東京の台所

<105>台所をモノであふれさせない極意

  • 文・写真 大平一枝
  • 2015年7月8日

〈住人プロフィール〉
主婦・36歳
分譲マンション・3LDK+土間・西武新宿線 武蔵関駅(練馬区)
築年数34年・入居3年・夫(36歳・会社員)、長男(3歳)との3人暮らし

    ◇

 夫は雑誌をよく読む人で、ひとり暮らしの頃からアンティークショップでソファを買うようなモノ好きのこだわり派だ。妻もかつては雑貨店に勤務していたこともあり、雑貨やインテリアには一家言ある。

 そんなふたりが結婚し、賃貸暮らしをするなかで次第に実感するようになった。
 「部屋のスペースには限界がある。管理しきれないと、部屋ってモノがあふれて汚れていくんだな」

 汚れる、という状況について彼女はこう説明する。
 「たとえばアクセサリーもしまいこんで忘れていると、さびたりベタベタしたり艶(つや)がなくなっていたりしますよね。持っているという安心感はあるけれど、使わなければ意味がない。存在を忘れてしまい込むよりは、つねに使うモノだけ持つようにしたほうがいいなって気づいたんです」

 台所も同じだ。野菜も器も使い切れないほどは持たない。器は、客用とふだん用が兼用だ。

「そのうち年齢を重ねたら価値観も変わり、お客様用も欲しくなるかもしれませんが、今はこれでいいなと。その分、普段から少しいいモノを使うことになります。いいモノを少しずつ増やせていけば良いなと思うのです」

 スーパーでは、毎日、その日食べる分の食材だけを買う。
 「冷蔵庫に見えなくなるまで入れたくない。奧から賞味期限切れの食材が出てきて処分するのがいやなので、そこまで持たないようにしようと心がけています。だから米と水とビール以外は買い置きをしません」

 その日食べる分を買う、というルールは徹底していて、毎朝家族でりんごを食べるが2個は買わない。毎日1個ずつ買いにいく。近所にはスーパーが数軒ある。

「その中に、カードで買うとポイントが貯まるひときわ大きな店があるのですが、あるときからそこで買うのをやめました。つい買いすぎてしまうからです。ポイントのためにひとつのところで溜(た)め買いしたりせず、子どもの習い事の送迎や外出の帰りがけに寄れるあちこちの店で、現金で買うようにしています」

 3年前、古いマンションを購入し、フルスケルトンでリノベーションした。スッキリ暮らしたいので、越してからさらに、できるだけモノは少なく、シンプルを心がけるようになった。

 靴やデニムや自転車など、モノの手入れが好きな夫も同様だ。以前は捨てられない人だったらしいが、今は“自分が手入れできるモノだけ”持つようになった。お気に入りでも、奥にしまい込んで使わないようなモノは売ったりして処分する。

 モノが好きなふたりは、欲しいから、好きだからという理由でやみくもに買っていた時代があったからこそ、今、持たない大人のかっこよさに気づいたのかもしれない。

 南から北に風が通り抜ける。リビングダイニングには、風を遮るよけいなものが何もない。風通しがよい空間作りをするには、少しの工夫と心がけが必要である。それは、なんでも少なめに、目に届く範囲の定量を持つということ。さらりとやっているように見えて、これってけっこう難しい──。

つづきはこちら

東京の台所 取材協力者募集

[PR]
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

&wの最新情報をチェック


&wの最新情報をチェック

Shopping