:HAGI STUDIO

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から500件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)

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