このパンがすごい!

前人未到の領域に踏み込むクロワッサン/TOLO PAN TOKYO

  • 文・写真 池田浩明
  • 2015年12月22日

パンオショコラ

写真:パンオショコラ断面 パンオショコラ断面

写真:クロワッサン クロワッサン

写真:シナモンロール シナモンロール

写真:シナモンロール断面 シナモンロール断面

写真:フガスパクチー フガスパクチー

写真:店の外観 店の外観

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TOLO PAN TOKYO (東京)

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 クロワッサンといえば、その食感を表現する言葉は「ぱりぱり」と決まっているが、それを超えた地点に「ばりばり」がある。そうした領域に足を踏み入れるのが、TOLO PAN TOKYOのパンオショコラだ。見た目にも、一層一層がめくれ上がり、浮きまくっている。噛み破れば、ばりばりと激しく音を立てて崩壊する。まるでボテトチップスを10枚重ねて食べたかのような。そして、ヴァローナのチョコのフルーティなこと。口溶け滑らかで、フレーバー豊かで。それがバターと混じり合うのだから、巻き起こる快楽については言うまでもないだろう。

 「うちのパンオショコラはクロワッサンではなくパイ生地なんですよ」とTOLO PAN TOKYOの田中真司シェフはいう。パンオショコラは普通クロワッサンで作られる。フィユタージュ(小麦粉の生地とバターを交互に重ねて層にする)といわれる生地でも、クロワッサンはパン、パイはお菓子の範疇に属する。その境界線は、発酵させるかさせないかで引かれる。ことばりばりぶりだけを問題にするなら、発酵をさせないパイのほうが秀でている。と思った田中さんは、パンオショコラにあえてパイを使う掟破りを行った。

 「イノベーションのデパート」と私が呼ぶ田中さんは、大技小技を繰り出して、見たこともないパンを作りだす人だ。彼は新商品開発のため夜も寝ないで試作する。「こんなんできたんですよー!」とすごく楽しそうに関西弁で自慢する。虫探しに夢中になり、日が暮れても帰ってこない子供さながら。

 ばりばりにおいてパイに軍配が上がるとしたら、クロワッサンの特長はなんなのか。じょりじょり感である。薄皮が口の中で割れ、繊細に小片に分かれていくとき、皮のパウダーが歯と歯茎に絡まってじょりじょりする感覚。クロワッサンでばりばりとじょりじょりを同時に表現するという前人未到の領域に踏み込むため、ここでも常識を超越する荒技が披露される。

 TOLO PANのクロワッサンは、生地中の砂糖を減らし、その分をバターに直接ふりかけている。砂糖は水分を吸ってやわらかにする働きがある。砂糖の少ない生地は水分量が減り、ばりばりと硬くなるのだ。また、きれいな層を作るためには、発酵している間、バターは乾いてはいけないし、溶けてもいけない。冷蔵庫に入れた生地が乾きそうになったら出し、常温で溶けそうになったら入れる。これを繰り返すこと、発酵5時間のうち20回。田中さんは毎日、厨房の中を行ったり来たりして、ばりばり&じょりじょりを作りだす。

 パイ(パンオショコラ)とクロワッサンという2種のフィユタージュはアイテムごとに使い分けられる。

 パイで作られるのはシナモンロール。実に蠱惑(こわく)的なアロマをしている。シナモンが不思議なほどフルーティに香るのだ。こんなにときめかせるシナモンがあったのか、と思ったら、内部からアプリコットとドライアップルが出てきた。シナモンとフルーツの香りが相まって香りのマリアージュが起こっていたのだ。アプリコットを噛めば果汁が弾けてつんざく酸味が襲う。すぐさまアーモンドクリームの甘さがやってきてバランスをとり、まろやかにする。この、激しいのにまったりという境地もぞくぞくさせる。

 クロワッサンのバリエーションであるフガスパクチーは、本当に「すごいパン」だ。まずはばりばり感を堪能、中身ではバターがじゅるじゅる溶けて溶けまくる。バターに加え、ソーセージ、パクチー、タンドリーチキンの四つどもえ。ソーセージ+クロワッサンの相性(ソーセージクロワッサンとして親しまれる)は言わずもがな。パクチー+ソーセージの組み合わせは台湾料理テイスト。タンドリーチキン+パクチーは、スパイス感と相まって、タイなのかインドなのかベトナムなのか謎の無国籍エスニックという趣き。この四者四様の組み合わせがいっぺんに襲ってくるのだからうれしい非常事態といえる。軽々と南シナ海を越えたコラボレーションが波状的に迫りくる味覚のメリーゴーランド。バターに肉汁にとあらゆる汁がじゅるじゅる滲みだし、旨味の沼で泳ぐがごとくである。

TOLO PAN TOKYO (トロパン トウキョウ)
東京都目黒区東山3-14-3 中里ビル 1F
03-3794-7106
7:00~19:00(火休)

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)

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