このパンがすごい!

甘さの裂け目から素材の味 姉妹が作るツンデレなパン/cimai

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年3月16日

黒糖くるみ(左)とカンパーニュ

写真:2種類の食パン 2種類の食パン

写真:黒糖くるみ 黒糖くるみ

写真:対面式の売り場 対面式の売り場

写真:ライ麦チョコレート ライ麦チョコレート

写真:フルーツパン フルーツパン

写真:外観 外観

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cimai(埼玉)

 

cimaiはツンデレである。桜並木の道に忽然と現れる白いキューブ型の店舗も、ナチュラルな木のテーブルや作家ものの器で飾られたインテリアも、あまりにハイセンスなので、ツンツンしたパン屋ではないかと少し心配になる(まったくの杞憂だけれど)。なにより、パンのうつくしいフォルムや焼き色が近づきがたい美意識を感じさせるのだ。でも、大きなカンパーニュやハード系の一見硬そうなパンも、一度食べれば、そのやさしい味わいや食感に驚くことになる。

 代表的なデレデレパンは、黒糖くるみである。まず香りに圧倒される。くるみは香ばしく、黒糖もおだやかな甘さ以上に香り豊かに感じさせる。発酵種のかすかな酸味が甘さの輪郭をくっきりと描き、両者をまとめあげるのだ。いちばんのデレデレポイントは食感と溶け味。いかにも食べやすいふわふわなパンとはちがい、麦をそのまま固めたみたいに身の詰まった、味わいの濃厚な生地はしっとり、ぷにゅっとして、歯にくっつきさえする(餅玄米が入っているせいでもある)。それが口の中ですぐさまとろとろに変わり、麦のジュースをほとばしらせる。黒糖の甘さがあいまったその味わいは、黒糖蒸しパンを思いださせてなつかしく、そのやさしい魅力の前にデレデレと完全降伏せざるをえない。

 cimaiはその名の通り、二人の姉妹の店である。姉・大久保真紀子さんは自家培養した発酵種からパンを作る。私は驚く。硬くて重いというイメージのある発酵種を使い、なんとやさしい溶け味のパンを作ることかと。パン酵母(イースト)のようにはふくらみきれず素朴な風合となり、また複雑な発酵のフレーバーによる風味のゆらぎが、食べる人をほっこりデレデレな気分に誘っている。

 スライムみたいなかわいい形をした、ライ麦チョコもそのひとつ。黒糖とくるみにつづいて、なんと心打つ素材の組み合わせか。ライ麦もちと呼びたいほどにむにゃむにゃもっちりとして、そこから見事にとろけてくるライ麦とビターなチョコレートがほろ苦い風味において響きあうのだ。甘さ控えめなチョコレートが、かえって麦の甘さを逆照射し、めくるめくデレデレの世界へ連れ去るようだ。

 cimaiの姉妹は、それぞれにパンを作り、特に申し合わせてはいないというけれど、どのパンも共通の美意識に貫かれているように思える。そのひとつは甘さが控えめなこと。それは味わいに上品な印象をもたらすとともに、甘さの裂け目から素材そのものの味わいが流れこんでくるように感じさせる。

 cimaiの妹、パン酵母で作る三浦有紀子さんのあんばた。このパンに関しては、ツンデレどころかデレフニャである。私はあまりに骨抜きにされているので、姿を見かけただけでデレデレフニャフニャとなってしまう。コッペパンの中に自家製のあんこ。そして、バターは塗らず、スライスしたものをはさむ。豆の素材感を活かしたあんことバターが口の中ではじめてまぶされ合い、溶け合い、ミルキーな生地と一心同体になっていく。油分にのって舌に滲み入り、あんこの甘みが味覚を揺すぶって全身を駆け巡るとき、身震いするような官能が訪れる。

 そのとき、気づく。cimaiのパンが見せるうつくしいたたずまいは、姉妹のパン職人がストイックにパン作りをつづけることの証なのであり、それは食べる人の心をやさしくとろけさせるために行っていることなのだと。

cimai(シマイ)
埼玉県幸手市幸手2058-1-2
0480・44・2576
12:00~18:00くらい(不定休)

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)

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