リノベーション・スタイル

特別編<4>子育てのために会社は畳もうと思った

  • 連載100回記念対談 坂田夏水×石井健(後編)
  • 2015年2月25日
坂田夏水さん(右)と石井健さん

  • 坂田夏水さん(右)と石井健さん

  • その名も「思いやり両面時計」

  • 「仕事も子育てももっと自由に」と坂田さん

  • 店内では夏水組ワールドを堪能できる

  • 「坂田さんの実行力はすごい」と石井さん

  • ガーリーな雑貨があちこちに

  • 店舗は住宅街のマンションの1階にある

 自分らしく暮らすために住まいを編集する――。「ブルースタジオ」が手がけたリノベーション事例を紹介する連載「リノベーション・スタイル」が100回を迎えたのを記念して、ブルースタジオ執行役員の石井健さんがいま注目の若手3組と、これからの住まいや暮らしについて語り合います。

 第4回は、「DIY女子」ブームの火付け役、夏水組の坂田夏水さん(34)との対談の後編をお送りします。(構成 宇佐美里圭)

   ◇

石井健 飲食店やったり、雑貨屋でインテリア商品を売ったり、企業と企画した商品などを通して住み手とつながっているんですね。DIYや賃貸でもカスタマイズできる環境を裏で支えている。変化しているのが面白いですね。個人宅をリノベーションするだけじゃなく、得意なところに突っ込んでいって、「やりたいものはやりたい」「やりたくないものはやりたくない」と、楽しみにながら進んできた結果がこういう仕事の形態になったのかな。

坂田夏水 そう言ってもらえるとうれしいです。

石井 昨日も電車一両まるごと「DIY女子」という吊り革広告をみたけど、工作好きの女子ってけっこう多いですね。器用だし丁寧だから、日曜大工と女性って相性がいいんでしょう。

坂田 その言葉、流行っていますよね。当人たちは自覚がなかったりしますが(笑)。本来は少しくらい自分でやるのは当たり前なんですけどね。

石井 海外だと普通ですよね。映画のシーンでもけっこうあります。「オーシャンズ12」オープニングはたしか、ジュリア・ロバーツが自分で壁を塗りながらペンキ屋に色の指示を出しているシーンだったような……。

坂田 うんうん、懐かしい!

石井 日本でもこの数年、DIY女子はかなり増えていますね。

坂田 うなぎ上りで、メーカー側が焦って開発している状況です。壁紙と壁のペイントが一番多いですかね。

石井 坂田さんがその火付け役でもあると思うんですが、やっぱり実行力がすごい。ご主人とタッグを組んでやってますが、うらやましいと感じている人が多いと思いますよ。

坂田 藤田くんの存在は大きいです。大学の同級生なんですが、彼が同じ立場で悩みを共有してくれるんで……。その環境がなかったら、私とっくに仕事辞めていると思います。女性で、社長で、スタッフを何十人も抱えていて、お金の悩みもあるし、一人ではとても。私はそんなにパワフルじゃないし、嫌になったら放り投げるので(笑)。経営者って本当につらいですねえ。

石井 そう。その割には下から文句言われたり(笑)。親の心子知らずというか。ところでお子さんが生まれたのが3年前でしたっけ?

坂田 はい。友人にはすごく計画的にやったね、と言われるんですが(笑)、結婚する前にスタッフを3、4人雇っておいたんです。だから、会社をつぶさずにぎりぎり乗り切れました。出産日が事前にわかる計画分娩にしたので、出産の3日前まで現場に出てましたけど。

石井 すぐに復帰したんですか?

坂田 それが……。出産前は「1カ月で戻るよ」って言ってたんですが、全然戻れなくて。お乳はあるし、夜泣きはするし、子どももなかなか預けられなくて。寝かしつけながら、ベッドの横でメールの返信してましたね。

石井 ええ!?

坂田 私が出産したと知らない人も多いので、お客さんから問い合わせがくるんですよ。そんな方に「いま授乳中なので返信できません」なんて言えないし(笑)。そういう環境に自分を置きたくなかったというのもありますけど。

石井 大変でしたね。

坂田 甘くみてましたね。でも3カ月くらいしてから、週に3回、託児所に預けられるようになったので、その間に事務所に出たり、打ち合わせに行ったりするようになりました。その一方で、自分が子どもと離れられなくなっちゃったんです。お乳をあげているうちに母性本能が生まれて、「この子と離れるのは悪だ」っていう気持ちになっちゃって。藤田くんに、「私、子育てするわ。もう会社いいわ」って言ったんです。スタッフには申し訳ないけど、この仕事が終わったら会社をたたもう、とまで思い詰めていたんです。

石井 ご主人はなんと?

