太陽のまちから

少子化対策に立ちはだかる規制の壁を破れ

  • 文 保坂展人
  • 2015年3月17日

写真:産後ケアを受ける母子 産後ケアを受ける母子

写真:武蔵野大学付属産後ケアセンター(世田谷区桜新町) 武蔵野大学付属産後ケアセンター(世田谷区桜新町)

 まもなく、世田谷区長としての仕事を始めてから4年になります。

 もっとも重い課題である待機児童問題では、認可保育所を中心に保育枠を広げていますが、小規模保育や家庭的保育を充実させることも必要です。ところが、この家庭的保育をめぐって、「思わぬ規制」に直面したことを思い出します。

 「家庭的保育」は、住宅や集合住宅の部屋を利用して、5人の乳幼児を2人で保育するというものです。厚生労働省が待機児童解消のために児童福祉法に盛り込み、整備ガイドラインまで作成しているのですが、世田谷区では整備が進んでいませんでした。なぜか、止まってしまっていたのです。

 事情を聴いてみると、建築審査課が「建築基準法違反」として待ったをかけていたことがわかりました。元をたどると、総務省消防庁が「一戸建て住宅や集合住宅の部屋で保育を行う場は保育所である」という厳しい見解を出していたことが原因でした。法的に「保育所」と定義されると、排煙装置や防火装置等の設置義務が生まれ、既存の住宅や集合住宅ではとてもクリアできません。 

 この話を聞いた時、瞬間的に問題の構図が思い浮かびました。家庭的保育を創設した厚生労働省、建築基準法を所管する国土交通省、そして総務省消防庁の三者で、法令解釈のズレがあるに違いないとにらんだのです。10数年国会にいて、法制度の立案と改正にあたってきた経験から生まれてきた勘のようなものです。

 そこで、三省庁に集まってもらいました。厚生労働省に制度説明をしてもらったあと、私は、建築基準法との関係を国土交通省に尋ねました。すると、「避難誘導灯をつければ問題なく設置できる集合住宅もあります」との回答。総務省消防庁も「保育所設置の場所を届け出をしてくれれば、消防も認識するので、火災時の安全対策になります」と言うのです。結局、違法でも何でもなかったのです。

 そもそも「住宅や集合住宅での家庭的保育」が違法なら、厚生労働省の制度やガイドライン自体が違法ということになります。欠陥立法そのものです。けれども、省庁間で調整をしない法律や制度はありません。考えられるのは、立法時の調整作業が引き継がれないまま、省庁間に解釈のズレが生じていく場合です。この事例もそうでした。

 もうひとつ、産後ケアをめぐり法律のエアポケットが生じた事例を挙げましょう。

 世田谷区には「武蔵野大学付属産後ケアセンター」があります。出産直後から産後4カ月までの母子がゆったり過ごすことのできる居室があり、助産師による母体や乳児のケアや授乳指導・育児相談などを受けることができる施設です。区民であれば、最初の1泊は6400円、2泊目以降は3200円で7日まで利用できます。人気が高く、いつも満杯です。全国の自治体から、視察や見学が引きもきらない施設でもあります。

 この施設は、2008年に武蔵野大学の協力をえてスタートしました。「産後ケア施設」の理想を形にしたという意味では、世田谷区の誇るべき事業と言えます。

 ところが、日本で初めての試みだったため、国の補助金はなく、都の補助金と区の独自の予算で維持しなければなりませんでした。その影響なのか、視察する自治体の多さにもかかわらず、なかなか全国に広がっていきません。

 産後ケアセンターの設立には、財政面での優遇がないだけでなく、規制の壁も立ちはだかっていました。それまで前例がなかったため、産後ケアセンターは建築基準法上は「児童福祉施設等」とみなされ、床面積600m²以上となると、低層住宅専用の地域につくることができないのです。また、法的な位置づけがないために旅館業法が適用され、施設整備のための負担ものしかかることになります。世田谷では建設予定地がたまたま準工業地域だったので運良くクリアできましたが、第2、第3の産後ケアセンターをつくることはできない状態が続いています。

 世田谷区は「世田谷版子ども・子育て応援特区」を国家戦略特区に位置づけるよう国に申請した際、こうした制約を取り払い、障壁となっている規制を緩和することを求めました。しかし、今のところ前向きな回答はえられていません。こうなったら、国と直接交渉して正面突破をはかるか、永田町でロビー活動をして、「産後ケアセンター」を法的に位置づける議員立法を成立させる以外に道はありそうにありません。

 政治の仕事とは、法令や規制を不動の前提にして、できない言い訳を考えることではありません。不合理で、現実にあわない法令や規制を改めることこそ、政治の仕事です。「産後ケアセンター」は、国の少子化対策の一例としてたびたび紹介される事業ですが、法令と現実の間にある隔たりは放置されてきました。その壁を突破するのも、自治体と首長の役割だと考えています。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。

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