このパンがすごい!

ここはパリ!? 店舗にパンに、あふれるフランス愛/ぱぴ・ぱん

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年2月23日

ピスタチオ・ショコラ・クロワッサン・オ・ザマンド

写真:ブリオッシュ・ショコラ・オランジュ ブリオッシュ・ショコラ・オランジュ

写真:外観 外観

写真:店内風景 店内風景

写真:笠間けんせいシェフ 笠間けんせいシェフ

写真:バゲット バゲット

写真:店内風景 店内風景

写真:パン・オ・レザン パン・オ・レザン

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ブランジェリーぱぴ・ぱん(愛知県)

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 名古屋にフランスがあった。市営地下鉄の階段を上がって少し歩いたところ、普通の町中に、突然フランスが見えてくる。緑色の外壁とドアノブ、「Boulangerie」(ブーランジュリー)と筆記体の看板。さりげなく置かれた、JOKERのジュースや、ヌーヴェルヴァーグの映画に出てくるような大きな瓶に入った牛乳。そして、なんといっても、対面販売であること(客がトレイを持ってパンを取るのは日本流の習慣)。パンの入った木製のショーケース(背の高さもフランスのそれのようだ)の向こうから元気よく店員さんが呼びかけてくる。「いらっしゃいませ」を「Bonjour」(ボンジュール)にすれば、そのままパリのパン屋になりそうだ。

 ケースの中のパンの顔。パン・オ・レザンのぐるぐる渦巻や、りんごのタルトの硬く厚めのパートシュクレ(タルト生地)がいかにもブーランジュリー。サービス精神旺盛なこのパン屋にはあんぱんだってクリームパンだってあるし、そもそもこんなに目移りするほどのパンはフランスのパン屋にはめったにない。でも、笠間けんせいシェフのあふれるフランスへの愛がそうさせるのだろう、フランスになさそうなパンでさえ、とてもフランス的なのである。

 ピスタチオ・ショコラ・クロワッサン。クロワッサン・オ・ザマンド(アーモンドクリームを塗って二度焼きしたクロワッサン)にチョコまで入っていることさえ贅沢で罪悪感を感じるのに、さらにピスタチオまでかけている。そんなゴージャスなクロワッサン・オ・ザマンドがフランスのパン屋にあるかどうかわからないけれど、チョコにピスタチオという濃厚な組み合わせはいかにもフランスである。表面近くで焼けたアーモンドクリームがかりかりしたあと、シロップに浸かってしっとりとした層を前歯が何枚も噛み破る食感に歓喜し、ようやく口溶けのいいチョコにたどり着き、めくるめくマリアージュが発動する。

 ブリオッシュ・ショコラ・オランジュ。ココア入りのブリオッシュが舌にからみつくほどねっとりと。さらにチョコチップまで混ぜ込まれていてWカカオ攻撃を仕掛けてくる。2つの微妙に異なるカカオ感が混ざり合う興奮。それだけでは終わらず、生地にはオレンジピールとマーマレードのダブル柑橘が埋め込まれていて、甘酸っぱさとほろ苦さに襲われチョコレートの甘さとの間で引き裂かれるようなマリアージュを引き起こす。このオレンジとチョコレートという組み合わせも、フランス人の大好きなド定番なのである。

 笠間さんは2年以上に渡ってフランスで修業をした。インターネットも普及しておらずいまよりずっと情報が不足していた1990年代の終わり。あんな遠くまで旅をするのはやむにやまれぬなにかに突き動かされてのことにちがいない。

 「本物のパンを食べてみたい。そう思ってフランスに行ったんですが、バゲットを食べてものすごく衝撃を受けて、目覚めた」

 日本ではまだフランス直輸入の小麦で本場仕込みのパンを焼く渋谷のVIRONが開店していなかった時期。まだ珍しかった、微量のパン酵母(イースト)で長時間発酵させるバゲットのレシピを師匠の店から持ち帰った。いまもそのレシピを変えることなくバゲットは作られる。

 バゲットの皮を噛み破るとき。ばりばりと大音響が鳴るたび快感が走り抜ける。炎のイメージが思わず頭に浮かぶような独特の香ばしさ。中身はほのかに甘く、そして甘すぎず清らかである。中身には、皮の硬さとは反対のしっとり感がある。やたらと濃厚にするのではなく、むしろ日常の中で食事とともに食べられるバゲットだと思った。それはまさにフランスでのバゲットというパンの立ち位置そのものなのである。

ブランジェリー ぱぴ・ぱん
愛知県名古屋市天白区植田3-1209-1サンテラスタカギ1F
052・808・7539
8:00~19:00(日・隔週月休)

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)

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