このパンがすごい!

あんこ&国産小麦 新世代シェフが生む驚きのマリアージュ/カネルブレッド

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年1月19日

あんばたは十勝産あずきを使用

写真:あんばたの中を開いたところ あんばたの中を開いたところ

写真:クリームパン クリームパン

写真:平山翔シェフ 平山翔シェフ

写真:カネルブレッドオーナーの岡崎哲也さん カネルブレッドオーナーの岡崎哲也さん

写真:外観 外観

写真:店内 店内

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カネルブレッド(栃木)

 あんばたはいつだっておいしい。たくさんの砂糖に乳脂肪。やみつき要素たっぷりに、問答無用でぐいぐい迫る。そんな印象を持っていた。ところが、栃木県・黒磯駅前のカネルブレッドのあんばたにそれはあてはまらない。ソフトタッチでナチュラル。この甘いパンを国産小麦の風味で食べさせるのだ。

 あんこと麦の香りに驚くべきマリアージュがある。両者の交点に、入ってもいないクルミを思わせるコクが幻想的に出現している。自家製のあんこに豆の風味が充溢、決してえぐみはないのだ。それをますますやさしく、まろやかに引き取るバター。口の中に出現する、あんことバターの桃源郷。ぷるるんとしたパンの口当たりの気持ちよさ。あんこと触れ合ってはじめてちょうどよくなる甘さの加減に抜群のセンスを感じる。このパンを食べて、国産小麦を使った日本人のためのパンが登場したと感慨深かった。

 国産小麦新世代。カネルブレッドの平山翔さんは28歳の新鋭である。いままでの国産小麦シーンは、硬いパンとふわふわのパンとのあいだで堂々巡りを繰り返してきたように見える。小麦の香りをダイレクトに出そうとするなら、副材料を入れない硬いパン「ハード系」が有効だ。でも、日本人にとってしばしば食べにくく、「外国のパン」とみなされてしまう。一方、食パンに代表されるふわふわのパンは食べやすいけれど、砂糖や油脂など副材料が入っているし、エアリーでありすぎて麦の香りが薄れ、国産小麦らしい風味が感じられにくい。

 硬いパンかふわふわのパンか。解けないジレンマを平山さんは簡単に飛び越える。食べやすくて、小麦を感じるパン。国産小麦は製パン性が悪いといわれてきた。でも、平山さんはそんなパンの世界の常識にとらわれるには、あまりに若すぎたのだ。彼がパンを作りはじめたとき、国産小麦は品種改良や製粉技術の進化によって、輸入小麦とほとんど遜色ないステージにたどりついていた。彼は国産小麦をごく自然に使いこなす。そのフレーバーを巧みに活かして。

 フォカッチャ。そう名づけられているものの、これは日本の新しい食事用パンの誕生である。やや引きのある薄皮に麦の香ばしさ満ちている。対して、潤いあふれやわらかな中身はオリーブオイルの風味を放ち、粒のオリーブの酸味や旨味と合流し、両者の相乗効果でオリーブフレーバーを増幅させ、食べ手を狂わせる。後味に小麦の繊細な風味。一方で、オリーブの旨味は皮の香ばしさへと延焼、マリアージュは連鎖しつづけ、さらに麦の甘さまで呼び込む。

 クリームパンに桃のようなフルーティさを感じるのはすごく不思議だ。一体どんな手を使っているのか。バニラを入れずにクリームを作って、奄美諸島産の素焚糖の香りを最大限に活かしている。それが、パンの中の焦がしバター、黒糖とハーモニーを奏でるのだ。そして、パン常識の禁じ手を犯し、大きく開けた空洞。そのためにパンはたわんで、上の皮と下の皮がくっついた瞬間ぷるんと跳ねて弾け、その上とてもなめらかに溶ける。そこから流れ出てくる麦の香りが、クリームと溶け合って、フルーティの加勢をするのだ。

 北海道まで開通した新幹線を下車しても食べたいパン。いや、そもそもそんな遠いところになんか行きません、という方へ。1月20日~25日まで、銀座三越7F催物会場で行われる「ぎんざでパンとコーヒー」にカネルブレッドは出店する(私が代表を務める新麦コレクションのプロデュースによる)。よかったら足を運んでみてください。

カネルブレッド
栃木県那須塩原市本町5-2
0287・74・6825
8:00~18:00(火休)

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)

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