太陽のまちから

人にやさしい「行財政改革」とは何か

  • 文 保坂展人
  • 2015年3月24日

写真:区基金残高と特別区債残高 区基金残高と特別区債残高

 自治体の首長の大きな仕事は、住民の生命と安全を守るために行動するとともに、財政基盤を強めて持続可能な体制を築くことにあります。この「財政基盤の強化」について記しておきたいことがあります。

 世田谷区の財政規模は、私が就任した平成23(2011)年度で、一般会計の予算が2500億円。この4月からの平成27(2015)年度が2700億円(予算案)の規模になります。

 昨年秋、平成25(2013)年度決算で、22年ぶりに区の貯金(積立金)が借金(区債)を上回りました。基金残高は618億4500万円で、区債残高の614億8900万を3億5千万円あまり上回り、事実上の「借金ゼロ」となりました。さらに、平成26(2014)年度は約80億円の黒字となる見通しです。

 私が区長に就任した4年前は、東日本大震災と福島第1原子力発電所事故の直後でした。前区長から引き継いだ区の財政は厳しい状況にありました。リーマンショック後の不況による歳入不足が影響し、毎年、基金から大幅に取り崩しを続ける危機的状況が続いていたのです。就任直後に開かれた区議会では、「このままでは財政破綻だ」との声が飛ぶほどで、「持続可能な財政基盤の確立」は大きな課題でした。

 前区長から引き継いだ「行革メニュー」には、福祉分野で長年行なってきた「訪問理容の廃止」など、削減できる金額がきわめて小さいわりに利用者には大きな影響が出るものも含まれていました。さらに、このメニューを次々と実行に移しても、効果は数億円にしかならないことが私にはひっかかっていました。

 初めて迎えた予算編成では、50億円、100億円という歳入不足に直面しました。そこで、世田谷区では基金を取り崩すだけではなく、多額の予算がかかる事業を延期することで歳出を抑制しようとしていました。学校改築や道路建設などを1年から2年遅らせるという手法です。

 これは問題の先送りにすぎず、質的な変革が必要だと考えました。

 私は資料を取り寄せ、学校建築にかかる予算を分析してみると、プレハブの仮設校舎に平均で3億円以上かかっていることがわかりました。ちょうど1年前、このコラムでも書いています(2014年3月15日、「学校のリノベ 解体・新築より13億円削減」)。

 プレハブ仮設校舎は堅牢な建物で、仕上がりは立派です。ベニヤ板の床がきしむような半世紀前のものとは違います。といっても、数年で解体するものにかける費用としては、けっして小さくはありません。そこで、行財政改革の対象として、学校建築のあり方を変えることはできないだろうかと考えました>

 学校改築の際にプレハブ仮設校舎をつくらずに、子どもたちが隣の学校に歩いて通うようにすれば、工事期間を短縮し、予算も削減できるのです。また、校舎の躯体を残して、リノベーションによって活用すれば、4年間で約20億円の財政効果を生み出すことがわかりました。

 創造的節約はそれだけではありません。

 12年春、電力は競争入札によって、東京電力以外の特定規模電気事業者(PPS・新電力)から調達すると決めました。その結果、12年度2800万円、13年度6600万円、14年度1億円、15年度は2億円(見込み)と、4年間でやはり約4億円の財政効果を上げられたのです。

 これだけの歳出を単純にカットしようとすれば、区民の生活に大きな影響が出てしまいます。

 さらに、営繕費でも、経費を解析し、業者の提案を区が評価・検証する専門家を入れ、必要なものとそうでないものを取捨選択することにしました。安易に業者に委託することを戒め、職員ができることは自力でやるようにと指示を出しました。こうした内部経費の見直しも、区民生活に影響を与えないという観点から優先して進めました。

 私は「保育所や幼稚園の保育料の値上げ」「区民会館の区民利用施設の使用料の見直し」など、いくつかの利用者負担増に取り組みましたが、行財政改革の結果、平成24年度・25年度の2年間で計65億円ほどの削減効果を生み出しました。平成20年度から23年度までの4年間は約22億円だったので、この2年だけで3倍近い効果を上げることができたことになります。

 さらに、特別区民税などの税収増も財政が好転する大きな要因となりました。

 こうして、22年ぶりに「借金ゼロ」の状態に戻りましたが、あと何年かすると再び、借金(区債)が増えることが見込まれています。大きな事業が目白押しだからです。ただ、財政危機から脱することができなければ、次の時代をつくる計画も「絵に描いた餅(もち)」に終わってしまいかねません。

 行財政改革というと、「事業経費の削減と区民の負担増」という発想になりがちですが、大きな予算を必要とする事業の骨格を見直し、従来なかった視点で事業手法の合理化と効率化を図ることができれば、財源を捻出することはできるのです。

 こうした取り組みこそが行財政改革の土台となり、骨格となるのではないでしょうか。全体を見渡すことなく、短期的な視野で事業を進めると、億単位の無駄が生まれてしまうこともあります。

 区民の立場から見て納得できる、「人にやさしい行財政改革」をこれからも進めていきたいと思います。

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。

&wの最新情報をチェック


&wの最新情報をチェック

Shopping