このパンがすごい!

世界のおいしさをサンドするサードウェーブの旗手/ジャンゴ

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年4月12日

焼き鯖サンド

写真:外観 外観

写真:サンドイッチが並ぶ魅惑の冷蔵ケース サンドイッチが並ぶ魅惑の冷蔵ケース

写真:ポルケッタサンド ポルケッタサンド

写真:カジキマグロの竜田揚 カジキマグロの竜田揚

写真:ジャンボン・フロマージュ ジャンボン・フロマージュ

写真:店内 店内

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ブーランジェリージャンゴ

 サードウェーブサンドイッチ(*)の震源地。パン屋の冷蔵ケースの中身といえば、卵サンドにハムキュウリ。そんな三角サンドの旧態依然を打ち破る革命の火の手は、練馬区江古田から上がった。先日この欄で紹介したパーラー江古田、そしてブーランジェリージャンゴがムーブメントを牽引(けんいん)する旗手である。

 ジャンゴの冷蔵ケースを覗(のぞ)くとそこは憧れの世界。どこぞのビストロやワインバーの一皿をパンにはさんだかのようなサンドイッチが並ぶ。フレンチやイタリアンの技法を参照しつつ、自分の食べたいものを自由に、日本にあるおいしい素材から作りだす。まさに、2010年代のパンシーンに燎原(りょうげん)の火のごとく燃え広がる「サードウェーブサンドイッチ」の精神を体現するものなのである。

 焼き鯖(さば)サンドの興奮。ガーデニングか花屋の店先よろしく、こんもりとしたパセリが4個、トマトの色合い、焼き鯖の身とともに覗いている。飾りじゃないのよパセリは。もうもうと煙を立ちのぼらせたにちがいない焼き目の放つ香ばしさが、パセリの鮮烈な苦みと渡り合って見事に昇華する。レモンゼストの酸味できりりと締められつつ、鯖の脂がじゅわっと滲(にじ)んで甘み、旨味をあふれださせる。ふりかかるトマトの果汁はサバに対する天然のソースとなる。

 ジャンゴの川本宗一郎シェフ。人は彼のことを「異端のパン職人」と呼ぶ。東京のちょっと外れで、他の誰も作らないようなマニアックなパンを厨房に籠(こも)ってこつこつ紡ぎつづける。だが目線はグローバル。父の転勤に付き従ってブラジル、フランスを転々とした生い立ちが、川本さんを並外れたグルメにした。彼の作るパンは世界各地のおいしいものの記憶から生みだされるのだ。

 ポルケッタサンドの熱狂。焼豚的なぷるぷる物体(これこそがポルケッタである)がとろりとろけて、これでもかと、脂と旨味を滲みださせて食べる者をふにゃふにゃにしてしまう。雪のようにかけられたパルメジャーノ(チーズ)が、イタリアの香りをふりまき、ポルケッタから手なずけられないほどの獣の香りを引き出している。

 カジキマグロの竜田揚の純情。パンをパープルに染め上げるほどの強烈な焼きなすパワー。そこから放たれる甘い汁がカジキの乾いた身に滲みこみ、想定外のマリアージュを引き起こす。竜田揚げの甘酸っぱいタレの代わりのバルサミコが魚の味に奥行きを与えている。マグロの身、なす、そして大葉とすべてが平べったく、これも平べったく作られたチャバタのベッドで同衾(どうきん)している。だから、それらにスクエアにすんなりと歯が入っていくことで、飛び散る汁が混ざり合い、このマリアージュは生まれるのだ。

 ブリオッシュサンドの優雅。上記三つはチャバタを使ったサンドイッチだが、これはブリオッシュに変わっている。1袋に2種類入っているのが贅沢(ぜいたく)である。グリーンリーフ・ロースハム・エメンタールの組み合わせと、ロースハム・カマンベールの組み合わせ。バターと卵を使った甘い身とチーズがミルキーにとろけあって、ハムの塩気と肉味をまろやかに包み込んでしまうフレンチな上品さに出会うたび、私の脳裏に一幅の絵が自動再生される。マネの『草上の昼食』である。敷物を広げ、ワインを開けて、寝そべり、歓談に興じるブルジョワジーたちの食べ物は定かではないけれど、きっとこんな味のものにちがいないと思う。晴れた日はジャンゴでサンドイッチを買って、ワインを持って公園に行ってみたら幸せにちがいない。

*…ファーストウェーブ=なつかしの伝統芸・三角サンド。セカンドウェーブ=フランスのカスクルート、NYのベーグル、イタリアのパニーニなど世界のお手本を忠実に再現。そして、サードウェーブは、若手の職人たちが近年次々と登場し作りはじめたオリジナリティあふれたサンドイッチのことである。

ブーランジェリージャンゴ
東京都練馬区栄町17-3 水入ハイランドマンションB 1F
03・3994・7800
9:00~19:00(月・第1,3,5火休)

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)

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