太陽のまちから

「脱縦割り」で生まれた「マッチングレポート」

  • 文 保坂展人
  • 2015年3月31日

 日本社会でいまだに、半ば「あきらめ」の境地で使われるのが、「縦割りですからね。横の連絡が悪いんですよ」という言葉です。全員の顔が見える村役場と違って、5千人を超える職員が、いくつもの建物に分散して仕事をしている世田谷区役所でも例外はありません。

 区長に就任した4年前、すぐに始めたのが「区長へのメール」です。27カ所で車座集会もひらき、区民の意見に耳を傾けました。こうして届いてきた意見の相当数が「縦割り」に関する弊害、能率の悪さ、苦情などでした。

 大きな組織だけに、それぞれの所管、分野が責任をもつという良さもあるのですが、これが長く続くと、隣の部署で似たような取り組みをしていてもお互いが知らないということにもなります。

 たとえば、一戸建ての家屋を利用した「ふれあいの家」というスペースがあります。区民から寄付いただいた建物や敷地をそのまま利用したり、建て替えたりして、高齢者を中心とした地域の活動スペースになっています。こちらは福祉所管で担当していて、社会福祉協議会が運営をしています。

 一方、「空き家活用モデル事業」や「マッチング」の窓口となっている一般財団法人世田谷トラストまちづくりが広げている「地域共生のいえ」は、オーナーが自宅の一部、または全部を提供して、地域にひらくというスタイルで、区内に16カ所広がっています。こちらは、都市整備所管が担当です。

 現場で利用状況を見学すると、どちらも貴重な地域コミュニティの場になっていましたが、「福祉」と「都市整備」と系列が違うことで互いの情報を共有化したり、相互補完的に使ったりという発想はでてきませんでした。区民から見れば、不思議でしょう。なぜ、同じ区の関連する事業であるのに、一体的な利用ができないのだろうか、と。

 そこで担当者同士の交流をはかり、トラストまちづくりで「空き家活用モデル事業」や「オーナーとユーザーのマッチング」を手がけてもらうことにしました。

 世田谷区全体としては子どもの数が増えているのですが、環状7号線の内側では少子化が進み、小学校も1学年1クラスと小さくなっています。そこで、学校統合を進めることになり、子ども自身や保護者、そして卒業生など、地域の人々の声をていねいに聞くワークショップを開催しました。「子どもの声が聞こえる施設にしてほしい」という声をもとに保育園、児童館、区民利用施設等を検討することになりましたが、このワークショップに教育委員会だけではなくて、児童館や保育園を担当する課長が参加していました。役所の担当所管の垣根を超えて、目的やプロセスを共有して力をあわせるスタイルが少しずつですが根付き始めています。

 マッチングが必要なのは、役所の中だけではありません。区民の中には、第一線で活躍されている各分野の専門知識を持つ方たちやエキスパートが大勢います。役所で抱え込まずに、民間の専門家の方々の協力を得て取り組むことで、よりスピーディーに的確に仕事を進めることができます。

 このテーマをとりあげるのは2回目となります。(「縦割り」から「横つなぎ」へ2014年6月3日)<世田谷区役所では今年度から「領域連携課長」が7人生まれました。別名マッチング課長です。それぞれの領域・所管で抱える仕事を横断的につなぎ、経験や技術、手法などを組み合わせることで、より大きな効果を生むことを意識して仕事を進めていく役割です>

 当初、マッチング課長が集まって議論したのは、互いの領域や所管を超えた協力のあり方や、具体的な手法についてでした。議論の結果、「モデル候補」をあげて、具体的な事業の進展をとりまとめ、冊子にして刊行するというアイデアでした。

 そして今年2月、「マッチングによる政策の推進 マッチングレポート第1号」(世田谷区役所政策経営部) ができあがりました。12ページ以降に具体的事例として、「地区に根ざした地域包括ケアシステムの推進」「防災まちづくりの推進」「空き家・空き室の地域貢献活用」と報告が並んでいます。

 限られた力を有機的に結合し、もっともしなやかで強くチーム力が発揮できる仕事のかたちをつくりあげていきたいと考えています。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03~05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。

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