坂田 「いま頑張れ!」って言ったんです。「いま頑張らないと、なっちゃんが求めてる仕事は一生できないよ」って。そのときは「藤田くんのわからずや!」って、泣きながら託児所に子どもを預けに行ったんですけど(笑)。でも、半年後くらいにやっと夫の言っていたことがわかりました。その頃になってやっと、子育ても仕事も両立しようと思えるようになりました。運がいいことに、ちょうど事務所の斜め前の保育園にも入れて、少しずつシフトできました。

石井 よかったですね。

坂田 でも、あるとき藤田くんに、「なっちゃん、10円ハゲができてる!」って言われて(笑)。やっぱりすごいストレスだったんですね。今は治ったんですけど、本当に子育てって大変です。自分の中から人間が出てくるわけですから。でも、子どもを育て、スタッフを育て、その延長線上に今の会社があるというのはありがたいことです。

石井 ご主人が「やめるな」と言ったのがすごいですね。映画にできる(笑)。

坂田 やっぱりみんな、そこで挫折しちゃうんですよね。日本の子育てって、まわりの理解もなくてつらすぎる。夫も奥さんを楽にさせてあげたいし、文句を言われるのも嫌だから、「仕事辞めたら」って言いがちだけど、そのときに「続けた方がいいよ」と言えるのはすごいと思いますね。「藤田くん、ナイス!」と思います(笑)。

石井 そういう風にご主人が言ったのは、やっぱり坂田さんにしかできない仕事があると思っていたんでしょうね。仕事に復帰してから心境の変化はありましたか?

坂田 そうですね。まわりの女友達をみていても、子育てのために自分のやりたいことをあきらめる人が多いんです。そういう人たちに「こういうやり方もある」という新しいモデルを示せたらいいなと思います。子育ても仕事ももっと自由にできたらいいですね。

石井 「子育てするには、社長になるのがいい」とよく言われますよね。あとは、理解力のある夫を持つことかな(笑)。そういえば、坂田さんは「日本を出たい」とも言っていましたよね。もっといろんなところで仕事をしたい、と。それは思いつき?

坂田 思いつきですね(笑)。友人がニューヨークで働いていたり、妹が高校出てからずっと海外にいて。やっぱり働き方や倫理観って海外と日本じゃ全然違うじゃないですか。社会人になって10年目なんですけど、やっとその辺が見えてきて。「日本人が求める“豊かさ”は海外で通用しないな」って思ったときに、やはり一度は海外を見てみたいなと思ったのです。

石井 海外に行くとしたら、みんなで?

坂田 夫と子どもはついてきてほしいです。

石井 行きたい国はありますか?

坂田 二つあって、一つはニューヨーク。何億円というお金が動くマンハッタンで仕事をしてみたいですね。あとは資源の豊かなオーストラリアとか。インテリアや不動産売買に関わる仕事はお金が動く場所じゃないと成り立たないので、そういう意味では国が限られてくるんです。本当はパリとか行きたいんですが、それはちょっと難しいでしょうね。憧れの憧れ。おばあちゃんになって行けたら幸せ、くらいで(笑)。

石井 180度方向転換をしてみるのもありかもしれないよ。例えば、「ゴングリ」はガーリーなヨーロッパ的世界観だけど、逆に海外では和の世界にしたり。

坂田 そうなんですよ! だから、ニューヨークに行ったら着物で営業しようかなと思っていて。

石井 向こうでは日本家屋の建具やお茶の道具を売ったり、和紙を並べたりね。

坂田 じつはもう、それしかないと思っています(笑)。まずは英語と着付けを習わなきゃですね。

石井 今僕らは「ライフスタイル、ライフスタイル」って言ってるけど、海外で和の生活を売り込んでみたら面白い。布団のたたみ方を教えたり。「たたむ」ということを流行らせたり。ニューヨークで和をやって、こっちで洋をやる。

坂田 いいですね。昔、不動産屋さんに勤めていたとき、朝会で言うフレーズがあって。社長が「やるか、やらないか?」って当番が聞くと、社員が「やるー!」って叫ぶんです(笑)。それがまだ抜けきってないのかも。先行きがどうなるかわからなくても「やるー!」って言っておかないと、何事も動きませんもんね(笑)。

石井 期待しています。

    ◇

坂田夏水(さかた・なつみ)
1980年、福岡県生まれ。株式会社夏水組の代表取締役。2004年、武蔵野美術大建築学科卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、08年、夏水組を設立。空間デザインのみならず、商品企画、雑貨屋・飲食店経営など、活動は多岐にわたる

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から500件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)

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