東京の台所

<101>23歳。女性3人の快適シェアハウス

  • 文・写真 大平一枝
  • 2015年5月13日

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・23歳
 賃貸マンション・3LDK
 有楽町線 豊洲駅(江東区)
 入居1年・築年数8年
 同居人(会社員・女性・23歳)、同居人(会社員・女性・23歳)の3人暮らし

    ◇

 社会人2年目。広島、福島、茨城出身の大学の同級生女子3人で、卒業の半年後、シェアハウスに住みはじめた。あらかじめシェアハウスとして整えられた建物ではなく、3LDKの賃貸マンションを、互いに知恵を出し合い工夫しながらシェアしている。

 そのつながりあいかたが、べたべたしすぎず、でもドライすぎず、ちょうどいい塩梅(あんばい)で、じつに上手だ。互いにストレスをためず、快適に暮らすしかけがたくさんある。

 まず、お金のことは最初にきっちり決めた。窓やクローゼットのあるなし、向き、広さ、隣同士かどうか、細かい条件を確認しあって、3部屋の家賃に数千円ずつ傾斜をつけた。

「やっぱり共同生活はお金のことが大きいですから。要望はシビアに言い合って、互いの納得する金額にしたのが良かった。テーブルやソファなど共有で買った家具は、退去の時に売って分配すると決めています。旅行など3人で遠出するときはレンタカーにしたり、近場の買い物は、マンションの敷地内にあるカーシェアを利用したりします。公共料金はワリカン、味噌など共有の食材を立て替えたときは、レシートに印をつけて月末に精算します」

 食事は各自別々なので、肉や野菜などの生鮮食品は個人で買い、にんにくのチューブや醤油など「冷蔵庫に二つあると変だよね」というものは共同購入にしている。ダブると場所をとる卵と牛乳も共同購入だ。

 女性なので、洗剤、柔軟剤、シャンプー、リンスなどこだわりのブランドが異なる。そういうものは3人別々に用意し、収納場所も分けている。

 精算日の締めきりを守る。洗面所に落ちた髪は片付けるといったソフト面での約束事はルール化せず、暗黙の了解事項にしている。それでも、生活習慣が違う大人3人が一緒に住めば色々ある。住人は言う。

「気になることをいちいちルール化せず、気がついたときに、あそこ片付いてなかったよ~とさらっと言うのがあとにのこらず一番いいですね」

 台所、洗面所、リビングに居室。ファミリータイプなのでそれぞれ広々としている。仕事場にも電車1本で行ける。「一人暮らしならとてもこんないい立地で、広いところには絶対住めない」と、彼女たちは口をそろえる。一人暮らし時代より家賃の負担額は約2万円下がったらしい。

 良いことづくめのシェアハウスだが、誰もがうまくいくとは限らない。その点、3人は、よくぞと思うほどシェアハウスに必要な共通の要素が重なっている。

 まず、全員料理が大好きであるということ。
「だからワンルームで一口コンロのキッチンが不満でした。私は1口では足りず、電気コンロを足して使っていたほど。3人それぞれに“広い台所が欲しい”というのが、シェアハウス開始の大きなきっかけになっています」

 同じ大学の経済学部出身。1年生の英語クラス時代からの仲良しで、この部屋も「英クラハウス」と呼んでいる。LINEのグループ名も、レシートを貼り付ける会計ノートの名も見せてもらったら、「英クラハウス」だった。

 就職した会社が、広告代理店、出版社、テレビ局の関連会社で、偶然マスコミだった。おまけに3人とも乗り換えなしの電車1本で会社まで行ける。誰か一人でもとんでもなく会社から遠かったら、シェアハウスは成立していなかったかもしれない。

 彼女たちの話を聞いて、食にまつわる嗜好が似ているのは、シェアハウス成功の鍵であると実感した。3人ともインスタントのだしが苦手で、かつおやこんぶからちゃんととる。コンビニ食やできあいの食品より、疲れていても自分の作ったものを食べたい派。そして酒が好き。これは大きい。

 かといって、学生時代のようにべたべたと一緒にいるわけではない。げんに、テレビ関連の仕事をしている同居人は、離島に行ったまま帰ってこないことや深夜帰宅も珍しくないという。ふたりは、心配顔で話していた。

「4月から激務で、まともに顔を見てないよね。料理が好きなのに、あんまり台所にも立ててないみたい」

「あの子、最近インスタント系が多いみたいよ」

「そういわれればそうだね。だいじょうぶかな」

 合コン、飲み会、ローマへの卒業旅行。学生時代は楽しいことだらけだった。社会に出て間もない今は、仕事でままならないことの連続である。

 ある晩、同居人のひとりが「会社に行きたくない」と泣き出した。翌日、会社から帰宅するとケーキと花が置いてあった。翌々日は、“元気出してね”という手紙とアイスクリームが。

 きらきら輝く青春時代から、苦さや、自分のふがいなさや、ときにやりきれない思いと闘う社会人の生活へ。大海に小さな船でこぎ出した住人にとって、この家の仲間はどんな存在なのか。
 その答えに、シェアハウス最大のメリットがつまっていた。

「帰るとほっとする家族のような……、仕事で同じようなことで悩み、愚痴を言い、励まし合う戦友のような……そんな存在です」

>>つづきはこちら

(次回は5月27日に掲載の予定です)

◆「東京の台所」が1冊にまとまり、平凡社から出版されました。購入はこちらから

東京の台所 取材協力者募集

[PR]
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

&wの最新情報をチェック


&wの最新情報をチェック

Shopping