東京の台所

<95>自炊の意欲呼び覚ました断捨離

  • 文・写真 大平一枝
  • 2015年3月4日

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・41歳
 分譲マンション・1LDK・大江戸線 豊島園駅(練馬区)
 入居1年・築39年
 ひとり暮らし

 昨年、築39年になるマンションの部屋を購入した。仕事が忙しく、あまり探したり比べたりもしないまま、予算に合う部屋に決めてしまったという。ただ、角部屋で2面に窓があり、明るく、台所も広い。住んでいくうちにだんだん好きになってきた。

 千葉から北陸の美大に進んだ学生時代も、26歳から始めた東京での賃貸暮らしも、ほとんど料理をする余裕がなかった。仕事は財務関係で、20時過ぎに帰宅するころには疲れ果てている。それでも、この部屋に越してからは外食せずに帰り、なにか1品でも作るようになった。

「なるべく鍋一つで作れて、器も少なくてすむもの。だからパスタやチャーハンが多くなってしまいます」

 朝は食べず、昼は外食かテークアウトをして会社で食べる。どうしても栄養が偏りがちになるので、家では野菜をなるべく取るようにしている。

「野菜を使い切ると達成感がありますね。余らせてだめにするのがいやなので、とにかく食べきれる量だけを買うよう気をつけています」

 野菜だけでなく、器も調味料も鍋も、もっといえば靴も家具も、全てがものすごく少ない。もともとモノを持たない人なのだろうか。

「いいえ、去年まで住んでいた家はひどかったです。収納がたくさんあったために、奥にいろいろつめこんでしまい、わからなかった。引っ越しの時にみりんが2本出てきたり、玄関収納から一度も使わなかったタウンページや区のお知らせが出てきたりしました」

 そんな自分のアバウトさが嫌になり、断捨離をした。引っ越しは自分の買い物の癖やライフスタイルの習慣を見直すいい機会になったようだ。

 家には、母親がたまに遊びに来る。あっという間に、ピーマンの肉詰め、蓮根の煮物、スープ、シチューなど3品も4品も作ってしまう。

「すごいなあ、かなわないなあと思います。しかも、どれもおいしいし。ひとり暮らしをすると母の凄(すご)さを実感しますね」

 働きながら女手ひとつで2人の子を育て、何でも手早く上手に作る母。かっこいいですねと言うと、彼女はこんな裏話を教えてくれた。

「このウェブサイトのコーナーに応募したと言ったら、なんでまた!と驚かれて。おしゃれでもなんでもない、あんたの台所のどこが物語になるのよって」

 親子とは遠慮がないものだ。その母から時々電話が来る。

「遊びに行っていい?」

 前の家の時は、「部屋が汚いから外でね」と答えて外食することが多かったが、今は違う。

「いいよってためらいなく言えます。そこが大きく変わったところですね」

 母の味を頻繁に堪能できるようになった、この引っ越しは正解だったもよう。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

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