ワインのおはなし

<インタビュー>数学とワイン、どちらも大好き 杉山明日香さん

  • 写真 興村憲彦
  • 2015年7月30日

杉山明日香さん

  • 杉山明日香さん

  • 『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座
    ワイン地図帳付き〈2015年版〉』(リトルモア)

 有名予備校の数学講師であり、ワイン輸入会社やワインレストランも手がける——。“数学とワイン”という二足のわらじを履いて生きる杉山明日香さんは、いまワイン通には知られた存在だ。料理家の飯島奈美さん、生物学者の福岡伸一さん、写真家の川内倫子さんらも杉山さんを慕って集まる。杉山さんって一体どんな人……? 8月6日から始まる新連載「ワインのおはなし」を前にお話をうかがいました。

   ◇

――杉山さんは、有名予備校の数学講師として、東大進学クラスなどを担当する一方、ワイン輸入業やワインレストランのプロデュースも手がけ、ワインスクールまで主宰しています。受講者のソムリエ試験合格率は90%以上で、昨年出版された『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座2014年度版』(リトルモア)では、担当編集者がゲラを読んだだけで一発合格してしまったとか。

 そうなんです。私、教えるのが得意なんです。おせっかい体質なんですね(笑)。この人はいま何を求めているのか、私ができることは何かと考える癖が小さい頃からついちゃってて、すぐわかる。友人で写真家の川内倫子さんには、「ナチュラル・ボーン・ティーチャー」って呼ばれています。生まれながらの先生だって(笑)。

――大学時代は売れっ子家庭教師だったそうですね。

 はい。やはり理系女子って少ないから、すごく需要があって。医学部を目指すお嬢さんの親御さんは、男の子の家庭教師をつけたがらないんですよ。悪い虫は近づけたくない。で、私が教えるとすぐ成績が上がるから、評判が評判を呼んで、けっこう売れっ子だったんです。で、その報酬はすべて飲み代に使う、というルールを自分に課していました。

――え、お給料はすべて飲み代ですか?

 そうですね。いわゆる高級ブランド品などにはあまり興味がないし、お酒の世界も私にとっては研究対象の一つだったんで(笑)。大学で上京して、ハタチのときに下北沢で“一人バー”デビューして。20代前半は本当によく一人で飲みに行っていましたね。23歳くらいのときにはシングルモルトにはまって。モルトの世界もすごく奥深いんです。高いのは1本5万とか10万するじゃないですか。でもどうしても飲みたいから、他のものを我慢してでもお酒につぎ込みました。理系のオタクだから凝り性なんですよ(笑)。興味があるものに対して、異常に好奇心が強い。おいしくないお店の飲み会には行きませんでしたね。「おいしくないものを口にするなんて意味がない」とどこかで思っていましたから。

――飲み会というより、お酒が好きなんですね。

 そうですね。だから研究室の飲み会では、「2回分貯めて、おいしいものを1回食べよう」とみんなを説得して。理系の人たちって理屈が通っていれば納得してくれるんですよ(笑)。それで私がお店を選んで、おいしいものを食べにいっていました。九州の田舎育ちなので、宴会は宴会で大好きなんですけどね。

――将来、飲食の仕事をしようとは思わなかったんですか?

 まったく考えませんでしたね。大学では理論物理学を専門にしていて、20代は学問の世界にどっぷりはまっていました。将来は物理学者になるつもりだったんです。だから、お酒はあくまでもプライベートの研究対象。私、食に対して思い入れの深い家庭で育ったんですよ。唐津で育ったんですが、小さい頃から夕飯には最低2時間はかける家で、子どももそれに付き合わされたんです。母も仕事をしていましたが、どんなに忙しくても手料理が並び、器はすべて唐津焼。両親が食べ物にうるさかったから、ファストフードはおろか、回転寿しさえも連れて行ってくれませんでした。

――ワイン好きもご両親の影響ですか?

