東京の台所

特別編<1> 取材はいつも崖っぷち

  • 連載100回記念対談 平松洋子×大平一枝
  • 2015年4月22日

平松洋子さん(左)と大平一枝さん(撮影 石野明子)

  • 平松洋子さん(左)と大平一枝さん(撮影 石野明子)

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 &wの人気連載「東京の台所」が100回を数え、同名の単行本も出版された。これを記念して、筆者の大平一枝さんが、世界各地の食文化を取材するなど「食」をめぐる著書も多いエッセイストの平松洋子さんを迎え、「台所と暮らし」をテーマに対談した。その内容を再構成して5回にわけてお届けします。(構成 古川雅子)

    ◇

大平一枝 台所に目を向けたのは、出版社の編集者から「人の台所を撮り歩くのはどうでしょうか」と提案されて、おもしろいなと思ったのが最初です。「誰が撮るの?」と聞いたら、「大平さんですよ」というので、「えっ!? カメラを触ったことないのに」って。それで、カメラを買うところから始まったんです。その後、朝日新聞デジタルで「&w」というウェブマガジンが創刊されることになったとき、「東京の台所」というタイトルで連載することになったのです。

平松洋子 私も時折、読ませていただいておりました。私は読者でありつつ、同じ書き手でもあるので、ここまでこぎ着けられたことの大変さを思います。このクオリティーで毎週、100回もよくぞ、と。

大平 100回分を見渡してみると、ざっと六つのカテゴリーに分けられたんです。多かったのが、手を加えながら暮らす「長屋古民家DIY系」。それから、「分譲マンション」「新築の戸建て」「一人暮らしのワンルーム」ですね。あと、「おしゃれ賃貸」というのもありました。東京R不動産のようなサイトで紹介されていそうな。それと、一番多いのが「普通のマンション、アパート、団地」でした。

平松 東京ならではの分類ですね。例えば、「おしゃれ賃貸」なんて。「東京」の「台所」というように対象を限定したことで今の東京の姿が見えてくるというのが、とても興味深いです。

大平 「東京の台所」から二つの側面が見えてきました。一つは、実家から出てきた方々の、地方暮らしの片鱗です。おしゃれな賃貸に住んでるんだけど、醤油だけは九州の実家から送られてきた甘い醤油じゃないとだめ、とかね。

平松 広島の方なら、絶対「おたふくソース!」とか。

大平 そうそう。もう一つは、もともと東京に生まれ育った方ならではの物語です。相続で土地を手放さざるを得ないとか、おじいちゃん、おばあちゃんの面影がある家とか。

平松 そこにずっと住んでいる人もいれば、どこからか東京にやってきて住んでいる人もいる。自分の生まれ育った土地のバックグラウンドを台所は持っている。そういう特性が「東京の台所」というテーマの中にはありますね。

大平 取材では、初対面にもかかわらず、お宅にずかずかと入っていって、「とりあえず台所を見せてください」って言うんです。入っていくと、そこにおたふくソースがあったりして、「これ、なんで? 広島出身?」という話になったり。台所っていう切り口は、いろいろな段取りを飛ばして、図々しく相手の心の中に入ることができる。相手からすれば、トイレとか、下着の引き出しをのぞかれるような(笑)。

取材の入り口は「とりあえず台所みせてください」

平松 取材と撮影はどんなふうになさいましたか? まずアポイントを取って、お宅に伺ったらピンポン。そのあとは?

大平 カメラの機材が半端じゃなく多いんです。ある夏の日に、ノースリーブでカメラリュックを背負っていて、ふとガラス越しに自分を見たら、「この光景、裸の大将じゃん!」って。それからは、ゴロゴロ転がすキャリーケースに変えたので、ピンポンしたら、まずこの「ゴロゴロ」を置く場所を確認します。玄関にあがって座っちゃうと和んじゃうんで、まず「台所を見させてください」って言って撮影をします。

平松 お話をうかがう前に?

大平 はい。メモをしていない時に大切な話をされてしまうともったいないので。そして、アンケート用紙を渡して書いてもらっている間に、撮影します。

平松 いろいろな工夫が隠されている。

大平 一人で動いていて、もう、家内制手工業のような状態なので(笑)。アンケートでは、質問を数個。「いつも食べる朝食は?」とか、「この台所の不満な点は?」とか「間取りは?」とか。それを書いていただいている間に、バシバシ撮って。

平松 私、写真は撮れないんですけど、例えば生産者の方たちに取材させていただく時に、やはりその場所が持っている意味合いは何かというのを考えるんです。まず取材者としての自分の態度、立ち位置みたいなものを決めなくちゃいけない。でも、今うかがっていると、(大平さんは)ともかくファーストインプレッションというか、もうバッと見て「ここだな」というのをいきなり決めていて、そこはかなり大胆というか。

大平 そうなんですね。

平松 すごいですね。それにしても、一度の訪問で写真の撮影も取材もって、本当にこれは大変なことですよ。

大平 取材対象者にアンケート書いていただいている間に、撮影を済ませ、カメラを片付けて画像をパソコンに取り込むところまでやってしまいます。そこから、写真に写っている物についての説明を聞いていくんです。これはどこそこで買ったものだとか、切らしたら困るものは何かとか。全部聞き終わったら、パソコンを閉じて、今度はノートを出して取材したことを書きとっていく。起承転結の結は何にしようかなんて思考をめぐらせながら聞いていくと、だんだん集中力が途切れて、頭が回らなくなる(笑)。

平松 玄関でピンポンして、家を出るまで、平均で何時間ぐらい滞在するんですか?

大平 1回の訪問はだいたい3時間までと決めています。相手の方が働いていらしたりすることもあって、だいたい取材は土曜か日曜を指定されるんですね。そうすると、週末の限られた時間のなかで、1日に2件は取材しないとまわらない。撮影と取材は2時間半ぐらいで切り上げて、残りの30分でお茶している間にいい話ができたりもするので、その30分も込みの3時間です。

平松 取材って、ある意味では、いつも崖っぷちですよね。

大平 まさしく、いつもそうです(笑)。

2回目につづく

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平松洋子(ひらまつ・ようこ)
1958年、岡山県倉敷市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。アジアを中心として世界各地を取材し、食文化と暮らしをテーマに執筆活動を行う。2006年『買えない味』でドゥマゴ文学賞受賞。12年『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞受賞。近著に『今日はぶどうパン』(プレジデント社)、『いま教わりたい和食 銀座「馳走そっ啄」の仕事』(新潮社)など。最新刊に『洋子さんの本棚』(小川洋子との共著・集英社)。


◆「東京の台所」が1冊にまとまり、平凡社から出版されました。購入はこちらから

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。ホームぺージ「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

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