 そうですね。実はまだ高校生の頃に、両親が飲んでいたワインをちょこっと舐めたんです。そしたらものすごい衝撃を受けて。心の底から「ワインってすごい!」と思いました。熟成した美しいレンガ色で、トリュフのような香りがして……。78年の「シャトー・ムートン・ロートシルト」でした。そのときの経験は大きいですね。

――どういう経緯で、“数学とワイン”という二足のわらじになったのでしょうか?

 うちの両親はちょっと変わっていて、大学に行くときも、修士や博士課程に行くときも、二人にプレゼンしなきゃいけなかったんです。行く価値があるかどうか、授業料を払う価値があるかどうかをそこで親が見極めるんです。で、博士に行くときに、「それだけ飲み歩く暇があるなら自分で働きながら学問しなさい」と言われまして(笑)。そこで予備校の数学講師を始めました。25歳のときです。当時は最年少の講師でした。初めて教壇に立った時は天職かもと思いましたね。そのまま、学問と予備校講師の二足のわらじで博士課程を修了し、博士号取得時に、ポスドクで海外に行くか、ものすごく悩んで……。

――物理の道か、予備校講師か。

 はい。物理は本当に大好きなんですが、理論物理学って天才の世界なんです。アインシュタインとかホーキング博士とか……。私も私なりにやれる研究はあると思うのですが、「天才じゃない」というのは自分でわかるんです。そんなときに、昔から母に繰り返し言われていたことを思い出しました。

――お母様はなんと?

「なんでもいいから、人類の役に立つ人間になりなさい」と、子どもの頃から言われていました。女の子らしくあれとか、勉強をしなさいとか、そういうことは一切言わない人でしたが、唯一「人類に役立つ人であれ」と。その言葉を思い出したとき、「私は自分が研究するより、教える方が向いてる。その方が何かしら社会に貢献できるかも」と思ったんです。このまま好きな物理と心中する道もあるけど、杉山明日香として自分らしく生きていくためには、教える仕事の方がいいと思ったんです。それに、もう一つ夢があって……。60歳くらいになったら、初等教育をきちんとやる学校を作れたらいいなと。そのためには、予備校講師を続ける方がいいと思い、研究者の道ではなく、予備校講師の道一本に絞りました。それが29歳くらいのときです。

――ワインレストランをプロデュースされたのはその後ですか?

 はい、初めに東京の西麻布で「ゴブリン」というお店をプロデュースしました。お店にはソムリエがいたんですが、私もワインのことをちゃんとわかった方がいいなと思って、まずはソムリエ試験を受けることにしたんです。3日間だけ集中的に勉強して一発で受かりました。お勉強は得意なので(笑)。過去問を見て逆算し、出るところを覚えるんです。1日17時間くらい勉強しましたけどね。自分でやって試験のコツがわかったので、翌年からお店のスタッフや周りの人達に教え始めました。そしたらほとんど全員受かっちゃって。で、これはいけるなと思って、その後本格的にスクールを立ち上げました。

――それからワインと数学を教える生活になったんですね。

 数学を教えるのもワインを教えるのも、同じくらい好きでワクワクします。お食事をするとき、食材について、「これはどこ産のどういうものか」と知っていたほうがより味わえるのと同じように、ワインも、どうせ飲むなら少しでも知識があった方がずっと楽しいんですよ。だから、この楽しさをより多くの人に広めたい。ヨーロッパには、「乾杯すればするほど、幸せになる」という言葉があります。大好きな言葉です。みんなでステキな杯を重ね、人生を謳歌したいですね。

(文・宇佐美里圭)

(連載「ワインのおはなし 第1話~赤、白、ロゼの違い~」は、8月6日に掲載予定です)

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PROFILE

杉山明日香(すぎやま・あすか)

東京生まれ 唐津育ち。理論物理学博士・ソムリエ
有名進学予備校の数学講師として、主に東大進学クラスや医学部進学クラスを担当するかたわら、ワインスクール「ASUKA L'ecole du Vin」ではソムリエ資格試験対策講座を主宰する。またインポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入業や西麻布のワインバー&レストラン「ゴブリン」のプロデュースなど、ワイン関連の仕事も精力的に行っている。著書に『ワインの授業 フランス編』(イースト・プレス)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』(リトルモア)
■撮影協力:ゴブリン

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